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奈落④

 死ぬかと思った。

 幼少期に怪獣映画を観て、怪獣カッケー!と憧れたのを覚えている。それを実際に経験すると、こりゃあかん状態になってしまい、怪獣死ねー!と思いながら自身の死を予感するハメになってしまった。


 あんな怪獣が地上に出て来たら、世界は滅んでしまうだろう。

 それくらいの存在が、間近で衝突していたのだ。

 おかげで走馬灯どころか、生きてる爺ちゃんが迎えに来る夢まで見てしまった。


 流されて流されて、どこまで流されたか分からないが、目覚めた先には山があった。それは元々あった物だとは思うが、あの怪獣の戦いで出来た物だと言われても納得してしまう程に、あの戦いは凄まじかった。


 文字通り地形を変える戦い。


 あんなの倒そうなんて考えるだけ無駄だ。

 俺の命なんてダースどころか、万単位で消えて無くなってしまう。


 どうしても倒したいならウ○ト○マン呼んで来るか、俺にウルト○アイを寄越せ。玩具じゃなくて本物を頼む。


 まあ、とりあえず生き残ったから良しとしよう。

 フウマが怯えて背中に張り付いているが、今は仕方ない。


 それよりも問題は目の前の遺物だ。


 山の隣に転がっており、フウマが怯えている原因でもある物。


 それは、怪獣大決戦で敗北した海亀の亡骸だった。



 ドーム球場並みの甲羅が、ひっくり返って転がっている。その甲羅にはヒレが一つ付いているのみで、首と他のヒレは無くなっていた。

 全体的にこんがりと焼かれており、何とも言えない臭いが漂っている。

 背中にあったフジツボは、見える範囲には付いておらず、熱を受けて取れたのかも知れない。


 近付いて確かめようと思ったが、未だに高熱を発しており、周辺の地面が高温に晒されて赤く熱を持っており近付けない。それに、あの巨大な蛇が追撃に来る可能性もあるので、早くここから離れるべきだろう。


 そうと決まれば早く離れようと、フウマを背中に付けたまま海亀の亡骸に背を向けて歩き出す。


 歩き出して、少しだけ疑問が湧いた。


 本当にこのモンスターは死んだのだろうか?

 巨大で生命力に加えて、膨大な魔力を持った存在が死んだのだろうか?

 俺でも欠損を治せるのに、理外のモンスターが再生できないのか?


 その疑問はフラグだったのだろうか、海亀の亡骸から膨大な魔力が吹き出して来たのだ。


 何だと振り返ると、海亀から水が溢れ出し、熱で蒸発して蒸気が辺りに立ち込め視界を遮る。


 嫌な予感どころか悪寒が走り、まずい事になっていると理解する。

 本来なら逃げるべきだろうが、どうなっているのか気になり風を巻き起こして、視界を遮る蒸気を吹き飛ばした。


 遮るものが無くなると、生まれたばかりの目玉と目が合った。


 それは海亀の頭部があった場所であり、巨大な蛇に食いちぎられたであろう場所に目が生まれていた。


 復活する。

 そう思ったとき、ドクンと大きな鼓動が鳴った。


 逃げないと、早く、遠くへ。

 そう考えて、それで助かるのかと疑問が浮かぶ。


 この巨大な海亀の移動速度はフウマよりも速い。

 なら、復活すれば追い付かれるのではないか?


 逃げても無駄?

 どうする、どうする、どうする……どうする……。



 魔法陣を展開すると、石の槍を作り出す。

 展開した魔法陣は貫通、分裂、爆発の三種類。

 狙いは目が生まれた場所、そして今も増えている場所。


 石の槍を放つ!

 一度だけではない、何度も何度も、回復した魔力が尽きるまで放つ。


 魔力が尽きたらマジックポーションを飲んで放つ。

 生まれた目を潰し、肉を抉り、首があった場所から体内まで破壊するように、全力で殺意を込めて、ひたすらに魔法を放つ。


 二本目のマジックポーションを飲む。

 爆発的に湧き出る魔力が体内で暴れて、はち切れそうになるが、魔力操作に集中して抑えると、即座に魔法へと変換する。


 再生しようとする細胞を阻止するべく、我武者羅に魔法を叩き込む。もっと魔力を込めて、より威力が出るように、魔力を研ぎ澄まし、最善の魔力操作を意識して更に加速する。


 三本目のマジックポーションを飲む。

 体中から血が吹き出し、意識が吹き飛びそうになるが、必死に繋ぎ止めて魔力を操る。意識して意識して魔力を操作して魔法を使い続ける。

 フウマも俺の意思を汲んだのか、魔法を叩き込んでいた。


 かなり削ったはずだが、海亀の魔力はまだ健在だ。

 それでも、抵抗らしき抵抗はなく、一方的に攻撃出来ている。もしかしたら、反撃する能力が今は失われているのかも知れない。


 石の槍に細く凝縮した竜巻を宿す。

 魔力がごっそり持っていかれるが、威力は段違いに上がるはずだ。


 三つの魔法陣を通過して、音速を超えて放たれる石の槍。


 いけと、行ってくれと願い、雄叫びを上げ次弾を放った。



 どれだけ魔法を放ったか分からない。

 並列思考で魔力循環を意識して魔力回復を促し、四本目のマジックポーションを飲んで、左腕がボロボロと崩れ落ちた。

 暴れる魔力を制御し切れずに左目が視力を失ったが、構わずに魔法を使い続ける。


 少しずつ少しずつ削り、魔力が底を尽きかけ意識が朦朧とし出す。

 もうマジックポーションは飲めない。

 次飲めば、体は形を保てなくなるだろう。

 たとえ治癒魔法で体を再生したとしても、次はもうない。


 だから終わってくれと願い、最後の魔法を放つ。



 何かを破壊した感触があった。

 魔法に感触というのはおかしいが、何かを成したという感覚があったのだ。


 それが証明されたのは、巨大な海亀から魔力が霧散した時だった。


 終わった。

 やっと終わった。

 やっと終わってくれた。


 俺は拳を握り、シャーッ!死に去らせやボケー!!と絶叫して勝利宣言をした。


 どんだけ俺の手を煩わせんだよこの野郎!!

 マジックポーション飲み過ぎて死にかけただろうがい!

 テメーのせいで五本も消費してんだぞ!?

 分かってんのか!百万だぞ、テメーのせいで百万円が飛んだんだぞ!?

 大人しく死んどけ……や…………また復活しないよね?


 嫌な予感というか、よく考えたらこの状態から巨大な海亀は復活しようとしていた。

 どれだけ時間が掛かるか分からないが、十分に復活する可能性はある。


 どどどどっどうしよう。

 目が合ってるし、絶対復讐に来るよね?


 治癒魔法で体の修復をしつつ考える。

 復活するまでに逃げたとして逃げ切れるのか、どうやったらこの巨大なモンスターの脅威を排除出来るのか、どうやったら完全に殺せるのか。

 考えて考えて答えが出ずに迷っていると、フウマにポンと叩かれて、アドバイスをもらう。


 収納空間に仕舞って閉じ込めれば良いんじゃない?と。


 いやいや、そんな、生きてるし、爺ちゃんと一緒で生きてるし、入らないってと言いながら巨大な海亀に触れると、収納空間に入りそうな感触があった。


 おいおいマジかよと思いながら収納空間を発動すると、巨大な海亀の姿が消えた。


 目の前から脅威が去り、俺はその場で腰を落としてしまった。

 巨大なモンスターが消えただけで、まだ周辺にはモンスターがおり、危険なのは変わらないのだが、この安堵感はどうしようもなく俺の体から力を奪った。


 横で同じように腰を下ろすフウマ。

 そして安心したからか、腹が思い出したように空腹を主張する。

 それはフウマも同じだったようで、ブルッと鼻を鳴らして飯を寄越せと言って来る。


 今回は頑張ってくれたし、まあ良いだろうと食事の準備に掛かろうとして、草のモンスターにフウマが連れ去られた。


 おまっ!またかよと不屈の大剣を手に駆け出すのだった。




 休憩を終えた俺達は、山を登り頂上を目指す。


 怪獣どもの戦いに巻き込まれるまでの場所は、見る限り緑の地平線が続いており、どこに行けば良いのか分からなかった。だから頂上に行けば何か見えないかと、希望を抱いて登っているのだが、変化は唐突に起こった。


 空が段々と暗くなり始め、見える限りの草原が枯れ始めたのだ。


 それが夜の訪れだと気付いたのは、空が完全に闇に染まってからだった。



ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 31

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

不屈の大剣 守護獣の鎧(改)

《状態》 

デブ(各能力増強)

《召喚獣》

フウマ


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フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考


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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`) 描写がうまい………
[一言] 敵を倒してレベルアップした。 神に近い存在を倒して、2レベルUp。 つまり、マジックポーションで魔力の器?的な物が異常に広がったから、それを満たすために経験値が使われて、2レベルしか上がら…
[一言] 取り敢えず ウルトラアイはセブンと突っ込んでみる。 マンとセブンは別物なのです。
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