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百八十一日目

 地上に帰ると、世は正月期間中だった。

 ダンジョンを出ると、まずはギルドに向かうのだが、残念と言うか当然ながら営業していなかった。


 いつもは、ギルドで換金する待ち時間にシャワーを浴びて汚れを落としているのだが、今回は近くの銭湯にでも行くとしよう。

 ダンジョンで水浴びをしていたとはいえ、そう頻繁に出来るものでもなく、完全に汚れを落とすのは不可能だった。

 流石に汚れた状態で帰ると、周囲に迷惑が掛かるし、俺も恥ずかしい思いをするかも知れない。多分。


 だから銭湯に来ているのだが、


 ダメ?入れない?

 何で?

 ペット同伴は禁止?

 ペットなんて居ないけど……あっ。


 ペットと言われて何を言っているのか分からなかったが、俺の後ろには小さな馬が付いて来ていた。


 いや、何でお前居るんだよ、ダンジョンで別れ告げただろうが。


 そう、俺はフウマとダンジョンでさよならをしたのだ。

 地上に戻る前に、フウマを送還しようとしたのだが、一向に従う気配は無く抵抗し続けたのだ。

 最後はブチギレて、もうお前なんて知らん!とダンジョンに放置したのだが、何故か当然のように付いて来ている。


 てか、俺は守護獣の鎧身に付けてないのに、何で存在していられるんだ?召喚獣ってそういうものなのか?

 そんな疑問が浮かぶが、それは今度、武器屋の店主にでも聞くとして、こいつをどうするかだ。


 このままでは、俺は銭湯に入れない。

 つまり、汚れた状態で帰るという事だ。

 それは恥ずかし……くはないが、ダンジョンから帰還した気持ちをリセットする為に、一度汚れを落としておきたいのだ。


 やい!フウマ!ダンジョンに帰ってろ!

 銭湯でサッパリ出来ないだろうが!

 なに?お前もサッパリしたいって?

 ダメだっての!ペット禁止なんだよ!

 つーか、何で当然のように付いて来たんだよ!?ダンジョンで草でも食ってろよ!


 俺は言うことを聞かないフウマを抱き上げて、激しく揺さぶる。しかし、その程度の動作で動じるフウマではなく、寧ろ楽しそうな気配さえ感じる。


 そんな行動は、たとえ本人達に暴力的な行為をしているという認識は無くても、周囲の目がそう見てくれるとは限らない。


 え?通報するって?

 何のこと?

 動物虐待?もう警察に通報したって?

 いやいや、こいつは動物じゃ……警察さん、今日は仕事が早いですね。


 フウマは動物ではないと説明しようとすると、肩を叩かれた。振り返ると警察がおり、事情を説明する間もなく連行された。

 どうやら、何度か警察のお世話になったせいで、とりあえずと言う事らしい。


 納得出来るかちくしょう!?



 理不尽な理由で連行された俺は、以前お世話になった警察官の名刺を出して、この人を呼んでくれと頼んだ。

 すると、丁度勤務時間だったらしく、少しすると目的の警察官が現れた。

 その警察官は以前に、俺を長時間放置していた人物であり、今度飯を奢るとか何とか言ってた人物だ。


 その警察官は戸塚さんという名前で、五十代のベテラン警察官でもある。


 戸塚さんは俺の顔を見ると、また何かやったのかと呆れたように聞いて来る。

 人聞きの悪いこと言うなと反論して、無実の罪でしょっ引かれたと訴える。すると戸塚さんは、俺をここまで連れて来た警察官に事情を尋ねると、じゃあ仕方ないなと言って納得してしまった。


 いやいや!?おかしいでしょ!?

 俺は虐待なんてしてない!寧ろ喜んでたんだって!?

 それは、お前が思っているだけじゃないかって?

 そんな訳ないでしょ!

 あいつのせいで、俺がどんだけ苦労したと思ってるんですか!?

 あの馬鹿馬がどっかに行くせいで迷子になって、何日も彷徨ったんですよ!もう遭難ですよ、遭難!

 そうなんですかって?

 寒い親父ギャグ言ってんじゃねーよ!!


 古の親父ギャグを口にする戸塚さんにツッコミを入れると、戸塚さんはニッと笑って得意げにしていた。

 これ以上のツッコミは相手を喜ばせるだけだと悟った俺は、さっさと話を進める事にする。


 それで、もう帰っていいですか?

 もう疲れたんですよ、いろいろあって。

 えっ臭い?

 えっ戸塚さん屁こいたんですか?この密室で勘弁して下さいよ〜。

 違う?俺?

 だから銭湯に行ってたんですよ!

 何日も森の中彷徨って、道に出たと思ったら反対に行ったり!食料なんて直ぐに無くなって、現地調達だったんですよ!分かります!?動物狩って、下処理して食料にするんですよ、もう大変で大変で……ちょっと、面倒くさそうにしないでもらえます?


 どんなに大変だったか力説していると、嫌な顔をした五十代のおっさんが正面にいた。

 戸塚さん、あんたの顔、そんなに変な顔だったのかい?そう言ってやりたかったが、取調室に他の警察官が入って来たので、話を中断した。


 その警察官によると、どうにも動物が暴れているらしく、手が付けられないそうだ。そこで飼い主を呼びに来たらしい。


 そうか、早く行ってあげなよ戸塚さん。そう促す俺だが、お前の事だと当たり前のように返された。


 ですよねー。



 暴れている動物がいると聞いて来てみれば、暴れていると言うより、飯を漁っていると言った方が正しかった。

 時間が昼時という事もあり、誰かが注文したであろう丼ものをミニチュアホースがガッツリと平らげていた。


 周囲の警察官も必死に止めているが、そのミニチュアホースの動きを止める事は出来ていない。ミニチュアホース、フウマは100kg以上の体重があり、まるまると太っている。その力はダンジョン31階以降でも戦え、20階を超えた程度の力しかない警察官では歯が立たないのだ。


 抱き付いた警察官(女性)を引き摺って丼に顔を突っ込んでいるフウマは、口をもぐもぐと動かして、とても満足そうだ。

 そして抱き付いている女性警察官も、どこか楽しそうだ。

 Win-Winの関係が出来ていて、とてもいい結果に収まっている。


 って、そうじゃない。

 俺は何やってんだと、フウマを掴んで丼にから引っぺがす。ついでに女性警察官も付いて来そうだったが、俺の顔を見るなりフウマから手を離した。


 少し引っ掛かるものはあるが、それはこの際おいておこう。

 俺は戸塚さんにフウマを差し出して、煮るなり焼くなり好きにして下さいと言って判断を任せた。

 きっと戸塚さんなら、良い感じにしてくれると思ったからだ。そして期待通り戸塚さんは、


「さっさと連れて帰れ」


 俺とフウマを警察署から追い出した。



 いやいや、勝手に連れて来ておかしくない!?そう反論したかったが、下手したら公務執行妨害や業務妨害で捕まりそうだったので、大人しく警察署を後にした。

 結局、汚れは落とせなかったので、警察署から歩いて帰る事になる。交通機関はあるにはあるが、年始という事もあり多くの人が利用していて、フウマを乗せて行けるか分からなかったのだ。

 まあ、警察署からならアパートまで歩いて一時間も掛からないくらいだし、前にウォーキングしていた時も来ていたので問題ない。


 道を歩くと、フウマを見た通行人が指差したり、スマホを構えたりしている。

 まあミニチュアホースは珍しいし、デブな馬なので面白いのだろう。フウマは気にした様子はなく、信号待ちをしていると子供から触られるくらいだ。


 子供の母親から触っても良いですかと尋ねられたので、お好きにどうぞと言うと、子供は恐る恐る手を伸ばして、そっと頭を撫でる。

 子供に撫でられている間は、フウマは凄く大人しくしており、いつもこうなら良いのになと思う。


 子供は満足したのか、フウマから離れると母親の元に戻る。母親は良かったねと微笑んでいた。


 それから、信号で止まる度に子供に撫でられるフウマの姿が見られ、石を投げて来るガキには風を吹かせて転ばせていた。

 やられたらやり返す。

 当然の行動だが、やり過ぎには注意が必要だ。

 相手は子供だし、石が当たったくらいで怯むフウマではない、教育の面を考えても丁度良いくらいではなかろうか。


 フウマの頭を撫でて、よく我慢したなと褒めてやると、嬉しそうな表情をして俺の手を噛んだ。



 馬刺しにしてやろうか?


 

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― 新着の感想 ―
まだ、このくだり続くの? フウマ足枷にしかなってないやん ハズレと諦めてさっさと強制送還すればいいのに
がんばれ(´・ω・`)
[一言] もう殺しちゃえよ、フウマ
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