表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/348

奈落19(迷いの森⑥)

 鬼を倒して魔力が少し回復すると、杖を収納空間に放り込み、長剣と魔鏡の盾を回収した。

 落ちていた場所は、俺が吹き飛ばされた線上だったので直ぐに見つけることが出来て良かった。


 ただ一つ良くないことがある。

 アマダチを使った反動か、刀がボロボロになり使えなくなってしまったのだ。

 形見の刀を破壊してしまった。

 手帳を届ける報酬にくれるという話だったが、現状、達成出来ていないのに破損するのは、故人に対して申し訳なく思ってしまう。


 まあ、しゃーないと諦めて、地上に戻ったら武器屋の店主に修理の依頼をしよう。守護獣の鎧然り、不屈の大剣然り、壊れてしまった装備品が多いのだ。

 てか、奈落に来た当初の装備は、フウマの常春のスカーフ以外すべて破壊されている。


 ここに来てからの損失が大過ぎて目眩を覚える。

 それ以上の武器を手に入れてはいるが、それでも失いたくはなかった。

 不屈の大剣に至っては熊谷さんの弟が使っていた形見で、折れたのを見たら悲しむかも知れない。怒り狂うかも知れない。その時は、銀髪の男が悪いからと説明しよう。きっと標的を銀髪の男に変えてくれるはずだ。


 そんな事はさておき、鬼との戦いから暫く経ち、ようやく森に昼が訪れた。



 そこで俺達は歩みを止めることになる。


 森が広大過ぎて、探索するのに疲れたとかではない。


 一本の木に、見覚えのある印が彫られていたのだ。


 ◯に♨︎のマーク、顔の部分にヘノヘノモヘジ。翼のようなものが刻まれ、矢印も付いている。


 赤ん坊と出会ったあの日、俺が彫ったもので間違いない。誰か他の人が彫ったと思いたいが、この奈落で、他に赤ん坊を拾った人が居るとは考えられない。

 ならば、俺達は元の場所に戻って来たと考えるのが自然だった。


 これはどういう事だ?

 俺達は真っ直ぐに森を突っ切っていたはずだ。迷う迷わないではなく、ただ一直線に進んでいたのだから、同じ場所に戻るはずがない。

 戻るとしたら、それこそ地球一周するようなものだろう。


 マッピングールを確認すると、画面がバグっていた。

 地図は表示されず、ただ移動距離のみが表示されている。


 そんなバカなとフウマに呼び掛け、上空に向かう。


 鳥型のモンスターが大量にいるが、それらを蹴散らして駆け抜ける。

 サラブレッドになったフウマは、ちんちくりんだった頃よりも移動速度は上がっている。音速を超え、ソニックブームを撒き散らしながら空を駆ける。

 赤ん坊がGを受けないように、風属性魔法で保護するが、余り速度を上げると防ぎ切れない。それに気付いているフウマは、俺が防げるギリギリを攻めている。


 流石に、この速度について来れるモンスターはそうそういないと思っていた。だが、この速度について来れるモンスターは、いた。それも、結構いた。


 追って来る鳥型のモンスターは、お世辞にも大きいとは言えなかった。

 街中で見かけるカラスと同程度の大きさだが、その翼は二対あり、体は赤くメタリックに輝いている。

 それが群れを成し、マッハで飛行しているのだ。

 まるでロボットアニメに出て来そうな見た目をしており、ソニックブームを撒き散らすその姿は、はっきり言ってカッコ良かった。


 可能なら無傷の状態で一羽仕留めて、剥製にしたいところだが、舐めて掛かると鬼の時の二の舞に成りかねない。

 だから全力で潰す。


 これまでの経験で、地属性魔法は空では使えないのは理解している。その理由は、土が無いからだ。だったら空に土があれば使えるという話だ。

 だから、予め収納空間に入れておいた大量の土や石を取り出して、地属性魔法で操る。


 形作るのは大量の弾丸。

 多くの魔力を込めて強固に仕上げ、魔法陣を展開して更に強化する。

 速度上昇、貫通、追跡の魔法陣を通り、百を超す弾丸を鳥のモンスターに向かって撃ち出した。


 弾丸は一直線に飛び、鳥のモンスターを貫かんと迫る。しかし、鳥のモンスターは紙一重で避けて見せ、そして軌道を変えた弾丸に貫かれた。


 一羽二羽と弾丸は鳥のモンスターを撃ち落として行くが、直ぐに対処されてしまう。

 向かって来る弾丸を、その翼で切り落としたのだ。

 メタリックな体色は伊達ではないようで、それに見合った能力を持っているようである。


 軽く見て千羽以上はいる鳥のモンスター。

 その内の二百から三百匹倒したとしても、その脅威に然程変わりはなかった。


 俺が攻撃を仕掛けたことで気が立っているのか、飛翔する速度が増した。ぐんぐん追いつかれて来ており、魔法の射程圏内に入ったのか魔力の唸りを感じる。

 何か魔法が放たれるのかと警戒する。

 しかし、それは違った。

 鳥のモンスターは魔法を使ったが、遠距離攻撃としてではなかった。


 鳥のモンスターが赤く光を灯し翼を畳むと、更に加速したのだ。

 まるで俺が使うリミットブレイクのように、一気に自身を強化した。


 赤い閃光のように迫る鳥のモンスター。


 お前達が使うなら俺達もだ。


「リミットブレイク!」


 力が一気に増し、フウマは黄金を纏う。

 空を駆ける速度が増し、赤い閃光に向かって長剣を振るう。刃が接触すると同時に爆発するが、フウマが風の魔法を操り、その衝撃を逃してくれる。


 昇竜の戦輪は無くなったが、その技術が失われた訳ではない。武器が無いながらも、同様のことが出来るようにフウマも成長しているのだ。


 剣閃を飛ばし、魔法を操り、長剣で斬り裂き多くの鳥のモンスターを倒して行く。それでも、数は減らない。むしろ、増えているような気がする。


 高速で移動しているからか、進む先で数が補充されているのだ。


 これなら、地上を行った方が良いだろうか。

 一度数を減らして、それで諦めないようなら地上に向かおう。そう決めて、収納空間にある大量の土を空に放った。


 広範囲に広がる土を地属性魔法で操り、鳥のモンスターに付着させる。そして大量の魔力を消費して、一塊にするように圧縮した。


 土色と赤色の巨大な球体が出来上がり、地上へと落下する。

 今ので一気に数を減らすことが出来たが、残念ながら続く鳥のモンスターの勢いを削ることは出来なかった。


 チッと舌打ちをして、地上に行こうとフウマに指示を出す。今は後方を気にしていれば良いが、前方からも鳥のモンスターの姿が見え出しており、このままでは囲まれる心配がある。


 ちょうど下には湖が見え、そこに向けて降りて行く。

 鳥のモンスターは湖に近付く程にその数を減らしていき、湖のそばに降りる頃には全ての鳥のモンスターが去ってしまった。


 地上で迎え討つつもりだったが、まさか去って行くとは思わなかった。


 まあ楽が出来るなら良いかと湖の方を見ると、そこにはいつか見た偽物ネッシーが顔を出していた。

 相変わらず、その偽物ネッシーからは敵意を感じず、今回はむしろ歓迎の雰囲気すらある。


 ギュオーと鳴き声を上げる偽物ネッシー。

 呼応するように、キュルル〜と鳴く赤ん坊。

 それに混ざるようにヒヒーンと嘶くフウマ。

 そして何が起こってんだと、ため息を吐く俺。


 とりあえず休ませてもらおうと、湖の横に降りるのだが、偽物ネッシーもマッチョな体を地上に出して近寄って来た。


 相変わらず赤ん坊が気になるようで、乳とおしめを変えている間もじっと見つめ合っていた。


 もしかして、こいつがこの子の母親か?

 種族が違うが、モンスターならワンチャン……ねーな。無いわ、それは、無理過ぎる。

 ニッチな界隈な人達でも、流石にそんな想像は出来んだろ。


 疲れているのか、バカな発想が浮かぶ。

 花瓶を取り出して光を帯びた水をコップに注いで、一気に飲み干す。

 ふうと一息ついていると、視線を感じた。

 赤ん坊と偽物ネッシーがこちらを見ていたのだ。

 その目は俺達にもその水寄越せと訴えており、目力が凄くなかなかの迫力を持っていた。


 おいおい何だよと迫って来る偽物ネッシーの顔から後退して距離を取る。すると、更にグイッと来るので、手で押さえてちょっと待てと言うと動きが止まった。


 収納空間から桶を取り出して光を帯びた水を溜めてやると、頭を突っ込んで全て飲み干した。

 その様子を見ていた赤ん坊が泣き出し、フウマも喉が渇いたと主張するので、更に水を出していく。


 フウマは動いていたので分からんでもないが、赤ん坊はさっき乳を飲ませたばかりで、腹が減る理由が分からなかった。

 口元に近付けても飲む訳ではなく、キュキュと目をキラキラさせて喜んでいるだけだ。もしかしたら、ただ光物が好きなだけかも知れない。


 この赤ん坊……赤ん坊赤ん坊呼ぶのも長いな、勝手だが仮名でも付けておくか。親が迎えに来たら、そのとき修正してもらおう。


 何が良いだろう。男の子か女の子なのかも分からないし、両方使える名前がいいよな。


 残念ながらこの子には、人と同じような男女を見分ける特徴が無い。人に近い形のデーモンには、一応男女の違いはあったので、この子はデーモンではないのだろう。

 男女が無い種族かも知れないし、もしかしたら、大人になってから特徴が現れる種族なのかも知れない。だったら両方で使えそうな名前がいいだろう。


 光物が好き、ヒカリ、ヒカル、キラキラ、キラメキ……


 よし、キラリンで行こう!


 その瞬間、キュアー!!と絶叫に似た喜びと共に魔力の乱打が周囲を襲う。

 余程嬉しかったのだろうと歓喜に震えるキラリンを見ていると、段々と魔力の乱打が向きを変えて俺の方に向かって来た。


 喜びの表現だろうが、なかなかに過激な……うそうそ、ちゃんと考えるから止めてくれキラリン。


 仮名だから何でも良さそうだが、お気に召さなかったようだ。てか、この赤ん坊、何気に言葉理解してるし知能高くないか?


 再び名前を考えるが、キラリンの印象が強くなり過ぎて、その系統の名前しか思い浮かばない。

 考えて考えて、フウマを見て常春のスカーフを見て何となく思い付いた。


「ヒナタ」


 この奈落の世界に太陽は無いが、この子の背中には太陽のような赤い痣が付いていた。その痣を思い出すと、春の木漏れ日のような、陽の光のように暖かい子になってくれたらと思ってしまい、この名前が出て来た。

 まともな名前を付けると、別れる時に辛くなりそうだが、その時はそのときに自分の気持ちと向き合おう。


 赤ん坊改めヒナタはキュアと鳴き、まあええやろと納得した様子だ。


 名前も決まり、湖の辺りで休憩を取ると再び移動を開始した。


 それから、五回の昼と五回の夜が過ぎるまで森を巡る事になる。


 そして俺達は今、湖の辺りで暮らしている。




ーーー


田中 ハルト(24+2)

レベル 45

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

聖龍剣 ファントムゴートの服(自作)

《状態》 

ぱーふぇくとぼでー(各能力増強 小)

世界亀の聖痕 (効果大)(けつ)

《召喚獣》

フウマ


---


フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考 限界突破 治癒魔法 呪耐性 見切り

《状態》

サラブレッドタイプ

世界亀の聖痕(蹄)


---


ヒナタ(天使)( 0 )

《スキル》

光属性魔法 全魔法適正(小)


ーーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
[一言] もしかして、夢見の予知夢でネオユートピアを破壊してるのって、 偽ネッシーとヒナタ、田中&フウマの湖の田中一家なんじゃ…
[一言] 面白い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ