表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/348

百六十五日目

 手の中にある指輪を見て悩む。

 売るべきか、使うべきか。


 昨日、探索を切り上げて帰る道すがら、宝箱を発見してしまった。

 宝箱を見つけると、いつも何かしらイベントが発生するので、そーっとそーっと近付いて、神鳥の靴に鉤爪を生やし、そーっと開けたのだが、そーっと開けたのが良かったのか何も起きなかった。


 宝箱の中に入っていた物は、一つの指輪。

 紅くガーネットのような宝石が台座に嵌め込まれており、リング自体も淡い赤色になっていた。


ーーー


真紅の指輪


火属性魔法を強化する。指輪を左手薬指に通すと、一定時間毎に魔力が微小回復する。


買取価格 三百万円


ーーー


 火属性魔法は使えないので本来なら即売却なのだが、その後の魔力微小回復には心が動かされる物がある。

 現状、ソロで探索している以上、魔力の枯渇は生死に直結する。30階を超えて魔力量は増大し、スキルにも魔力循環という回復可能なモノを習得しているが、他にも手段があるなら確保しておきたい。


 でも、お金も欲しい。


 ベッドの上で悩んで、結局売る事にした。

 魔力の回復は魅力的だが、どうにも左薬指に付けなければならないというのが気になる。

 別に付ける予定のない指ではあるが、なんか、こう、大切にしたいじゃん。それに、いざ運命の人と出会った時に、指輪してたら誤解されそうだしな。


 さあ、そうと決まったら、早速売りに行こう!

 そして、巨ぬーな姉ちゃんと出会うんだ!


 意気揚々とアパートを飛び出して、盛り上がった気分でスキップしていると、階段の一歩目を踏み外して転げ落ちた。


 ガンガンと体を打ち付けるが、どうやら脂肪が守ってくれたようで無傷である。

 デブ万歳。


 まあ、嘘だが。

 無事なのは、スキル頑丈のおかげだろう。

 もしかしたら、軽トラに轢かれたくらいじゃ、傷一つ負わない体になっているかも知れないな。


 段々、人間辞めてきたなと思いながら、立ち上がり埃を落とす。


 すると、大丈夫ですか?と心配する声が聞こえて来た。

 そちらを向くと、学生服姿の女子高生が立っており、それがハーレムパーティの桃山悠美だと気付くのに時間は掛からなかった。


 俺は桃山に大丈夫大丈夫と答えて、久しぶりだなと声を掛ける。

 桃山も俺だと気付いたのか驚いた顔をしている。


 なんだ、家って近所だったのか?

 違う?ああ、他のパーティメンバーの家がこっちにあるのか。

 他の奴らは居ないのか?

 先に集まっているのか。そうか、上手くいってるんだな……。


 良かったと、何故かほっとしている自分がいた。

 桃山は何かを拾うと、落としましたよと言って俺に真紅の指輪を渡して来る。

 あっ!と驚いてお礼を言って受け取ると、桃山は指輪着けるんですねと不思議そうにしていた。


 なんだか、お前みたいなのがお洒落するのかよと言われている気がするが、きっと被害妄想だろう。それに俺自身、首飾りや指輪などの装飾品を身に着けるのが苦手だ。もっと言えば腕時計もしたくない。会社に勤めているならば、必須ではあるが、それ以外では極力外していたい。


 指輪に傷が付いてないのを確認すると、昨日ダンジョンで手に入れたんだと説明する。

 へーと感心している桃山は、どんな効果があるのかと聞いて来るので、俺も隠す気もなく素直に教えた。

 すると、真剣な表情で考え込んだ桃山は、真紅の指輪をどうするのかと更に尋ねて来る。

 どうしたんだろうと思いながら、これから売りに行くんだと答えると、桃山は俺の手を握ってお願いして来た。


「その指輪、譲ってくれませんか?」


 目をうるうるさせて、庇護欲を掻き立てるような表情で迫る桃山。

 可愛いじゃねーかと思いながら、俺も笑顔で


「四百万な」


 と売ってあげる事にした。




 あの後、桃山は相談しますと言い、どこかに電話を掛け始めた。少しすると許可が出たようで、振込先教えると即座に振り込まれた。

 こいつら儲かってんなと思いながら、真紅の指輪を渡す。


 百万単位をポンと出せる探索者高校生。

 凄い時代になったもんだ。


 頭を下げて去って行く桃山を見送り、俺もダンジョンに向かった。




 ダンジョン31階


 武器屋で新たに灰色のプロテクターを購入した。

 俺は所謂ビッグサイズなので、鎧にすると更に料金が掛かってしまう。なので、幾らかサイズの調整の効くプロテクターにした。

 耐久値は鎧に比べて劣るが、軽くて動き易いので悪くはない。額当てと脛当ても付いており、かなりお買い得に感じる。とは言っても、予算より少しばかり足が出てしまったが。

 店主が後払いで良いと言ってくれたので、お言葉に甘える事にして購入したのだ。


 これで一通りの防具は揃った事になる。

 魔鏡の鎧に比べたら見劣りするが、それでもこの階から暫くは通用する装備だ。


ーーー


ブレイブプロテクターver.5


ジャイアントスパイダーの糸を加工して何重にも縫い合わせ、表面を鋼とアダマンタイトを混ぜ合わせた物で覆っている(アルケミスト社製)


耐久値 60


ーーー


 耐久値は魔鏡の鎧の半分以下だが、それでも八百万円もしたのだ。

 大切にしないと。



 草原の中、引かれた一本道をひたすら歩く。

 別れ道を右に進んだのだが、一時間以上歩いているが、見えるのは草と木ばかり。遠くには大きな山も見えるのだが、そこまで行こうとすると、一日歩いたとしても、まず辿り着けない。


 のんびり行こうと思いながら、ホブゴブリンと運動して進んで行く。

 一度、六体と遭遇したが、防具があるという安心感からか、力まずに戦えた。

 立ち回りを意識して、矢の射線と前衛が重なるように動き、前衛三体を確実に仕留めてから、後衛の討伐に当たる。

 もっと良い立ち回り方がありそうだが、それは今後模索して行こう。


 風が吹く。

 魔法によるものではなく、自然に吹いた風だ。

 ダンジョン内で自然と言うのもおかしな気がするが、他意を感じない優しい風だ。

 草原の中、一本道を歩み、さわさわと草が鳴ると心が落ち着く。のどかな風景は、殺伐としたダンジョン内にありながらも、俺の心を癒してくれた。


 更に暫く歩いていると、前方に何かの建造物が見えて来た。


 むむっと目を凝らすと、家のようにも見える。

 それも一つだけでなく、幾つもの建造物が集まっているようだ。

 俺は足早に進み、その建造物の場所まで急いだ。


 おおー、と声が漏れてしまう。

 そこにあったのは木造の家。ボロボロで廃墟と化しているが、確かに家があった。屋根は落ち、壁は剥がれて中が見えている。中も荒れており、テーブルらしき物や椅子だったであろう形をした物が、倒れ壊れていた。


 同じような家が建ち並んでおり、一本の道を境に家が疎らになっていた。

 まるで村のようだなと思いながら探索していると、畑があった。

 明らかに整備された土の上に植物が生えており、食べられるか分からない橙色の胡瓜のような実が生っている。


 食べられるか分からないが、試しにと一本むしり取り口に運ぶ。


 毒がありそうな色をしているが、俺には毒耐性スキルがあるからきっと大丈夫さ。


 そして一口齧る。


 …………まっずぅ。


 おえっとなりながら、収納空間から水を取り出して念入りにうがいをする。

 マジで不味い。

 食べるんじゃなかった。

 好奇心に負けて口に運んじまった。

 青汁と雑巾の出汁を混ぜたような臭いが口から香り、気分が悪くなる。

 以前、眠気覚ましに買っていたガムを取り出して口に含む。幾らかマシになったが、やはり臭い。


 俺は我慢して、もう帰ろうと踵を返す。

 今日は割と早い時間から探索しているが、思っていたより時間が経過していたようで、ダンジョン内の風景は夕暮れに移り変わっていた。


 そして廃墟となった村を出ると、そこには多くのホブゴブリンが待ち構えていた。


ーーー


魔求瓜(まきゅうり)


ダンジョン産ウリ科の植物。沸騰したお湯に十分間浸し、塩で揉むと美味しい。

生だと凄く不味い。生は無味無臭だが、口に含むと唾液と反応して強烈な異臭を放つ。その異臭はモンスターを引き寄せる効果がある。


ーーー


田中 ハルト(24)

レベル 25

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法

《装備》 

不屈の大剣 神鳥の靴 

《状態》 

デブ(各能力増強)


ーーー

指輪は「高校生は今日も迷宮に向かう」で九重が付けていた物です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
高校生からむしりとってひどい、と思ったが店から買ったらさらに値段が上がるからひどくもないのか(´・ω・`)
[一言] 面白い
[一言] ああ、ここに住みつくのか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ