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百六十三日目

『続いてのニュースです。 昨日、探索者協会で発生した個人情報流出事件の説明について、探索者協会側が会見を開きましたので、その様子をご覧下さい』


 朝のニュース番組を見ていると、少しばかり顔見知りのおばちゃんが出ていた。

 どうやらあのおばちゃんは探索者協会の会長だったようで、マジでお偉いさんだった。

 以前、豪華な部屋に通されたので、もしかしたら社会的地位のある人なのかも知れないと思っていたが、正にその通りだった。


 喧嘩売るような事言わなくて良かったー。


 ……言ってないよね?


 記憶が曖昧だが、確か言ってなかったはず。

 まあいいや、言ってたら開き直ってもっと言ってやろう。もしかしたら、気に入られるかも知れないしな。


 どっこいしょと蜂蜜を食べて、気分は黄色い熊の◯ーさんだ。女王蟻の蜜とどうしても比べてしまうが、味は一級品で間違いない。ただ舌が肥えてしまっただけだ。


 だから、女王蟻の蜜を探さなくてはならない。

 俺の体は最高の蜜を欲しているのだ。



 まあ、その事はさて置いて、個人情報の流出か……良かった登録してなくて。

 もし登録していたら今頃、俺のスマホには、大量のエロいサイトからの勧誘メールが届いてただろう。そんな事になれば、指が勝手に動いてクリックして、ウイルス感染、若しくは高額請求されただろう。

 考えただけでも恐ろしい。

 俺はこれからも、ギルドに登録する事はないと断言できる。




 えっ借りれない?

 

 今、ギルドに来ているのだが、賃貸について相談すると物件はあると言う。だが、お前には貸せないと言われてしまった。

 何でもギルドが保有する物件は、プロ探索者や長年貢献してくれた人向けの物らしく、まだ潜り始めて一年未満の上、ギルドにも登録していない俺では、誰が貸すかボケという事らしい。


 何だとテメー!やろうってぇのか!?


 男性職員は、俺の事を鼻で笑って馬鹿にして来る。

 俺が睨み付けても、なに?殴るの?警備の人呼ぶよと言わんばかりの態度だ。


 殴りたい。

 その顔面をタコ殴りにしたい。

 横柄な態度が、以前勤めていた会社の上司を彷彿とさせる。

 ネームプレートには彦坂と書かれており、四十代の中間管理職のような見た目だ。


 くーっ!この手の人間はどこにでもいるな!

 仕事は出来ても、ナチュラルに他人を馬鹿にして来る奴。


 これ以上、話を聞く気にもならず、俺はギルドを後にした。

 捨て台詞に、不幸になれ!このハゲ!と小声で言っておいたのだが、バッチリ聞こえていたようで髪の毛のような帽子を被り直していた。


 まさか本当にハ……止めよう。

 人の欠点を言うのは、人として間違っている。それは自分で自分の価値を下げるのと同義だ。何よりも他人を傷付けるというのは最低の行いだ。非難されて当然の行いである。謝罪しなくてはならない。


 だから俺はUターンして、彼の肩を叩いて謝罪する。


 変なこと言ってごめん。でも大丈夫、ぱっと見、分かんないから、ハゲても生きて行けるって。


 謝るついでに、可愛らしくウインクしてエールを送っておいた。


 彼の肩がプルプルと震えているが、元気になってくれたようで何よりだ。

 彼の不安も無くなり、俺もスッキリしてwin-winの関係ではないだろうか。こういう関係が世に広まれば、きっと平和に成りながらも争いは絶えないのだろうなと思った。


 背後で紙を破る音を聞きながら、俺はギルドを後にした。



 にしてもどうしよう。

 ギルドでも借りれないなら、いよいよ手段が限られて来る。一応30階はクリアしているので、ギルドに登録してプロの探索者に成るという手もあるのだが、情報漏洩事件があった後では、危な過ぎて登録したくない。


 ならば就職して信用を得るか、家を買うしかない。


 就職か、そろそろ活動再開しないとな、でも就職したらダンジョン潜れないしな。

 家を買うにしても、金が無い。装備も揃ってないのに家を買うような余裕は無い。ローンを組もうにも、不動産屋で門前払いなら銀行も取り合ってくれないだろう。

 そして個人的に、独り身で家を購入したくない。中には購入する人もいるだろうが、どうせ買うならパートナーと話し合って購入したいのだ。

 まあ、予定は無いがな。


 市営住宅についても年収制限があり、何だかんだ言って稼いでいるので、入れそうもない。


 どちらにしろ、このままでは手詰まりだ。

 一応、他の不動産屋も当たってみるつもりだが、そこでもダメなら妥協するしかない。


 とにかく先立つ物がなければ話にならないので、ダンジョンで稼ごうと足を向けた。



 ダンジョン31階


 ……やって来たぞ。


 誰に言う訳でもなく呟いてみる。


 30階までは森林地帯だったが、31階からは草原が広がっている。

 草原と言っても少し先には森があるし、川も流れている。更に言えば道も出来ており、この道の先には建築物が見える。

 そう建築物だ。

 明らかに人の手、知的生物により作り出された物がある。それは老朽化しており、いつ倒れてもおかしくはないが、門のようにそこに立っていた。

 扉は無く、門に続くであろう壁も崩れているが、それは確かに門と言って差し支えなかった。


 おおーと感嘆の声を上げ、またやって来たぞと、あいつらの顔を思い浮かべて呟いた。


 前に東風が言っていた建築物というのが、これの事だろう。これらは31階以降に多く存在しているらしく、中には町のような場所や城まであるらしい。


 俺はスマホを取り出して写真を一枚撮ると、門をペタペタと触っていく。特に意味はなく、どんな物なのかと確かめたかったのだ。


 ふんすと鼻を鳴らして、うむと頷く。

 これも特に意味はない。

 それでも、何だか感慨深い物があり、ここからまた始まるのだと思うと、気持ちも引き締まる。


 俺は門を潜って、さあ行くかと探索を開始する。



 道をひたすらに進む。

 途中の別れ道を全て右に進んで行く。これは帰り道で間違えないようにするためだ。

 今回の探索は、あくまでもどのようなものか確認する為のもので、次の階に繋がる道を探しているわけではない。


 そんなふうに進むこと四半刻ほど、川に掛かった橋を抜けると、この階初のモンスターと遭遇した。


 そのモンスターはホブゴブリン。

 大人ゴブリンや10階で戦った戦士や魔法使いと同種のモンスターである。


 今現在の俺の装備は、不屈の大剣と神鳥の靴、体は防具服という厚手の頑丈な服だけだ。防具服に至っては、サイレントコンドルに無数の穴を開けられたので、裁縫で穴を縫い付けてある。


 対してホブゴブリンは長剣を持った個体が二体、杖を持った個体が一体、体は布切れで覆われており、条件に大差は無かった。寧ろ、俺の方が優っている。


 ホブゴブリンは前衛二人、後衛一人という分かりやすい配置を取っており、これは連携を取る事を意味していた。


 剣を持ったホブゴブリンの一体が動き出す。

 剣技というものを理解しているのか、重心を落とし、素早く接近して剣を横薙ぎに振り抜く。

 俺は大きく下がってやり過ごすが、不可視の風の刃が弧を描いて、前衛のホブゴブリンを避けて襲って来る。


 その風の刃は不可視であっても、俺の空間把握にはしっかりと認識されており、タイミングを合わせて大剣を振り霧散させた。


 更にもう一体のホブゴブリンが横から攻めて来る。

 鋭く尖った突きが、俺を串刺しにせんと迫る。魔法を無力化した大剣を勢いを落とさずに振り抜き、突きに合わせて剣先を逸らした。


 勢いを逸らされたことで体勢を崩したホブゴブリンを、返す刀で斬ろうとすると、そうはさせまいと最初に襲って来たホブゴブリンが斬り掛かって来る。

 体勢を崩したホブゴブリンは諦めて応戦すると、なかなか重い一太刀を繰り出していた。


 それでも俺に届くような物ではなく、鍔迫り合いに持ち込むと、左の拳で顔面を殴る。

 まさか殴られると思っていなかったのか、虚を突かれたような表情をしており、隙だらけとなる。


 また不屈の大剣で斬り裂こうとするが、また風の刃が今度は複数飛んで来た。


 面倒だなと思いながら大きく退いて、引いた先で斬り掛かって来る。誘導させられたと気付いて、上手いなと感心する。



 そんなやり取りを数分繰り返すと、身体強化を施して一気に殲滅した。


 うん、なかなか緊張感もあって良い運動だった。


 ホブゴブリン達の武器を回収すると、再び探索に戻った。

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― 新着の感想 ―
戦闘描写がどんどんうまくなってる(´・ω・`)
[一言] 面白い
[一言] 紙を破る音× 髪を破る音◎ あんなデブに憐れまれたら、わたしなら帽子を破り捨てるね
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