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奈落20(迷いの森⑦)

ここからレベルと年齢が一気に増えたりします。

 屋敷から外に向かって、飯が出来たぞーと声を上げる。

 俺の呼びかけに、食いしん坊の三人、いや一人と二体がそれぞれの声を上げて反応を返して来る。


 大きな土鍋と巨大な鉄板で作った料理を手に、外にあるテーブルの上に並べて行く。

 四人分のうち二人分は、大皿に乗せてテーブル横に置いておく。すると、声を上げた一人と二体が森から姿を現して席に着いた。


 手を合わせていただきますと、どこかの海亀に感謝して食事を始める。

 本日の食事はジャガイモっぽい物を蒸した物と、野菜を煮詰めた物、あとはどこかの海亀の肉を大量に焼いた物になる。


 野菜などの食材は森から採れた物を栽培して育てている。

 肉は……いつものやつだ。


 いい加減飽きて来たのだが、残念ながら食べられる肉がこれしかない。森に現れるモンスターの肉を確かめてみたが、唯一食べられたのは、森に入って最初の方に倒したクワガタのモンスターの肉だけだった。それも食べてしまっており、もうこれしかないのだ。


 一応、味付けは果物や香辛料で変えており、一人と二体から文句は出ないが、作っている俺自身が納得していない。

 材料がもっと多様にあれば、もっと美味い物が作れた。

 もっと凄い物が作れるのに、それが出来ないジレンマに、料理人として俺は限界を感じてしまっている。


 もっと森を探索して、より多くの食材を採取しなければ……ってそうじゃない。

 食事は大事だがそうじゃない。

 探索するのは、この状況を打開する為の手段を探す事だ。


 俺達は今、森の一定の空間に閉じ込められている。


 それに気付いてから、目印を付けながら進んだりもしたのだが、ある程度進むと目印を付けた位置に戻っていた。

 また、閉じ込められている範囲も恐ろしく広く、昼と夜を駆け抜けて一周すると言った具合だ。

 森の中を行くとはいえ、フウマの速度は時速百やそこらではない。圧倒的な速さで進んでるのに、膨大な時間を要している。


 もしも歩いて進んでいたり、目印を付けてなかったらループしているのにも気付かなかったかも知れない。

 脱出手段を探して移動しまくったが、結局なにも見つからなかった。

 その代わり、新しい野菜や果物、香辛料を発見したのだが、それだけだった。

 それなら、こんな湖の辺りで暮らしてないで、森を探索して原因を探せという話だが、残念ながらそうはいかない事情が出来てしまったのだ。


「キュルルー」


 肉を食べて喜びの声を上げる翼を生やしたヒナタ。

 赤ん坊だった頃から成長して、今は三歳位の子供の姿をしている。

 脱出する為の探索を中断しているのは、このヒナタが原因だ。


 赤ん坊の頃はお腹に収まる程度で、動きにさえ注意していれば問題なかったが、腹に収まらなくなってからはモンスターとの戦いで危険な場面が増えて来たのだ。


 これなら、一箇所に留まって、親が迎えに来るのを待った方が良いだろうと、何故かモンスターが近寄ろうとしない湖の辺りに居を構えたのだ。


 だが、一向に来ない。

 ヒナタの親が迎えに来ない。

 湖にモンスターが近寄らないからダメなのかとも考えたが、ヒナタ自身問題ないので、親が近寄れないという事はないだろう。


 こうなったら、見捨てて探索に戻るかともほんの少し考えたが、そう振り切るには遅く、早々にその考えは捨てた。


 木製のスプーンとフォークを使い食事をして行くヒナタ。

 大きくなるに連れて、魔力を垂れ流しにして辺りを破壊する事もなくなり、俺が対処をする必要もなくなっている。

 それでも、体調を崩したりすると偶に暴走するが、まあ問題ない。ヒナタの魔力が多くても軽く流せるし、魔鏡の盾で簡単に対処できるからな。

 あとはこの生活をいつまで続けるかだが、ヒナタの親が迎えに来るか、独り立ちするまで育てるかの二択になる。

 地上に連れて帰るのも選択肢にはあるが、その場合、ヒナタの扱いがどうなるのか分からない。最悪、実験室送りか討伐対象になってしまうかも知れない。

 その時は頑張って守るつもりだが、どこまで守れるか……案外いける気がするな。

 冗談抜きで、今の俺なら黒一にも世樹にも武器屋の店主にも、ギルドのおばちゃんにも負ける気がしない。

 おばちゃんの強さは分かっていないが、正直、前に戦った鬼の方が圧力はあったくらいだ。


 これ、案外いけんじゃね?


 まあ、それは追々考えるとしよう。

 ヒナタの親が迎えに来れば、それで話は収まるからな。



 それはそうと、テーブルに座れない二体だが、飯を食い終わっており昼寝の体勢に入っている。


 嘶くフウマに、ギュオと鳴く偽物ネッシー。

 因みに、偽物ネッシーにも呼びやすいように名前を付けており、ト太郎と呼んでいる。

 ヒナタとフウマからは顰蹙を買ったが、ト太郎が満足している様子だったので、ト太郎に決まった。


 湖の主であるト太郎は、普段は湖にいるのだが、ヒナタが起きている間は一緒にいるのが殆どだ。

 ヒナタもそれを望んでいるようで、起きると同時にト太郎に会いに湖に顔を出している。そのおかげで、作る食事量が三倍になっているが、ト太郎から湖の魚を提供して貰っているので文句は言うまい。



 そんなこんなで今は安定した生活を送れているが、開始当初はそれなりに大変だった。


 地属性魔法で家を建てたのだが、強固に作っても自重で壊れ、規模を小さくして小屋にすると、今度はフウマが入らない。

 いや、お前は外で良いだろうと言っても、頑なに家の中に入ろうとするので、どうしても大き目の家が必要になった。


 試行錯誤して骨組みを木材にすると、これが思いのほか上手く行った。

 この森の木が頑丈なだけかも知れないが、切断した木を乾燥させると、まるで鋼鉄のように固く頑丈になっていたのだ。

 とはいえ、建築するのが素人なので、作れても小屋が精々だった。頑張ってもっと立派な物をと試行錯誤したが、思うように進まず暫くは小屋暮らしが続いていた。

 このまま小屋暮らしかなと思っていると、その様子を見ていたト太郎が手伝ってくれて、何故か三階建の大きな屋敷が完成した。


 いやいや、どうしてこうなった。

 こんな屋敷に誰が住むんだよ?部屋数も二十以上あって誰が使うんだよ。

 殆どト太郎が作ったが、一体この建築技術をどこで学んだんだ?マジで謎だな、このトカゲ。


 屋敷の隣には、ト太郎が寝る用の屋根だけの建物があり、下には大量の枯草が敷かれている。


 これで住居は完成したのだが、問題は食料だった。

 肉に関しては問題ない。永遠に取れる海亀がいるから。

 魚も問題ない、ト太郎が持って来てくれるから。

 水はそもそも気にする必要がない。魔法で作り出せるし、花瓶もある。湖の水も綺麗で生活水として十分に使える。


 問題は野菜だ。

 モンスターには関係ないかも知れないが、人である俺は栄養が足りていない。人参は発見したのだが、他は爆発したり悪臭を放ったりと、とてもではないが食べられない。


 なので探した。

 ある意味、最も大変な作業がこれだったかも知れない。


 草に光を帯びた水をやり、成長した果実を収穫する。

 それを調理して、食べられるかをひたすらに検証した。

 人参があるのだから、他にもあるだろうと探したのだが、これが中々見つからない。


 紫色の人参や、青色のジャガイモ、緑と黄色のマーブルなキャベツ、などなど様々な種類を試し、これならいけるなと思えた物は二十種類。

 その内の五種類は香辛料になる物で、コショウや塩っぽい物はかなりありがたかった。


 しかしながら、その過程が大変だった。

 五百回以上、カットして、茹でて、焼いて、味見をした。

 味が無かったり爆発したり、悪臭立ち込めたりはまだ良い方で、デバフよろしく麻痺状態や幻覚を見せられたり、食べた直後に体内で暴れ回る野菜には死を覚悟した。


 こうして手に入れた野菜や香辛料は、屋敷の庭先に植えて栽培している。

 もしも、また同じ事をして探し出せと言われたら、俺はきっと泣きながら死ぬと思う。それだけ辛く、二度とやりたくないのだ。



「クルルル〜、キュルル〜」


 おう、そうかそうか、よく食べれたな。

 眠くなったらちゃんと部屋で寝ろよ、屋根で寝るなよ。


「クルッ」


 返事をしたヒナタは、翼を広げて屋敷の中に入って行く。


 俺はヒナタの言葉が分からない。

 声帯が違うのか、言葉を発する事が出来ない。だが、こちらの言葉は理解しており、フウマやト太郎の言葉も分かっているようで、ジェスチャーを交えて意思を表現する。


 あの子は頭が良い。

 人で言えば三歳くらいの大きさだが、もしかしたら大人顔負けの知能を有している可能性もある。


 そんなヒナタは、毛布と漫画を手にして屋敷から飛び出した。そして、ト太郎の頭に着地すると、漫画を広げて読み始める。

 あの漫画は、以前フウマが購入した物だ。

 荷物が届いた当初はマジギレしたものだが、今となっては唯一の娯楽で暇つぶしだったりする。


 漫画を読んでいるヒナタだが、手に持った物は青春ラブストーリーな内容なので、内容を理解しているというよりは、絵柄を楽しんでいるのだろう。

 時折、ペチペチとト太郎の頭を叩いて悔しそうにしているので、もしかしたら理解しているかも知れないが。


 そんなヒナタを横目に見ながら、食器の片付けを行う。

 使っている物の殆どが、森で取れた木から作り出したものだ。軽くて丈夫な物で、子供のヒナタが使っても危なくないようになっている。

 因みに、食器の製作者はト太郎だったりする。

 俺も真似て作ってみたのだが上手くいかず、とてもではないが使えなかった。

 屋敷といい、ト太郎は物作りのプロなのかも知れない。


 食器の運搬はフウマがやってくれるようで、器用に風の魔法で浮かせて運んでいる。

 最近のフウマは、いや、召喚した時から思っていたが、この馬は間違いなくイケメンだ。


 サラブレッドの肉体を得て、男に磨きが掛かっている。

 魔法の腕前は素晴らしく、肉弾戦もかなりの力を持っている。その力も未だ成長中で、どこまで強くなるのか楽しみである。


 そんなイケ馬であるフウマを引き連れて、屋敷に戻っていると背後から異常な魔力の高まりを感じ取った。


 何だ?と振り向くと、ト太郎の上で魔力を唸らせているヒナタがおり、まるで癇癪でも起こすかのように、光の固まりを放った。俺に向かって。


 この魔法を避けるのも受け流すのも簡単だが、避ければ屋敷が破壊され、受け流せば農園にある野菜や果物がダメになる。魔鏡の盾も、もう間に合わない。

 だから、別の方法を選択する。


 真っ直ぐ迫って来る暴力的な魔法に、俺は手を合わせパンッと鳴らした。


 すると、魔力の波が発生し、光の固まりと接触し霧散させる。


 以前、鬼のモンスターが使っていた魔法だが、案外真似出来てしまった。

 あの杖特有の魔法や能力なのだと思っていたが、再現してみたら案外いけた。てか、トレースの精度がやばい。

 リミットブレイク・バーストを使えるようになってから、更に深く知ることが出来るようになっていた。

 それでも真似出来ない物もあるが、それらは俺に適正が無いものなのだろう。他には、単純な技量の差。あの銀髪の男の動きを読めていたはずなのに、まるで届かなかった。どんだけ差があるんだ。まったく嫌になる。


 まあ、それは良いとして、魔法を放ったヒナタはと言うと、漫画を見てもの凄く悔しがっていた。


 何をそんなにト太郎の頭を叩いて悔しがっているんだと覗いてみる。

 すると、漫画の中で主人公の少女が彼氏を寝取られている場面だった。


 こいつやっぱり理解してんなぁ。



ーーー


田中 ハルト(24+5)

レベル 51

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

聖龍剣 ファントムゴートの服(自作)

《状態》 

ぱーふぇくとぼでー(各能力増強 小)

世界亀の聖痕 (効果大)(けつ)

××の加護

《召喚獣》

フウマ


---


フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考 限界突破 治癒魔法 呪耐性 見切り

《状態》

サラブレッドタイプ

世界亀の聖痕(蹄)

××の加護

---


ヒナタ(天使)( 3 )

《スキル》

光属性魔法 全魔法適正(小)

《状態》

世界亀の聖痕(足の裏)

××の加護


ーーー


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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
[良い点] 亀さん、まじ亀さん 亀「許さん。絶対許さん」 [一言] 亀いなかったら割と詰んでたな。 魚ゲット出来るようになったからちょっとマシになったけど。
[一言] 早くクロイツが鼻水流しながら命乞いをするザマァ展開がみたい
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