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奈落18(迷いの森⑤)

 目覚めてから、樽の中身を確認して驚いた。

 羊の毛で作った服が光沢を帯びており、清涼な空気を醸し出していたのだ。頑丈さも増したようで、魔力の通りも段違いに良くなっていた。


 試しに剣を想像して魔力を通すと、純白の剣が出来上がる。

 これはあれだ、世樹麻耶が使っていた物と同じ物だ。若しくはよく似た物だ。


 他にもいろんな形を作ってみると、これまで以上の速さで、形を創り変える事が可能になっていた。


 うむ、使えん。

 残念ながら使えない。

 頑丈さが増して防御力が上昇したのは有難いが、形を変える速度が上がったところで、それほど役には立つことはない。

 これが浅い階なら通用したのだろうが、形を武器に変更しても、奈落で出現するモンスターに対して有効なダメージは与えられない。これなら防御に全振りした方がマシなくらいだ。


 とはいえ、取れる手段が増えるのはありがたい。

 もしもの状況で使えるかも知れないからな。



 暗闇を走る。

 光を帯びた水を振り撒きながら進んでいるので、亡霊が襲って来る事はない。

 その代わり、通り過ぎた場所は草木が異様に成長しており、自分達がどこを通ったのか目印になる。


 マッピングールを帽子から取り出して確認する。

 カメラも帽子に埋め込んでいるので、どうしてもこの位置になってしまうのだ。コードレスにしてくれたら楽だったのだが、試験機ならこれで十分だったのだろう。

 それで画面を確認すると、一応は真っ直ぐに進んでいるようだ。移動距離はあり得ない数字を叩き出しているが、この際、もう関係なくなっている。


 早く地上に帰りたい。

 ただそれだけである。


 そんな風に地上に思いを馳せていると、世界がモノクロに染まる。

 これは赤ん坊を拾った時と同じ現象だ。

 一度足を止めようかと考えるが、今回は直ぐに元の暗闇の世界に戻った。


 そして、巨大な木々達がザワザワと激しくざわめき始める。


 嫌な予感がして、フウマに更に速度を上げるように指示を出すと、長剣を引き抜いてリミットブレイクを使用する。

 次の瞬間、変化は起こる。


 周辺の巨大な木々が動き出し、枝や蔦を動かして襲って来たのだ。


 ふっと息を吐き出し、連続して剣閃を飛ばし前方の蔦と枝を切断して道を作る。横からも伸びて来るが、そんな遅い動きでフウマを捕らえられるはずもなく、置き去りにして通過する。

 しかし、襲って来る木それだけでなく、更に先にある木々達も動き出していたのだ。


 まあ、だからと言って、魔力の乗っていない蔦や枝が伸びて来たところで、大した脅威ではない。

 数で来るなら、こちらも手数で勝負しよう。


 風の刃を周囲に向かって飛ばし、進行方向には剣閃を飛ばして道を切り開く。


 これだけで、周囲の木々が切断され倒れて行く。

 自然破壊極まりないが、ここはダンジョン、地上とは違うから問題ないはず。


 ひたすらに進んでいると、更に変化が起こる。

 魔力が宿っていなかったはずの木々に、魔力が通った物が出て来た。それでも、切り落とすのに問題はないのだが、亡霊も混ざって来ており、面倒な状態になって来ていた。


 亡霊は光を帯びた水で追い払えるのだが、その水を浴びた木々は力を増して襲って来るので、悪循環に陥ってしまう。


 亡霊も木々もどちらも面倒ではあるが、更に面倒な存在が現れる。


 それは腰の曲がった老人のようにも見えた。

 だがその頭部には二本の大きなツノが付いており、右手には灰色の杖が握られている。ボロい布切れを身に纏っているが、ヨボヨボの体に見合わないほどの魔力が、その体から発せられていた。


 この状況で相手にしたくない相手である。

 なので、フウマに逃げるよう合図を出すが、ツノの生えた鬼の老人が杖を付くと、地面に波紋が広がった。

 すると、俺達を囲むように蔦が伸びていき閉じ込められてしまう。


 しかし、そんなもので閉じ込められる俺達ではない。


 長剣で道を切り開き、風の刃でその道を広げる。だが、その穴の先を新たな蔦が生えて道を塞いでしまう。

 ならば全てを破壊しようと魔力を練っていると、上から嫌な予感が襲う。


 上空に向かって長剣を一閃し剣閃を飛ばす。

 その先には鬼の老人がおり、いつの間にか接近されていた。


 剣閃よりも早く、鬼の老人が杖を振り魔法を発動する。


 その魔法は魔力の波だった。


 魔力の波が立つと剣閃は掻き消え、勢いを増して俺達の元まで辿り着く。

 魔力の流れを作り出し、魔力の波を受け流そうとするが、その流れさえ侵食して魔力自体を波の一部へと作り変えてしまう。


 これはまずいと、赤ん坊に覆い被さるようにして身を屈める。

 魔力の波が到達し、俺の体を通り抜けていく。

 すると、魔力を掻き乱され体の中で激しく暴れ回る。


 がはっと血反吐を吐き出し、魔力の流れを正常に戻そうと魔力操作に意識を集中する。それと同時に並列思考で治癒魔法を使い、俺とフウマの治療を行う。

 フウマも俺と同じようにダメージを受けており、かなり酷い状態になっていた。

 唯一の救いは、赤ん坊は無事だった事くらいだろう。


 即座に治療し、この場から逃げ出そうとするが、鬼の老人が再び魔力の波を立たせて襲って来る。


 俺は急いで、収納空間から魔鏡の盾のある手甲を取り出し装備する。そして、上に掲げて防御すると、腕に強烈な振動が伝わり無効化に成功する。


 すかさず、幾つもの風の刃を鬼の老人に向かって飛ばし反撃する。今回も無効化されるだろうと思っていたのだが、今度は魔法を無力化せずに蔦から飛び降りて回避してしまった。


 俺は今のうちにと、赤ん坊を腹から取り出して、フウマに頼むと言って預ける。

 あのモンスター相手に、守りながら戦うのは無理だ。


 その意図を理解したフウマは頷いてくれる。

 赤ん坊をフウマの背に括り付けると、邪魔な蔦を斬り落とし鬼のモンスターと対峙する。



 暗闇で敵の姿が見えないというのは怖い。

 光を発生する魔法陣で辺りを照らすのは可能だが、鬼の老人を相手にするなら、その労力も惜しい。

 だが運の良いことに、俺には空間把握のスキルがある。

 敵の位置は正確に捉えており、魔力の流れもある程度読めている。


 ただ問題がある。

 それは、敵が鬼の老人だけでなく、空間把握を埋め尽くすほどの亡霊が現れたのだ。


「リミットブレイク・バースト」


 初見殺しの技で、亡霊が纏う魔力を操り、魔法で攻撃する。残念な事に、実態の無い亡霊なので倒すことは出来ないが、少しの間、無力化することは可能だ。


 一瞬で魔法の間合いを潰して、鬼の老人に迫る。

 一撃で決める為に、最速で横薙ぎに振るう。

 並の存在なら反応も許さない一撃。しかし、並ではないモンスターである鬼の老人は対応して見せた。


 灰色の杖を長剣に合わせると、緩やかに曲がった腰を更に曲げ、最速の一撃を逸らしたのだ。

 今度はこちらの番とばかりに、ガラ空きとなった俺の懐に向けて、灰色の杖を向ける。

 杖から放たれた魔法は球体だった。

 ただし、恐ろしいまでの魔力が込められた透明な魔法。


 後方に跳びながら魔鏡の盾で無効化しようとするが、触れた瞬間に激しく爆発した。


 ドンッと音が鳴り、幾つもの大木を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる。

 ミンチにならない自分の肉体に感謝しながら、羊の服を操り辺りの木々に張り付けて勢いを殺す。

 使えないと言っていたのに、早々に前言撤回をするハメになってしまった。使えるなこの服。


 そんな事を思いながら、服を戻すと横に跳ぶ。

 先程いた場所に、鬼の老人が杖の殴打が振るわれ、空振った一撃は地面に直撃し、地面を破壊する。


 この鬼の老人、見た目は魔法使いなのに、バリバリの近接戦派のようだ。


 そうと分かれば、攻め方も変わる。


 ダウンバーストの要領で上空から風の圧力を掛けて、動きを止めんと魔法を使う。しかし、そんな動きの遅い魔法に当たるはずもなく、鬼の老人は接近してその効果範囲から逃れる。


 予想出来た動きだ。

 だから地を操り、押し潰すように全方位から土石流を襲わせる。

 しかしそれも防がれてしまう。

 鬼の老人が杖で地を叩くと、そこを中心に蔦が発生して、大量の土石流を受け止めたのだ。


 勘違いしていた。


 てっきり、木々が意思を持って襲って来ているのだと思っていた。それが、全てこいつが操り襲わせていたのだとすると、こいつは想像以上に強い。


 しかし、だからと言ってやる事に変わりはない。


 魔法陣を展開する。

 速度上昇、分裂、貫通、破壊、爆発の五つを使い、石の槍に竜巻を纏わせると、鬼の老人が土石流と蔦のオブジェを乗り越えた瞬間に放つ。


 驚愕に染まる鬼の顔。

 杖で波を発生させ防ごうとするが、残念ながら手遅れだ。

 チッと弾けた音と、強烈な爆音が辺りを響かせ、破壊の衝撃波が槍の進行方向に駆け抜けた。


 多くの木々を、視界に映る全ての地面を抉り、破壊し尽くした。

 暗闇だった森に空間ができ、淡い灯りで照らされる。

 破壊された場所では、帯電しているのか、バチバチと火花を散らしていた。


 俺が作り出した光景だが、これはやり過ぎなレベルだ。それでも、怪獣のような連中には通用しないだろうが。


 長剣を一度払うと、改めて構える。

 正面にあるのは、先程の魔法で跡形もなく吹き飛ばしたはずの、鬼の老人の杖。

 そしてそれを握る腕と肩、それと首と頭部。

 それらは、杖と同じ太さしか残されておらず、奇跡的に息はあった。


 いや、奇跡ではないのかも知れない。


 灰色の杖から黒く瘴気のような邪悪なものが立ち込め、鬼の老人を覆ってしまう。

 嫌な予感しかしない現象に、剣閃を連続して飛ばすが、杖を突く音と共に霧散する。


 迫る魔力の波を魔鏡の盾で防ぐと、改めて鬼の老人がいる方向を見た。


 するとそこには、鬼の老人はおらず、若々しくも荒々しい鬼の姿があった。

 その鬼の頭部には老人と変わらず二本のツノが付いており、身長は俺より少し高い程度。体はボロ布で覆われているが、その肉体は均整が取れており、無駄の無い戦う者の筋肉のつき方をしていた。


 鬼はニッと笑うと、腰を落として構える。


 俺はまた勘違いをしていた。

 てっきり鬼が本体なのだと思っていた。

 だが、鬼が発していると思っていた魔力は、鬼の持つ杖が源になっている。


 ただ鬼が杖を使っているのか、それとも杖が鬼を操っているのか分からないが、とにかくあの杖を破壊するか、鬼から切り離さないと、この戦いに終わりは来ないだろう。


 何でこんな面倒な奴が出て来るんだと溜息を吐いた。




 第二ラウンドの開始は、鬼の魔法からだった。

 構えたのに魔法かいとツッコミたいが、俺もよくやっているので文句は言えない。


 魔力の球体が無数に放たれ、一気に加速して襲いくる。


 地属性魔法で、眼前に大きな壁を作り出すと、一気に下がり迂回しながら鬼との距離を積めていく。

 石で出来た巨大な壁は、魔力の球体の一つと接触すると、球体が弾け、壁は形を維持出来なくなり砂となって形を失った。


 次に球体に向けて剣閃を放つと、またしても球体が弾けて共に消えた。


 次に石の弾丸を放っても結果は同じ、一つにつき破壊できるのは一つだけのようだ。

 とんでもない威力を秘めている魔力の球体。

 まともに食らえば致死の一撃だが、攻略法が分かれば簡単だ。


 石の散弾を連続して放ち、全ての球体を消滅させる。


 魔力の波も魔鏡の盾で無効化可能だ。


 勝ち筋は見えた。


 鬼と向かい会い、その場から飛び退いた。


 先程まで立っていた場所が弾け飛び、幾多の魔法が飛来する。

 亡霊だ。亡霊のモンスターが襲って来たのだ。


 上空に目を向けると、フウマが亡霊を蹴散らしながらも必死に空を駆けて魔法を避けている。

 その速度はいつもより遅く、背に括り付けている赤ん坊に配慮しているのだろう。


 今のフウマが容易くやられるとは思えないが、それでも急いだ方が良さそうだ。


 よそ見をしていた俺が隙だらけに見えたのか、鬼が高速で接近する。そして、魔力を纏った杖が殴打せんと振るわれる。

 石の弾丸で杖に纏わり付いた魔力を解除すると、長剣で杖を受け流し、体勢の崩れた鬼の首に刃を走らせる。

 これで首を落とせる。

 そう確信して、あっさり裏切られた。


 首は斬った。

 しかし、次の瞬間には繋がり、斬られた跡も残らない。

 その過程を空間把握で知り、亡霊から放たれた魔法を誘導して鬼にぶつける。

 更に、鬼との距離を開けながら剣閃を連続して飛ばすが、魔力の波が生まれ、全ての魔法を無効化されてしまう。


 鬼の姿を見ると、一切の傷はなく、首を斬られた事実に怒りが湧いているのか、人相に凶悪さが増した。



 そこからの戦いは泥沼だった。


 鬼自体は斬っても直ぐに再生し、首を、手を、足を、体を刻んでも再生する。

 鬼の体術は油断しなければ対処できるレベルで、気を抜けないが、焦るものではなかった。それでも、接近してからの球体の魔法と波の魔法は厄介だ。

 特に波の魔法は、全ての魔法を掻き消してしまうので、強力なこと極まりない。


 鬼の魔法を避け、接近戦に持ち込み、杖を破壊しようと試みたが、まるで絶対に切れない鉱物で出来ているかのように頑丈で、傷一つ刻む事も出来なかった。

 見た目は木材なのに詐欺もいいところだ。


 鬼の首を斬る。

 再生される一瞬の隙を突き、魔法陣を展開して風の刃を強化して放つ。

 バラバラと細切れになるが、次の瞬間には当然のように復活している。


 亡霊からの横槍を受けて一度引くと、そこに鬼が追って来る。

 魔力を纏った杖の一撃に弾丸を弾いて無効化すると、長剣で逸そうと構える。もう何度目かの同じやり取り。

 いい加減学習してもよさそうだがなぁと、上から目線で見ていると、この一瞬で杖にあった魔力が復活してその一撃を受けてしまった。


 しまったと後悔するには遅く、激しい衝撃を受けて弾き飛ばされる。

 高速で変わる景色。

 俺が魔法で抉った地面を飛び越えて、向こう側の木に当たっても止まらず。次々と木々を倒壊させ、全身の痛みがやがて感じなくなり、足と腕が落ちているのに気付いたのは、止まって少ししてからだった。


 未だに生きているのが不思議だ。

 もう人間を辞めているかも知れない。

 なんて冗談はやめて、さっさと治癒魔法で回復する。


 馬の嘶声が聞こえる。

 フウマが心配して追って来たのだろう。そうそうに終わらせるなんて言っていたが、油断したせいで、終わらせるどころか俺が終わりに向かっていた。

 キュルル〜と赤ん坊の泣き声も聞こえて来る。

 腹が減って泣いているのか、お漏らししたのか分からないが、それだけ時間が経過したのだろう。


 足と腕を再生させて、体の負傷を治療して立ち上がる。

 残念ながら、腕と一緒に長剣を落としておりここには無い。もっと言えば、魔鏡の盾も無くなっている。

 木々に衝突しているときに落としてしまったのだろう。

 早く探しに行きたいが、それを許してくれるほど甘くはない。


 余裕の笑みを浮かべた鬼が立っていた。

 俺の消耗した姿を見て、勝ちを確信したのだろう。


 武器もなく、身を守る盾もなく、魔力の消耗も激しい。この状態で戦い続ければ、俺の命はないだろう。


 息を大きく吐き出すと、収納空間から天津輝樹が使っていたであろう刀を取り出す。

 故人の形見なので出来れば使いたくなかったが、既に銀髪の男の手を斬り落としているので今更だろう。


 収納空間に眠っている武器は他にもあるが、これを選択したのは、今ある武器の中でこれが最も手に馴染むからだ。


 人が使う為に作られた武器、人が人の為に作った武器。


 その武器を手にして、俺は魔力を収束させる。



 泣いている赤ん坊を見て、一つ思い出した事がある。

 あの銀髪の男が使った、光の一閃。

 あの光はまるで、全ての闇を斬り払うかのようだった。


 あれを見て思った。

 カッコいいと、俺も使いたいと、てか俺なら出来るだろうと思ったのだ。

 何事も最初は思い込みが大事だ。

 きっと使える。俺ならきっと。


 そう思い、トレースで感じ取った情報を元に魔力を収束、構築して行く。


 魔力とは不思議な物だ。

 いつの間にか体内に存在していたエネルギー。ダンジョンに入るようになり、当たり前のように使えるようになっていた。

 スキルを使う燃料となり、様々な奇跡を起こしてくれる。

 他にも魔法陣という、原理がよく分かっていない物を使い、現象を巻き起こす。魔法陣は道具にも刻む事が出来、微弱でも魔力を使うと多くの恩恵を与えてくれる。


 スキルや魔法陣といった設計図を通して、力が具現化する。

 魔力とはそういった物だと思っていた。

 だがこの鬼は、或いは杖はどうだろう。

 純粋な魔力のみを力として使っている。

 銀髪の男が使ったあの一閃は、魔力のみを収束していた。その使い方が分からなかったが、この鬼の魔法を見て何となく理解出来たのだ。


 魔力をスキルや魔法陣という物を介さずに、純粋な力として使う。

 但し、それに使う魔力の量は膨大なものになる。


 抜刀術の構えを取り、刀に魔力を収束させる。

 俺の残りの魔力量では心許ないが、何故かやれるという確信があった。ただの思い込みかも知れないが、それでも引く訳にはいかない。


 魔力を刃に変え、鬼を、杖を斬ると誓う。

 散々、不屈の大剣でやって来た事だ。思いを力にするのは得意分野だ。


 俺の手に光が灯り、それが刀に宿る。



 光を宿した刀に警戒したのか、鬼の表情が曇る。

 余裕の笑みは消え、こちらに近付こうとしていた足を止め、後方に跳んで距離を置いた。


 ここで残念なことに気付く。

 俺のこの一撃は、剣閃のように飛ばすことが出来ない。つまり、鬼が魔法で攻撃して来たら詰んでしまう。


 そして案の定、杖を振り魔力の球体が放たれた。

 幾つもの球体が現れ、一発でも当たれば、俺は立ち上がれなくなるほどの大ダメージを負うだろう。

 魔力を集中している以上、他の魔法は使えない。

 動きもリミットブレイクが解除されており、素の状態で回避するのは不可能だ。


 くそっと悪態を吐き、魔力の収束を解除しようとすると、空から風の刃が落ちて来て、魔力の球体を全て対消滅させてしまった。


 俺は走る。

 身体強化も施してない状態だが、鬼に接近する。

 上空にいるフウマが作ってくれたチャンスだ。これで決めなきゃ男が廃る。


 鬼へとあと少しの所で、魔力の波が走る。

 衝撃が体を駆け抜け、血反吐を吐き出すが足は止めない。


 うおおーーっ!と気合いを入れ、鬼に向かい刀を振るう。

 傷を負い、とても鋭いものではなかったが、それでも刃は届く。


 鬼の魔力を纏った杖と衝突し、光の刃だけが走り、杖を切り、鬼を切り裂いた。


「アマダチ」


 何かを絶った感触があり、鬼を見てそれは確信に変わる。


 斬ったはずの杖に傷はなく、鬼は体中から大量の魔力を溢れさせると、体が崩壊してしまい、復活する事なくその姿を消した。


 そこに残されたのは、灰色の杖だけだった。


 俺は全ての魔力を使い切り、その場に倒れてしまう。

 フウマが降りて来ており、その背中にいる赤ん坊は泣き止んでいた。泣き疲れて寝たのかと思ったが、パッチリと目は開いておりジッと俺の方を見ていた。



ーーー


鬼人族(鬼の老人、鬼)


かつてあった世界の世界樹を守護していた部族。

全てを飲み込まれてしまったが、それでも生き残った者達で守護していた。巨大な化け物に襲われ全滅した。悲しい部族、忠義の部族。


ーーー


田中 ハルト(24+1)

レベル 45

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

聖龍剣 ファントムゴートの服(自作)

《状態》 

ぱーふぇくとぼでー(各能力増強 小)

世界亀の聖痕 (効果大)(けつ)

《召喚獣》

フウマ


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フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考 限界突破 治癒魔法 呪耐性

《状態》

サラブレッドタイプ

世界亀の聖痕(蹄)


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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
[一言] この鬼って、もしやあの戦闘で世界樹の枝をなんかの拍子で手に入れて、奇跡的に生き残った鬼!? なんでイルミンスールの杖なのかと思ったらそういうこと!? 物語が繋がるぅ……最高……
[気になる点] ステータス表示まじめに書いてあるのに ぱーふぇくとぼでー (けつ) で笑うわ
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