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奈落⑥(夜)

 あれから何度も食事をしているが、まだまだ夜は明けない。

 山岳地帯をフウマの風属性魔法で移動しつつ、多くのモンスターと戦闘を繰り広げている。


 頭が鰐のモンスターは常に群れを成して行動しており、一体見つけたら最低でも十体はいる。強力な地属性魔法を使い、移動速度も速いかなり厄介なモンスターだ。

 それでも、攻撃手段が地属性魔法しかなく、俺が攻撃を耐えている間にフウマに倒してもらうか、負傷覚悟で突貫すれば、何とか倒せるモンスターでもある。


 他にも、魔法で姿を隠し、暗闇から音もなく襲って来る人よりも大きな蝙蝠型のモンスター。猛毒を持ち、地面を高速で移動する人の倍の大きさの蠍型モンスター。


 そのどちらも厄介ではあるが、空間把握に反応しさえすれば倒せるモンスターだ。だからと言って、簡単な相手ではなく、梃子摺りながらも倒せる程度。油断すれば、間違いなく殺されるだろう。


 そんなモンスター達だが、一番厄介なのが目の前に立っているモンスターだ。

 そのモンスターの背丈は俺より少し大きい程度。

 一体は空を飛んでおり、一体は鎧を纏い戦斧を持ちこちらを見据えている。


 デーモン。

 以前にも戦った記憶はあるが、強力な魔法で襲われ死に掛けた覚えがある。あの時は魔鏡の鎧の特性で勝利出来たが、今回は魔法使い以外にも前衛の戦士がいる。


 空に浮かぶ魔法使いから感じる魔力もヤバいが、戦斧を構える戦士もかなりの使い手だ。


 嫌な汗が背中を伝う。


 場所は山の中腹で、足場が悪くやり難くいが、不屈の大剣を構えて奴らの一挙手一投足を見逃さないように見張る。

 フウマも奴らを威嚇し、昇竜の戦輪を操り展開しており、いつでも戦えるようにしている。


 魔法使いの魔力が唸る。

 それと同時に、一瞬で距離を潰して来た戦士が戦斧を振り下ろす。

 頭部に振り下ろされる凶刃に大剣を合わせて逸らそうとするが、その剛力を逸らすのは困難で即座に横に飛び退く。

 だが、避けた俺を追うように戦斧は直角に曲がり、襲って来る。

 不屈の大剣で受けるが、力任せの一撃は俺を弾き飛ばした。


 俺は地面を転がりながらも魔力を練り、追って来る戦士に向かって速度上昇の魔法陣を展開し石の槍を放つ。

 その魔法は戦斧により叩き落とされるが、そこに風の刃を纏った十のチャクラムが襲う。


 流石の戦士もそれに対処し切れずに、足を止めて受けに徹する。

 そこに追撃の魔法を放ちたいが、それを許してくれるほど相手は優しくない。


 戦士は大きく飛び退き、空中に浮かぶ魔法使いから魔法が放たれた。


 それは黒い闇の雷。

 真っ直ぐに向かって来る雷は、来ると分かっていても避けられるものではない。


 だから、魔鏡の盾に魔力を込めて準備していた。


 反射は無理。

 無効化を選択して、見切りで魔法の起動を予測し、魔鏡の盾を発動した。


 雷が落ちた音が鳴り響き、左腕が少しだけ痺れる。


「リミットブレイク」


 無効化には成功したが、デーモン達の攻撃は終わらない。

 戦士が魔法が散ったのを見て、追撃を仕掛けて来たのだ。

 正直、魔力は無駄にしたくないのでリミットブレイクは使いたくなかったが、そうも言っていられない。


「フウマ!魔法使いを頼む!!」


 戦士に攻撃を仕掛けようとしたフウマは、俺の言葉を聞いて即座に向きを変えて、空にいる魔法使いに向かい飛んだ。


 フウマではデーモンに勝てない。

 魔法の力量もそうだが、チャクラムがあっても肉弾戦がほぼ不可能なフウマでは勝ち目は無い。


 だから、目の前の戦士を早々に倒す必要がある。

 しかし、リミットブレイクを使ったからと言って、簡単に倒せる相手でもない。俺が一段階強くなるように、デーモンにも強くなる何かがあるようだ。


 デーモンの戦士が闇を纏い、先程よりも早く鋭く踏み込み、卓越した技量の横薙ぎが放たれる。


 それを受けるのは危険と判断して、間合いから逃れようと引くが、突如として戦斧から闇が伸び、刃となって俺の首を狩らんと闇が走る。

 何とか反応して不屈の大剣で受け止めるが、突然、闇が霧散し、大剣を超えて俺の首に届く。


 首元に熱が走る。


 風属性魔法で突風を吹かせて大きく距離を取り、並列思考で並行して首の治療を行う。


 がはっと喉に詰まった血を吐き出し、デーモンの戦士を見ると醜悪な顔を更に歪ませてニタリと笑っていた。

 余程、俺を殺せることが嬉しいのだろう。


 だからお返しに、風の刃で戦士の首を切り落とした。


 デーモンの戦士は何が起こったのか理解できていないようで、生首となっても驚愕の表情を浮かべている。


 俺自身、出来るかどうか分からなかったが、上手くいってくれて良かった。


 最近、自分の成長を実感している。

 特にスキルに関しては、これまでに出来なかった事が出来るようになっていた。

 今回使った魔法は、空間把握の範囲内にいるデーモンから漏れ出る魔力を操り、遠隔で首元に風の刃を発生させて切り落としたのだ。


 言うのは簡単だが、リミットブレイク中のみ可能なもので、並列思考で空間把握と魔力操作、風属性魔法を同時に使っており、それなりに負担は掛かっている。

 それに相手の魔力を使っているので、魔力に精通している魔法使いタイプには通用しないだろう。そうでない者相手でも、初見を見切られたら対処されるだろう。


 所詮、初見殺しの術だ。



 上空から助けを求めるような、悲鳴が聞こえて来る。

 魔法合戦をしているフウマとデーモンの魔法使いだが、どうやら魔法使いの方が圧倒しているようだ。

 フウマは風属性魔法だけに対して、デーモンの魔法使いは多種多様な属性と種類の魔法を操っている。

 数と威力の暴力を何とか凌いでいるフウマだが、機動力が落ちて来ており、いつやられてもおかしくはない。


 よくやったと時間を稼いでくれた事に感謝をして、デーモンの魔法使いを倒しに向かった。



 デーモンとの戦いを終えて、戦利品である装備を回収する。

 この奈落に落ちて、初めての戦果らしき物を手に入れたような気がする。一応、モンスターの亡骸は回収しているが、これらを換金する日が来るのか不明である。


 戦士の戦斧と鎧を剥ぎ取り、魔法使いからは杖のみを頂いた。魔法使いはローブを纏っていたのだが、倒した時に千切れてしまったので諦めるしかない。


 お疲れとフウマを労い、治癒魔法を掛けて頭を撫でる。

 以前は、頭を撫でると当たり前のように噛んで来ていたが、ここに来てからは鳴りを潜めている。

 状況を理解しているのか、成長しているのか分からないが良い傾向である。


 奈落ではモンスターとの戦闘も多く、そのモンスターも油断できないほど強い。味方にやられて治療で魔力を消費するのもアホらしいので、フウマのこの変化は大歓迎である。


 特に夜は、現れるモンスターの種類も多く、数も多い。昼間のように一体一体の強さはないが、一度倒せば一時の休憩を取れるようなことはない。

 交代で見張りが出来れば良かったのだが、俺が休もうとすると、フウマも一緒に休むので、そこは今現在教育中だ。


 まあ、地面を固めておけば、数十分程度なら休憩は可能で、少しずつだが仮眠は取れる。


 まとまった時間眠りたい所だが、それが許される状況ではないので諦めるしかない。それはイコール死に繋がってしまうからだ。


 そんな風に思いながらうつらうつらしていると、またモンスターの気配が空間把握に引っ掛かる。

 

 頭の中のスイッチを切り替え、迫るモンスターに備え魔力を高めていった。



ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 33

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

不屈の大剣 守護獣の鎧(改)

《状態》 

デブ(各能力増強)

《召喚獣》

フウマ


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フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考


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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
[一言] 同調率が上がってきているのか、今度は並列思考もゲットしてるのか。 もう既存の召喚獣とは別物だな(_’
[良い点] ダンジョンの時間や空間などの物理を無視したかのような摩訶不思議な世界観が面白いです。 [気になる点] 結局ダンジョンは世界に幾つあるのでしょうか?世界にここだけなら探索者が日本人だけなのは…
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