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第3章 6、テオフィールと紅茶を

「どう? 決めてくれたかな」


 テオフィールに呼ばれたアニカは、彼の前のソファに腰を下ろしながらむっつりとしていた。

 窓からは橙色の夕陽が、蜜のように地面を照らしている。


「ここに来てもらってそろそろ十日だけど。ふふ、最近ヴァルターとずいぶん仲がいいそうじゃないか。好きになった?」

「……悪いやつじゃないってことはわかったわ」

「そう、それはよかった」


 鷹揚に微笑んだテオフィールは、ゆっくりとソファから背を離した。机に置かれた紅茶を手に取り、そっと喉に流し込む。


 部屋には他に、法術師の二人とテオフィールの従者が一人いるだけで、ヴァルターの姿はない。ついさっきまで一緒に中庭にいたのだが、テオフィールが呼んでいると聞いてヴァルターをその場に残してやってきたのだから当然だった。


「それで、どう?」

「……まだわからない」

「わからない、か。考えが変わってきてくれてるみたいで、よかったよ」


 微笑まれて、思わず頬に熱がのぼる。

 子どもをつくるということは、つまり、そういうことなのだ。それに、ヴァルターはあれから、アニカをもう、道具のようには扱わなくなった。

 となれば、現実的にそういうことを考えてしまうようになり、頬に熱があがる。

 なんだかんだ歳は食っているが、自分はまだ十分乙女の立場にあるらしい。仕方がないという事情をとっぱらってしまえば、純粋に愛されるかもしれないという事実だけが残る。そしたらなんか、恥ずかしくて死にそうになる。


(……へんだわ)


 ぱたぱたと手で顔を仰ぐアニカを、テオフィールはにんまりと見ていた。


「順調そうでよかった」

「……と、ところで」


 誤魔化すように、アニカは口を開く。


「あなたって何者なの? ちらっと聞いたんだけど、貴族じゃないそうね。でも随分な財力があるみたいだし」

「ああ、僕は商人だよ」


 商人、とアニカは口の中で小さく繰り返した。

 使用人たちはあるじの噂をすることを固く禁じられているのか、商人などという話を聞いたことはなかった。

 そもそも商人について詳しくないため、気づきさえしなかったが、なるほど、と納得する。

 大商人ならば、この財力にも納得ができる。

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