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第4章 3、追う

 アニカが出て行った窓を、茫然と見ていた。

 どうやら自分はまた、何かやってしまったらしい。ヴァルターにしてはさして重要ではないことが、アニカにとってはとても大切なことだったのだ。


 ズキリと胸が痛んだ。


 最近、やっと少しずつ笑顔を見せてくれるようになったのに、彼女はまた笑わなくなってしまうだろう。

 それどころか、ヴァルターたちを見捨てて、街を出て行くに違いない。


(……街を出ていく?)


 そしたらもう、アニカには会えない。

 もしかしたら五十年後にあの屋敷の前で会えるかもしれないが、そんな長い時間待つなど考えただけで気が遠くなった。


(追いかけなければ。……けれど、なんと言えばいい?)


 騙していたことに変わりはない。

 もし本当のことを言っていたら、こうはならなかっただろうか。いや、そしたら彼女は、ヴァルターたちに振り向きさえしなかっただろう。


 一体、どうすればよかったのか。


 ヴァルターはアニカが出て行った窓に足をかけて、気配を辿りながら屋根を移動した。

 同族はそこにいるだけで強力な気配を発する。

 離れ過ぎない限りは、気配を感じ取れた。

 けれど、アニカの気配もだいぶん薄れている。かなり遠くにいるようだ。


 それでも神経を集中させて、あとを追った。


 まだなんと言えばいいのか決めかねているが、今追わなければ失ってしまうことだけは、よくわかった。

 街外れまでやってきて、やっとアニカの姿を確認できた。

 街を見下ろす丘のうえで、じっと立っている。


 それがヴァルターには待っていてくれたように思えて、少しだけ嬉しくなった。

 そうだ、もしかしたら少し癇癪を起しただけかもしれない。本気で出て行くなんて、考えていないのかも。


 けれど、近づいてアニカが振り向いた瞬間、そんな仄かな期待は崩れ去った。


 完全な無表情でヴァルターを見たアニカの瞳には、すでにこの街はもう映っていないようだった。

 彼女は、今後のことを考えている。


 ヴァルターのことなど、微塵も記憶に留めるつもりはないのだ。


 そう察すると同時に、カッと熱が上がってきた。

 全身が燃えるように熱くなり、掴みかかろうと思ったが、なんの感情もないアニカの表情を見るなり、冷水を浴びせられたかのように体中が一気に覚めた。


「戻りましょう、アニカ」


 そう言えば、アニカはさっと目を反らす。


「利用されるなんて、まっぴらごめんなの」

「騙していたことは謝ります。私に思慮が足りなかった。申し訳なく思っています。だから」

「わかってる」


 アニカは簡潔に言った。


「騙されたあたしが馬鹿だったの。だから、ヴァルターが謝ることなんてない。目的があったんだから、狡猾になって当然だわ」


 謝ることなんてない、と言いながらも、アニカの声は無感情だ。

 怒っているのだろう。

 けれど、初めて出会ったときの声音もこんな無感情だったことに思い至り、ヴァルターの胸は重くなる。


 せっかく仲良くなれそうだったのに。

 せっかく少しずつ歩み寄れていたのに。

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