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奈落⑧(雪のち噴火)

「田中さ〜ん、冬になったら滑り行きません?滑りにぃ」


 そんなに前ではないはずなのに、今では懐かしく思ってしまう光景を見ていた。

 俺は数回しか行った事はないが、いつもの居酒屋で打ち上げをやっていた頃の思い出だ。


「やったことないんすか?スノボ」


 あるよ、大学の友達と行った事あるからな。


「じゃあ大丈夫そうですねー、騎士!田中さん追加で予約しといて!」


「あいよ!喜んで!」


 ちょっと待て!まだ行くって言ってないだろうが!

 それに、初めてやったとき、筋肉痛で動けなくなったから嫌なんだよ。


「なに言ってるんですか、探索者がそんなんで筋肉痛になる訳ないでしょ。今と昔は違うんですよ、田中さんの体は一般人とは違ってるんですから、少々ダイナミックな滑り方しても何ともないですって」


 そんなもんか?


「ええ、って、ギャグで滑ったらダメですよ!ダイナミックに滑られたら、周りが死んじゃいますからね」


 誰もそんなんで滑るなんて言っとらんわ!


「え?でも、普段から滑ってるじゃないですか」


 ……マジで?割とショックなんだけど。


「マジです。真面目なフリしてボケをかますから、激滑りしてます」


 ーマイガッ!?


「別に何とも思ってないでしょ?」


 ……うん。


 千里に指摘されて素直に認める。

 別に受けようが滑ろうが、俺は言動を変えるつもりもないのでどっちでも良いと思っている。


「今回、千里も初参加だからよろしくお願いしますね」


 何がよろしくなんだよ?


「そうよ!私は別に滑れるわよ!」


「そう? じゃあ田中さんナンパしましょうよ、ナンパ」


 いきなりだな、おい。


「やめてよ!私達も行くのよ!?」


「えー良いじゃん、探索者って出会いないんだよ〜。騎士だって前に行った旅行で捕まえたんだし、悪い事ばかりじゃないんだよー。元はダメだったけど」


「いきなり暴露すんなよ!」


 千里の軽蔑の眼差しが元に向けられる。

 実の兄に向けていい目ではないが、まあ仕方ないだろう。

 俺もナンパに参加したら、このような目で見られるのだろうか?


「どうします? 冬のゲレンデは人を解放的にさせますよ」


 いや、俺は……


「やらないんですか? 彼女出来ますよ」


 やろうじゃないか。


 軽蔑の眼差しがこちらを向くが、大丈夫、それは俺の後ろにいる武に向けられたものさ。


 そんな懐かしい夢を見て、俺は目覚めた。





 目が覚めると、青空が広がっていた。

 どれだけ気を失っていたかは分からないが、とりあえずは生きているらしい。


 起き上がり辺りを見回すと、辺り一面真っ白で、それが雪だと気付くのに時間が掛かった。

 隣にはフウマが倒れており、常春のスカーフの範囲内だったので、その気温の低さに気付けなかったのだ。


 手を伸ばして白い物体に触れて、それが雪だと気付いた。

 そして、常春のスカーフの範囲外に出て呼吸をすると、喉が冷たさに焼かれて強い痛みを感じた。


 急いでフウマの元に戻り、治癒魔法で喉を治すと酸素を求めて大きく深呼吸する。


 呼吸するだけでダメージを負う。

 今度の雪の世界は、洒落にならないくらい過酷な環境のようだ。



 フウマに跨り雪山を進む。

 常春のスカーフはフウマが装備しているので、いよいよ離れられなくなってしまった。一応、魔力を消費して効果範囲を広げているので、少しくらいは外れても大丈夫なのだが、モンスターと遭遇したときが怖い。


 フウマと、常春のスカーフと離れた瞬間から、死へのカウントダウンが始まってしまう。

 治癒魔法を使いながらでも不可能ではないが、治癒魔法の消費魔力量が多く、魔力循環で補えるものではないので、やはりカウントダウンが始まってしまう。



 青い空と白い大地の幻想的な景色。気が狂いそうな二色の景色の中で、突然雪が起き上がる。

 その雪の量は途轍もなく多く、熊のモンスターくらいの大きさがある。それだけの雪が動いたせいで、下の方では雪崩が起こっており、雪が雪を押し流している。そして現れた大地もまた白かった。


 この雪はどれだけ深いんだろうと考えながら、竜巻を発生させて、動き出した雪の塊を粉砕して大地に返した。


 ふうっと一息吐いて、これで終わってくれたら楽なんだけどなぁと思いながら、再度集まる雪の塊を見ていた。


 この雪のモンスターは、核を潰さないと倒せないモンスターなのかと推測するが、先程の竜巻で削った感じ核のような物が見当たらなかった。

 再生する塊に触れてトレースしてみると、雪の結晶一つ一つに魔力が宿っており、言ってしまえばその全てが核だった。


 そして、再生した雪の塊は、先程よりも一回りも大きくなっており、丸い塊が形を変えてムカデのように無数の足が生え、体の形はダンゴムシのようになっていた。

 てか、足が外側に付いた平べったい王○だ。


 1階でよく見たダンゴムシのモンスター。

 それがアホみたいに巨大になり、形を変えて現れた。

 ただし、かなり気持ち悪いもよう。


 巨大な○蟲が突進して来る。

 ナ○シカのように心を通わせたり、巨○兵のように薙ぎ払えれば簡単に解決できるかも知れないが、非力な俺では魔法を使わなくては対応出来ない。


 こんなときは攻撃力マシマシの地属性魔法を使って攻撃したいが、雪が魔力の通りを悪くしているせいで使えない。ならばと、フウマが風属性魔法を使い空に回避し、強力な竜巻を発生させて王○に攻撃を加える。


 そして、ガンガンと削りその体積を減らしていくのだが、空間把握が、上空に何かが集まっているのを知覚する。


 やっぱりそうなるかと思いながら、フウマに知らせると、風に乗り落下する雪の塊を回避した。


 モンスターとしての脅威度で言えば、土人形のモンスターの方が上だ。それでも、一つの核があるモンスターと、全てが核な上に増えるモンスターでは、取れる対処法が変わって来る。


 考え付くのは、全てを一気に消失させるか、逃走の二択。前者は手段が無く、後者は得意分野だ。

 つまり、逃げるってことだ。


 雪のモンスターを破壊しないように強烈な風を当てて動きを封じると、逃走すべく空に舞い上がった。


 フウマも魔法の腕前が上がっているらしく、しっかりと上空で見渡すことが出来るようになっていた。

 そこで見た光景は青と白の世界で、一瞬どちらが地上なのか分からなくなる。そんな幻想的で、気持ち悪く恐怖を覚える景色の中を駆け抜けて行く。


 雪のモンスターが体を分解して、吹雪のようになって追って来るが、強烈な風を叩き付けて吹き飛ばす。

 質量が軽いせいで簡単に飛んで行く雪のモンスター。

 再び地上で形を作っているが、もう追っては来れないだろう。


 なんて、上手くいかないのは百も承知だ。


 雪のモンスターは王○の姿ながら、口の部分に大きな空洞を作ると、そこに大量の魔力が集まっているのを感じ取る。


 まるで巨○兵のように、王○の口から破壊の光線が放たれた。

 急いでジェット噴射のように風を起こして光線の軌道から逃げると、光線の通った場所が盛大に爆発した。


 おう、ここのモンスター、爆発好きだな。


 なんて冗談を言っている暇はなく、割と洒落にならない威力の爆発だ。光線の直撃もやばそうだが、近くで爆破に巻き込まれても、ただでは済まないだろう。


 次弾の準備を初めている王○。

 避けるのは難しい事ではないが、それ以上に雪山では変化が起こっていた。


 爆発の影響か、彼方此方で雪崩が起きており、それが呼水となったのか多くの雪のモンスターが現れたのだ。


 そして呼応するように開かれる口。

 魔力が集まり、先程と同様の破壊光線が放たれようとしていた。


 空を飛ぶ俺達は、何の障害物も無い空間にいる良い的だろう。空を逃げ回っても、下を見れば王○が狙っている。いつまでも逃げ続けるのは不可能だ。


 破壊の光が一斉に放たれた。

 フウマが嘶き、魔力を爆発させて加速する。

 まるで、どこのシューティングゲームだと言いたくなるような弾幕の嵐の中、ひたすらに逃げて回避に徹する。


 かなりの高速移動の上に、俺が軌道修正を加えるので急速な方向転換を繰り返し、青と白の景色が上下左右に激しく入れ替わり、またしてもどちらが上か混乱しそうになる。


 白い方から雨のように破壊の光が降り注ぎ、当たりそうになったものを魔力の流れを生み出して逸らし、そして次の光線を魔鏡の盾で受け止め無効化する。


 無効化すれば爆発しないようなので一安心だが、いよいよ避け切れなくなって来た。


 速度は増しているのに、魔鏡の盾で防ぐ回数が増えていく。


 大量に被弾すれば、受け損ない負傷どころではないダメージを負うだろう。


 だから、フウマに声を掛けて、覚悟を決めるように呼びかける。


「リミットブレイク・バースト」


 フウマは山間に向かって急降下を開始し、それに釣られるように破壊光線が追って来る。

 そして、破壊の光は同種のモンスターを互いに貫きその数を減らして行く。


 轟音を響かせながら、互いを攻撃するモンスター。

 その威力は互いを破壊するだけに留まらず、雪を吹き飛ばし、山を削り、爆発して破壊する。

 勿論、被害は俺達にもおよび、というよりも、俺達を中心に起こっているので、逃れる事は出来ない。


 地上に降り、地に足を付けると、常春のスカーフの範囲から出て、喉を冷気で焼かれながら対処をする。


 リミットブレイク・バーストで強化しているとはいえ、破壊光線を全て凌ぐのは簡単ではない。

 全方位から降り注ぐ、百を超える光の雨を、魔力の流れを操るだけで凌ぐのは難しく、剥き出しとなった大地を使い地属性魔法で壁を作り続ける。


 それでも手が足りない。

 破壊光線の威力もそうだが、数が多い上に、新たな破壊光線が放たれようとしているのだ。


 少しでも数を減らそうと、雪のモンスターを巨大な石の杭で貫いて行くが、とてもではないが間に合わない。


 くそっと悪態を吐き、もう一度空に上がるべきかと逡巡していると、フウマが力強く嘶いた。


 何だと振り返ると、フウマから魔力が溢れ出し、体が黄金に輝き出したのだ。


 ちょっ!?おまっ!それ!すー○ーな人じゃねーか!?


 そんな俺のツッコミを他所に、フウマは属性の無い魔力を昇竜の戦輪に込めて操り、全方位に展開すると大きな魔力の流れを作り出した。


 破壊光線はその流れに逆らう事は出来ず、俺達を避けて飛んで行く。その方向には、他の王○のモンスターがおり、接触と同時に爆発して消滅させていった。


 もの凄いスピードでモンスターを倒していくフウマ。幾らモンスターの力を利用しているからと言って、この殲滅速度は異常だ。それに、破壊光線の威力が増している気がする。

 昇竜の戦輪の効果か、フウマが上乗せしているのかは分からないが、この殲滅する光景は圧巻の一言である。


 フウマの手により、モンスターを殲滅するまでそう時間は掛からなかった。


 見渡す限りにいた王○のモンスターが居なくなり、雪が見当たらなくなると、俺は治癒魔法で喉を治療してフウマを見る。


 するとフウマは、残った破壊光線をどうするか迷っているようだった。

 じゃあ空に投げれば良いんじゃねと言うと、頷いて上空……ではなく何故か山に向かって放った。


 轟音と共に揺れる大地、そして山が噴火した。




ーーー


雪の精霊(王○)


奈落の雪から生まれた精霊。最初に雪の塊となって迫って来るが、何もしなければ避けて通ってくれる。攻撃しなければ何もしない精霊。攻撃を加えると、雪全てが敵となり襲って来る。姿形はその時で違い、破壊光線はデフォルト。


ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 36

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

不屈の大剣 守護獣の鎧(改)

《状態》 

デブ(各能力増強)

《召喚獣》

フウマ


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フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考 限界突破 治癒魔法


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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
[一言] なんでデーモンに見逃されたんだろ。 会長が言ってた存在はこいつのことなのか
[一言] 雪の精霊、ナ○シカな対応が正解だなんて分るわけないだろ!(怒)
感想一覧
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