奈落24(迷いの森11)
「なあ権兵衛、俺はいつになったら地上に戻れるかな?」
知らねーよそんなこと。
少なくとも、森のモンスターには勝てるようになれよ。話はそれからだ。
「分かっちゃいるんだけどなぁ。何だよこの森、魔物強過ぎじゃねーか」
それでも倒さなきゃ、地上に戻るなんて夢のまた夢だ。
今はナナシを連れて、森のモンスターと戦わせている。
森のモンスターの中でも、最弱の猿のモンスターを一匹だけ残して全滅させて戦わせてみたのだが、残念ながら惨敗だった。
奈落にいるモンスターは、最弱と言えども、プロの探索者程度では太刀打ち出来ない力を持っている。
猿のモンスターは木々を伝い移動し、集団で獲物を襲うが、その一体一体が弱いという訳ではない。
ナナシの攻撃は掠りもせず、猿の長い爪に引き裂かれて腕が飛び、体に受けた傷は内臓に達していた。治癒魔法がなければ死んでいただろう傷だ。
勝利した猿を始末して、ナナシの傷を癒したが、アッサリと負けたのが余程ショックだったのか、遠い目をして冒頭の台詞を口にしていた。
残念ながら、今の実力では一生掛けても無理である。
湖のモンスター除けの効果範囲から出れば、ナナシは秒でモンスターの餌になる。本人の希望もあったが、それを教える為に、モンスターと戦わせてみたのだ。
これで、無為に屋敷から出て行っても、無駄死にするだけだと分かっただろう。
ナナシには焦りの気持ちがある。
仲間がどうのと言っていたので、それが関係しているのだろう。気持ちは分かるが、焦っても何も解決はしない。
今は少しでも力を付けるしか道はないのだ。
「なあ、どうやったら権兵衛みたいになれる?」
俺みたいに? あははは!やめとけやめとけ、下らない人生だぞ。自分で言うのも何だが、何度も死にかけるし、今考えると自我が保ててるのが不思議なくらいだ。それくらいイかれた経験積んだ結果が俺だ。
馬鹿なこと考えてないで、自分の道を行け、ナナシ。
「……」
倒れているナナシは無言で空を見ていた。
それから、森の中をどんなモンスターが出現するのか説明しながら進む。
モンスターとの戦闘は俺が担当しており、ナナシは最初のモンスターとの戦い以降、自分から戦うと言い出す事はなかった。
強くなるのを諦めたのかと言うと、それも違う。
俺の戦い方をジッと観察しており、何かを得ようと必死に注力していた。
「俺の親父はさ、凄い人だったんだよ」
突然、そう切り出したのはナナシからだった。
森の案内も終わり、屋敷にも近く周囲を警戒する必要もなくなり、気にせず話を聞くことにする。
「昔から探索者やっていてよ、最強の探索者って呼ばれる人だったんだ」
そうか、最強ってからには凄いんだな。
自慢げなナナシだが、それとは相反する悲しそうな表情をしていた。
「でも、死んじまった」
……そうか。
「もう、かなり昔の話だがな。迷宮を探索している最中に強力な魔物が現れたみたいでさ、仲間を逃がす為に囮になったんだと。それで、仲間が助かればまだ救いはあったんだがな、殆ど助からなかった」
……。
「無駄死にだよな、一人で逃げれば良かったのによ。って、ずっと思ってたんだ。でもさ、いざ自分が似たような状況に陥ると、同じ行動をしてんだ」
立派じゃねーか。
「だよな! 無駄死にだろうが、仲間を見捨てるなんて俺には出来ない。親父も同じ気持ちだったんだろうなって考えたら、誇らしく思える。あの人の息子に生まれて良かったってな」
そうか。
「権兵衛は親父に似ている」
お前の父親なんて嫌だわ。
「うるせー、話聞けって。てか、別に父親求めてねーよ。 あのな、チビもあんたの背中見て育ってるんだ。息子か娘か分からないが、間違えないように立派に育ててやれよ」
いや、俺、あいつの父親じゃないし、親ちゃんといるからな。つーか、背中に翼生えてるんだから種族が違うだろうが。
「はあ? じゃあ何で育ててるんだよ」
そりゃ、赤ん坊が森に置き去りにされてたら拾うだろう。今は、チビの親が迎えに来るのを待ってるんだ。
「それでも、育ててるんだろ。じゃあ、権兵衛が父親で間違いない。血の繋がりなんて関係ないんだよ」
何でそうなる?
「チビは権兵衛を親と思ってる。それは間違いない。だからあんたが親だ。迎えに来ない奴なんて知らない、だから自覚を持て」
森が開け、湖が見える。その辺りには屋敷が建っており、屋敷の前には畑があり、多くの野菜を実らせている。
「キュイ!」
そこにはト太郎がおり、フウマがヒナタを背中に乗せて走り回っていた。
俺達の姿を見たフウマがこちらに駆け寄り、ヒナタが笑顔で迎えてくれる。
「チビ、お前の親父はすごいなぁ」
「キュ?」
ナナシがヒナタの頭を撫でて呟くが、よく分かっていない様子のヒナタだった。
短かったので、18時にもう一話投稿します。