表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

第4章 1、悔しさ

 窓の鍵は開いていた。


 アニカは闇夜に紛れてそっとヴァルターの部屋に降り立つ。眠っているらしく、寝台に横になっている姿を見て苦笑した。

 気配を殺してはいるが、完全とは言い難い。

 同族なら、侵入したことに気づいて起きてもいいはずだった。

 それがないということは、ヴァルターはアニカの気配に慣れてきているということだろう。


(もっと警戒しなさいよね)


 心の中で文句を言いながら、寝台に近付いた。

 寝顔も綺麗なヴァルターのうえ、ちょうど腰の辺りに、布団越しに跨る。

 さすがに目が覚めたヴァルターは、驚いて身体を起こそうとした。それを肩に両手をかけて、押し返す。


「……夜這いですか」


 余裕の笑顔で、ヴァルターが言う。

 アニカは薄く笑って、首を横に振った。


「聞きたいことがあってきたの」

「明日ではいけませんか。こんな夜中に忍んでくるとは、あまり感心しませんよ」

「そうね、わかってる」


 ヴァルターは眉をひそめた。

 アニカの言動から、ただならぬ何かを感じ取ったようだった。


「なんですか。答えられる範囲なら、なんでもお答えしますけれど」

「テオフィールが病気っていうの、嘘だってあんた知ってたの?」


 ヴァルターは軽く目を見張った。

 知っていたからアニカに問われて驚いたのか、それとも知らなかったからこその驚きか、アニカには判断がつかない。


 ヴァルターは寝台に横になったまま、痛ましげに目を細めた。


「……知ってましたよ」

「知ってて騙してたのね」

「すみません」


 ぐ、と奥歯を噛みしめた。

 心から申し訳なさそうな声を出されて、怒りがますます沸騰するのを感じる。


「テオフィール様は、私が勘付いていることを知りません。私も、騙されているふりをしていました」

「……なんで」

「あなたを引き留めるために」


 ヴァルターが手のひらを向けてきた。

 嘘はついていない、と証明するために、意識を読み取らせようとしているのだ。

 けれど、アニカは軽く首を振り、その手をつっぱねた。

 彼の言葉が本当か嘘かが問題なのではない。

 アニカにとって重要なのは、テオフィールが病気ではなかったことだ。


 それはよいことなのだろうが、彼の野心の一端を担うことに、アニカは少なからず抵抗がある。

 正直に「出世目的です」と言われたら殴っていたかもしれないので、嘘から固めてきた気持ちがわからくもないが、だからといって、騙すなんて。


「私は子どもが欲しかった。テオフィール様とは利害の一致で動いています。だから、彼が病気であってもそうでなくても、私にはどうでもよかった。……けれど、あなたには違うんですね」

「当たり前でしょ! 病気だって、言うから。死ぬかもしれないって。……昔の私と同じくらいの歳なのに、生きれないって、聞いたから」


 言葉と共に、身体を這う熱は激しさを増す。そしてそれらは、信じられないことに目から溢れた。


 泣いたのなんて何年ぶりだろうか。

 いや、何百年ぶりだろう。


 泣くことがこんなに苦しさを伴うなんて、ずっと忘れていた。

 胸が痛い。

 呼吸さえ苦しくて、どん、とヴァルターの胸を叩いた。

 ヴァルターはただ固まっていた。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ