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百八十四日目〜百八十五日目

 前日はいつもと違い、早くから活動したので嫌な思いをしたのだろう。その反省を活かして、遅くまで寝て活動を開始する。


 くわっと欠伸をして顔を洗う。

 うがいを何度かして乾いた喉を潤すと、キラービーの蜂蜜をショットでクイッと飲む。


 ……クィ。


 一日の日課を終えると食事の準備に取り掛かる。

 時計を見ると、もう昼の、昼の……まだ朝の七時だな。


 昼まで寝ていると思ったら、まだ朝の時間帯だった。

 かなり良い目覚めだったので、てっきり半日は寝ていると思っていたが、その半分の六時間しか寝ていなかった。

 これじゃ、会社勤めしていた頃とそんなに変わらないではないか。


 会社員の頃は、朝食なんて食べる余裕は無く、前日にコンビニで購入したパンを齧りながら出社していた。

 あの頃に戻りたいとは思わないが、何故か懐かしく思えてしまう。良い思い出ではないが、あれも人生経験だと今なら言える。


 目玉焼きとベーコンを焼いていく。サラダを多目に作ると、二つに分けて目覚めたフウマの前に置いてやる。


 さあ、これがお前の朝食だとサラダを差し出すと、何か不満があるのか、片足を上げて目玉焼きとベーコンの乗った皿を指した。


 何だよ、お前もこれ食べたいのか?

 ダメだって、馬は草食だろうが。体に悪いんだって。

 なに?この前も肉食ってただろって?

 あれは肉っぽく加工した大豆だ。そう思っとけ。

 納得いかない?

 じゃあパンの耳やるから我慢しろ。

 ちょっ!?冗談だって!だからこの狭い部屋で魔法は使うな!?


 食事に文句を言うフウマを説得して、魔法の使用を中断させる。

 召喚した日から思っていたが、こいつは食事に関して妥協を知らない。馬なのに何でも食べて、俺の食事でもお構いなしに奪いに来る。

 なんて卑しい奴なんだと軽蔑の眼差しを向けて、フウマの前に大量のパンの耳を置いてやる。


 瞬間、突風を受けて窓から外に放り出された。




 朝から散々な目に遭ったが、腹を満たせばある程度気持ちはリセットされる。


 朝の準備を終えて、いつもの如くフウマを脇に抱えて電車に乗る。そして、いつものようにダンジョンのある駅に向かうのだが、途中の駅で昨日の少女が乗車して来た。


 そう、俺を犯人に仕立て上げた少女一味の一人が乗車して来たのだ。


 彼方も俺の存在に気付いたのか目が泳いでおり、挙動不審な行動をしている。

 その様子を見て、俺はフウマを下ろす。そして、ニチャと笑みを浮かべて少女の元へと歩き出した。


 少女は逃げ出したいようだが、残念ながらこの車両は最後尾で隣がない。


 近付く俺を見て怯えた顔をする少女、麻布マツリは周囲を見渡すが、残念ながら誰も注目しておらず、他の乗客はスマホに夢中である。


 マツリは怯えた表情を絶望に変えて、無言で防犯ブザーを鳴らした。


 おいおいおいおい!?何やってんだこの子!?

 他の乗客に迷惑だろうがい!!


 俺は急いで防犯ブザーを取り上げて停止させると、マツリに防犯ブザーを返して元の座席に座った。

 その様子をキョトンとした表情で見送ったマツリは、何だかよく分からないといった様子だ。他の乗客も防犯ブザーの音に驚いてはいたが、何事もなかったように元の体勢に戻っている。


 俺は腕を組んでどっしりと座る。

 昨日の出来事で言いたい事はあるが、あそこまで怯えた少女に文句を言うつもりはない。昨日は頭に血が昇っていたせいで、泣かしてやろうかと思っていたが、大人の俺が冷静にならないと一方的にいじめるだけになってしまう。


 だから冷静にならないといけない。


 別に貧乏ゆすりが激しかったり、目がギンギンとしているのは、イラついているからではない。


 あーここにいる全員、足の小指ぶつけて悶絶しねーかなー。


 やさぐれた心でそんな事を思っていると、一人の少女が俺の前に立つ。

 マツリだ。

 何だろう、父親に連絡されるのが怖くて、言い訳でもしに来たのだろうか。


「昨日はごめんなさい!」


 謝罪なのだろうが、勢いよく頭を下げた勢いで、マツリの三つ編みがギンギンに開いた目に直撃する。


 ああぁぁ〜っ!?


 俺は目を抑えて悶絶し、座席をバンバンと叩いてしまう。


 なんだこれは、人の不幸を願った罰か?

 朝早くから動いたのがいけなかったのか?


 マツリはまたやっちゃたとか言って慌てている。


 またってお前、日常的に髪の毛アタックかましてんのか?

 桃○白じゃないんだぞ、このヤロウ。


 催涙スプレーを受けたとき並みに涙が溢れ、一駅過ぎるまで蹲っていた。次の駅で乗り込んで来た乗客は、少女に泣かされる男の図に興味深々の様子だ。スマホの画面を開き、カメラがこちらを向いているので、撮影しているかもしれない。


 俺は気まずくなり過ぎて、我慢できずに次の駅で降りた。


 そして、何故かマツリも同じ駅で降りてきた。


 この駅で降車する予定だったのかと思ったが、どうやら違うらしく、俺に謝罪したくて一緒に降りたそうだ。


 どっちの謝罪だと尋ねると、昨日とさっきの両方だと言う。まあ、髪の毛アタックは事故のようなものなので、この際どうでもいいとして、昨日の件はどういう事だと事情を尋ねる。


 なんでも、中学の友達とダンスチームを作っているらしく、動画投稿サイトに活動をアップする為に、動画を撮影をしていたらしい。

 あのショッピングモールでの撮影は初めてではなく、前に何度か撮影しており大丈夫だと思っていたそうな。

 それで、撮影が終わり帰ろうとすると、大人の警備員に囲まれてパニックになり、リーダーの娘が咄嗟に嘘を吐いたらしい。


 パニックになったのか、じゃあしょうがないな。なんて思うはずもなく、少しばかり俺の血圧が上がった。


 この話を聞いて、前にも同じように撮影してたからマークされてたんじゃないかと指摘すると、今頃気付いたように驚いた表情をする。

 店側も勝手に店内で撮影されたら困るだろうし、その動画を見た奴が、同じように行動するかもしれない。

 それで、事件や事故が起これば、それを許した店舗側に責任追及される恐れだってあるし、風評被害だって馬鹿にならないだろう。だから捕まえてでも、辞めさせる必要があるのだ。


 今度からは人に迷惑の掛からない場所でしろと言うと、それに付いても話し合ったらしく、今度はダンジョンで撮影しようという事になったらしい。


 そうか……ところで、人の話聞いてたか?


 俺の問いに頷くマツリ。

 どうやら話を聞いて、人の迷惑にならない場所がダンジョンだとマツリは思っているらしい。


 目頭を押さえて考える。


 ダンジョンでダンスするのは迷惑にならないか?

 いや、ならないな。別に踊るのは自由だ。

 モンスターを誘き寄せるだろうが、自衛できる力があれば問題ない。

 じゃあ、マツリやダンスチームに自衛する力はあるのか?


 ……あるわけないじゃん。


 そう結論付けた俺は、まあ待てとマツリを落ち着かせて、駅のベンチに座る。

 そして、ダンジョンがどんなに危険な場所なのかを懇々と説明する。モンスターがいて人を襲うと、たとえ1階でもダンゴムシが集まれば脅威になると、何より探索者が危険だと、経験した話を織り交ぜながら死の危険を話してしていく。


 分からなかったら麻布先生に聞くといい、お前のお父さんは俺の先生だからな。


 そう言うと、マツリはキョトンとした顔でお父さんを知っているのと驚いている。


 俺のこと覚えてないんかい。

 まあ、一度会っただけの、しかも会話もしてないので覚えてないのも無理はない。だから、一緒にショッピングモールに向かった話をすると、何となく覚えているような様子だった。


 それはいいとして、ダンジョンで踊ろうなんて考えるなよと釘を刺して、次に来た電車に乗り込んだ。



 ダンジョンのある駅に到着すると、置物に扮したフウマが柱の陰で待機していた。




ーーー


常春のスカーフ


装着者及び、装着者から半径50cmを装着者に適した気温に保つ。魔力を消費して気温の調整も可能で、弱い結界も展開できる。頑丈に作られており、防具としても機能する。


買取価格 八百万円


ーーー


昇竜の戦輪


魔力で操る事が可能なチャクラム。魔法を付与することが可能で、威力を一段階上げる事が可能。但し、相応の魔力が消費される。チャクラムは投げても使用可能だが、威力は低い。

※操作が難しく、長時間の訓練が必要。


買取価格 五百万円


ーーー


 ギルドで鑑定してもらった結果、常春のスカーフはかなり良い物だと分かった。どんな状況でも、装着者に適した環境を提供してくれるなんて、最強のアイテムではないだろうか。夏は涼しく、冬は暖かくなる。最高じゃないか。


 もう一つの昇竜の戦輪は、名前の割にパッとしない。

 魔法の威力を上げるのは魅力的だが、わざわざ付与するという工程を踏まなければならない。戦いの最中に、そのタイムロスは命取りである。


 だから売りたいのだが、常春のスカーフも昇竜の戦輪も、今はフウマが装備している。


 置物となっていたフウマは、俺の姿を見た瞬間ブチギレた。

 電車に置き去りにされたから怒ったのか、俺がすっかり忘れていた事にキレたのかは分からないが、俺の腕に噛み付いて離れようとしなかった。


 粉砕骨折よろしく、バキバキに折れた俺の腕と心は、フウマに欲しい物やるから許してくれと泣きながら懇願して、ようやく解放してくれたのだ。

 漫画本でも渡しとけば満足するだろうと、安易に考えていたのだが、ギルドで鑑定結果を聞いた瞬間、フウマは二つのアイテムを強奪して身に着けてしまった。


 常春のスカーフの端を口にして、流れるようにスカーフを巻くので止める事も出来なかった。

 更に、訓練が必要だと説明のあった昇竜の戦輪を、魔力を伸ばして遠隔で操作して浮かせて見せた。


 いやいや返せよと取り上げようとすると、さっきくれるって言っただろうと歯を剥き出しにして威嚇してくる。

 どうやら、ご機嫌は治っていないようだ。


 年末年始で狩ったモンスターの素材だけでも、それなりの収入にはなったので、まあ良いかと思う……はずもなく、昇竜の戦輪はともかく、常春のスカーフは返さんかいとフウマに抗議する。


 どんな環境でも、最適な環境を提供してくれる常春のスカーフを他人に渡すデブがどこにいる。夏は地獄なんだぞ。


 デブ、デブ……。

 改めてフウマを見ると、フウマもデブだった。


 ……シェア、しようか。

 そう提案すると、フウマも黙って頷いた。



 ダンジョン32階


 チャクラムが風の刃を纏って宙を舞う。

 飛翔したチャクラム達は、ホブゴブリンを違う方向から襲い切り刻んでいく。


 ホブゴブリンも良いようにやられる訳ではなく、一つは剣で受け止め抵抗する。しかし、次のチャクラムの対処は出来ずに腕を落とされる。

 弓使いのホブゴブリンは、チャクラムを操るフウマを直接狙うが、それに勘付いたフウマは前方に結界を張って防御する。

 張った結界は、弓の一撃で霧散するが、次を射られる前にチャクラムが弓使いを襲い、その命を刈り取った。



 程なくして終了する戦闘は、フウマの独壇場だった。

 何も出来ずに終わるホブゴブリン達に、思わず同情したくなる程に一方的だったのだ。


 つい数時間前に手にしたばかりの、常春のスカーフと昇竜の戦輪を当たり前のように使い熟している。

 ここに来るまでに、何度かモンスターと戦っており、回数を重ねる度に、アイテムの扱い方が上達している。


 俺も試しに、昇竜の戦輪に魔力を流して操作してみると、案外上手く操作出来た。

 長時間の訓練が必要だと言ってたのに、誤情報なのかとも思ったが、何度か扱った感触で、スキル魔力操作の効果で簡単に扱えているのだと察した。


 俺にチャクラムを扱う才能があるとかではなく、あくまでスキルによる効果だ。スキルは消えないので、それも才能だと言われたらそれまでだが、少なくとも自慢出来るものではない。ただ、運が良かっただけに過ぎないのだから。



 暫く探索をして、いい時間になったので、幻惑大蛇の幻に攻撃しているフウマに帰ろうと提案する。

 しかし、いつまでも消えない幻に夢中で、俺の声は届いていないようだ。


 俺は仕方ないなと、フウマの背後に迫る幻惑大蛇を倒そうと近寄るが、そこで予期せぬと言うか、やっぱりかいと言うか、ムキになったフウマが昇竜の戦輪に竜巻を付与して、辺り一帯を巻き込んで吹き飛ばした。


 その中には勿論、俺やフウマ自身も含まれており、例の如く擬似バシ○ーラで、どこかに飛ばされるのだった。


 そろそろ送還の方法を考えた方が良さそうだなと思った。

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― 新着の感想 ―
馬が出て来てから、急激にテンポが悪くなった。 まるで別の作品みたいで残念です。 ドラマの途中でストーリーに関係ない漫才が差し込まれている様な?
ファンネル
登場キャラ一体(フウマ)でここまで読む気が失せたのは初めてだ…
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