表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

第4章 5、戻れない

「聞いてなかったんですか? ……愛してるからです」


 近づいて、アニカの腕を取った。

 そのまま手のひらをくっつけて、嘘ではないことを知ってもらう。こんなこと無意味かもしれないけれど、それでも、自分の言葉が偽りではないことを知ってほしかった。


 手のひらからは、アニカの感情も伝わってきた。

 激しく動揺している、と同時にとても照れている。それを誤魔化そうと必死に平常心のふりをするアニカに、少しだけ笑ってしまった。

 それを見たアニカが、憮然として手を離してしまう。

 途端に物悲しい気持ちになり、ヴァルターは寂しくなる。


「……ずっと一人でした」

「うん」

「でも、あなたに出会った。もう、一人のころには戻れません」

「……そんなこと言われても」

「愛しています」


 ヴァルターは、もう一度アニカの手を取った。

 そのまま強引に引っ張って、すっぽりと自分の胸に彼女を収めた。


 ◇


 ぎょっとして身を固めるアニカは、そろそろと両手をあげて、ヴァルターの背に回した。

 ヴァルターは細身だが背が高いので、背中も広い。そんなちょっとしたことが、心臓をドキドキさせる。


 ヴァルターのぬくもりが、衣越しに伝わってくる。

 温かい。すごく、心地よい。

 ほとんど反射的に、ぎゅうぎゅうと抱きしめていた。背中に回された腕の強さが、一層強まる。


 もしかしたら、好きになってしまったのだろうか。

 そんな予感が、アニカを真っ赤にさせる。


(そりゃ、好きだって言われて、嬉しいけど。でも)


 嬉しいと思う時点で惚れてしまっているのかもしれない。そんな自覚に、頭のなかが沸騰する。

 けれど、そんな幸福なひと時を堪能している暇などなかった。

 ぴりっ、と身体に痛みは走り、ぎょっとして顔をあげる。


「気づかれたようですね」


 ヴァルターが真剣な表情で言った。その瞳は、真っ直ぐに街のほうを眺めている。まだ遠いが、法術師が動き出したようだ。


「逃げましょう」


 ヴァルターがアニカの手を取って、街と反対側へ走り出す。

 流されるまま駈け出したアニカだが、すぐにその腕を引いて立ち止った。

 法術師は人間である。

 馬車を利用したとしても、完全に効力が届く範囲にくるまでは相当時間がかかるだろう。


「待って」

「まだなにか?」

「本気で言ってるの? その、一緒に行くって」

「もちろんです」

「あたしなんてどこがいいの。自分で言うのもなんだけど、すごく無愛想だし、全然可愛くないし」

「そんなことないと思いますけど。無愛想なところも可愛いと思いますよ」

「ぎゃ!」

「……ぎゃ?」

「なんでそんな恥ずかしいことさらっと言えるの!」


 歯の浮くようなことを言い切ったヴァルターは、アニカの言葉を聞いて、なぜか頬を赤らめた。自覚がなかったらしい。

 相手に照れられると益々恥ずかしくなるらしく、アニカもまた真っ赤になった。


「……惚れたんですから、仕方がないでしょう」


 しばらくの間ののち、ヴァルターがむっつりと言った。

 いつも柔和な彼にしては珍しく、不機嫌さが全面に現れている。


「とにかく、私はあなたといることに決めたんですから、いいんです」

「……趣味悪いわね」

「悪くないですよ」

「そんなことないわ」

「どうしてあなたはそこまで自分を貶めるんです?」

「……だってあたし、化け物だもの」


 一つのところに留まれない、歳を取らない化け物。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ