P20 今日も魔女狩りは楽しい
「バッドガールリーダーより各員へ、以上で状況を終了する」
周囲から歓声が聞こえ、一部には銃を乱射する者もいた。
当然禁止している行為ではあるが、それが浸透するほど彼らはプロフェッショナルではない。
アニメーションのカワイイヘッドモジュールを装備した屈強な男たちはその日捕らえた、あるいは殺害した魔女をカウントしスコアを算出する。
双頭多脚のバッドガールズ戦車は引き続き周囲の警戒を続け、その4つ眼を光らせていた。
「隊長、今日のサイドテール、イカしてますよ、カワイイです」
メンバーの人が私の髪型を褒めた。
「有難う、今度他の髪型も試してみるよ」
彼は自分のモジュールの髪の毛を指で束ねてツインテールを作って見せる。
なるほど、そういうのも良いかもしれない、髪が伸びたら試してみようと思った。
「諸君、戦闘が終わりお疲れの所とは思うが是非聞いてほしい、本日は我々のボスであるビッグハット卿よりメッセージを預かっている、それぞれニューロランナーから確認して欲しい、きっと皆喜ぶはずだ」
バッドガールたちはさてなんだなんだとランナーを起動する。
彼らの脳内には巨大な帽子を目深にかぶった優男が演説を始めているであろう。
「やぁ、親愛なるバッドガールズの皆さん、私はあなたたちの雇い主のビッグハットです」
その男は座っていた椅子から立ち上がり、大仰にポーズを取って見せる。
「今回、皆様に新たな依頼……いいえ、新しいコンテンツが解放されますのでそのご案内のため皆様の脳内へお邪魔しています、本日の正午より、第一回目となる魔女狩りイベントが開催されます。これはとてもとても大きな祭りです。バッドガールの皆さんだけではない、あらゆる組織が、そしてあらゆる世界が魔女を狩り、駆逐していきます」
隊員からは少しの戸惑いと、それ以上の高揚が感じ取れる。
それはニューロランナーのフィードバックを通じて客観的な情報として私の所へと伝えられた。
「もちろん皆さんは我々が把握している情報にアクセスする権利があります。ここにあるのはネガリザレクション文書、いわゆる預言書です。ああ、ええと、胡散臭いと思われる方もいると思いますのでここでこの本を信じる必要はありません、あなた方に資金を提供する我々を信じてくれればいいのです。この予言の書物ここには我々がまだ知らぬ魔女の姿が多数描写され、そしてそれは今も増え続けています。これは憂慮すべき事態です」
獲物のカタログだぜ、誰かがそうもらした。
「1人目が2P以降度々出現している魔女デザートトレマーズ、2人目が8Pに出現している魔女アポロ88、そして16Pにて存在が示唆される魔女スターシングスとマトリックスワン、皆様も知っている宿敵ストライクバックエンペラーとニューホープが19Pに、ほか詳細は不明なもののP12にて複数の魔女が作成されていたとの記述が存在しています。これらはロケーション8と呼ばれる施設で生み出され、我々もこの施設について調査をしています。これらの魔女が現代の魔女であるかは不明ですが、同時に将来的に魔女の数は減ることなく増え続けている事を意味します。こちらから提供可能な情報をまとめたアーカイブを解放しますので皆様各自アクセスしてみてください」
言葉と同時にランナーへアクセスキーが送付される。
「これらの記述について、その全てが真実である確証はありません。我々は預言書を重要視していますが全てを信用しているわけでもない。我々が定義するイレギュラーとしての魔女ではなくあくまでも忌名や通称として魔女という呼称が用いられているに過ぎない可能性も否定できませんし、その全てが本当に危険であるかも認定することは不可能です。一方でネガリザレクション文書の断片が観測され始めたこの短期間にこれだけの魔女のが出現している以上、ここに明示されていない魔女、自らを魔女と定義していないイレギュラーがこの19P内ですら紛れ込んでいる可能性があります」
一息置いてビッグハットは続けた。
「いえ、ほぼ確証を持って言いましょう、これまでの登場人物の中に確実に魔女はまぎれていて、これからの登場人物の中にも確実に魔女は入り込んで来る。魔女はイレギュラーでありこの世界の在り方を壊しかねない。やはり我々には魔女狩りが必要なのです。安定した未来、持続的な人類の存続のためイレギュラーの掃討を実施する。当初の予定とは異なる形となりましたがこれが我々の総意です」
ビッグハットはひと際大きくアクションを取る、一瞬帽子がめくれ彼の野心的な瞳が見えたような気がした。
「もちろん報酬は弾みますし、皆さんのアバターをよりカワイイにするため我々もサービスをより拡充していきます。皆さんも私もカワイイは大好きです、戦場により良いカワイイを持ち込みましょう!」
これには私も心が揺らぐものがあった。
ここにいる誰もがカワイイに憧れており、カワイイになりたかった。
彼は我々の人心を効率的に掌握していた。
「我々はここに魔女狩りイベント、ウィッチハンティングフェスの開催を宣言いたします。さぁどんどん魔女を狩りましょう、疑わしきは罰していきましょう、魔女は世界を壊してしまいます。我々はあなた方の正義を必要としているのです。銃を持ちそれを構えて魔女に向けてください。銃が無い者は何でもいいです、ナイフでも、ええとそうだポケットにペンはありますか、それでも大丈夫! あ、あれは魔女だ! それでは私も魔女を狩ってきます!!」
トゥーンめいた動きで嬉々として魔女を追いかけ脳の片隅へとフェードアウトする彼の姿を最後に演説が終わった。
バッドガールたちのステータスの高まり、新しい暴力の火種に嬉々とした様子が伝わってくる。
演説は成功した。
私は我々のニューロンの片隅で聞き耳を立てていた男へ問いかけてみた。
「なぁ、これは仮の話だが、仮に一人の魔女を狩るために10000人の無実の人間が狩られた場合、君はどう思うんだ」
男は即座に答える。
「隊長、その仮定には間違いがある、我々の試算では現代の10000人に潜伏している魔女の人数は80から84人程度だ」
「あー無実じゃない奴が80人程度はいるってことか」
「ああ、魔女は罪だ。ちなみに質問に答えると私はとても悲しいと思う、それが許容されうるコラテラルダメージとも思わない、とてもひどい事だと思う、酷いことをする奴らだなぁと思うわけだ、解るだろう?」
彼は本心からそう言った。
「解るよ、そうならないよう心がけよう」
彼は別に10000人殺せなどとは一言も言っていないし、彼は恐らく本気で酷い事であると悲しんでいる。
彼はそういう男だ。
「ああ、ええと……そうだな、なぁ諸君、これから魔女狩りに都心部の方まで行こうと思うんだが一緒に行く者はいるか? そう例えば、んん、ああ、ショッピングモールに行こう、あそこには沢山人間もいる、きっと良い魔女狩りになるんじゃないだろうか」




