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「お嬢様。起きてください、朝ですよ。」
メイド服に身を包んだ少女がベッドに向かって話しかける。
「んんー」
眠そうな声がベッドの中から漏れ聞こえる。
「お嬢様。はぁ、カーテン開けますよ」
少女は呆れたように言うと、窓に近づき一気にカーテンを開ける。部屋中が朝日の眩しい光に包まれ、ガラスのコップがきらりと光る。
「まーぶーしーいー」
不満そうな声がベッドからあがる。
「おはようございます。朝ごはんできてますから、食べて学園に行きますよ」
眠そうにしながらも体を起こし瞼をこすっている少女をせかすように言う。
「おはよう、ベルデちゃん。今日から学園だね」
と言いながらベットから起き上がり、歩こうとしてよろめく。
「お嬢様っ!!」
倒れそうになる体を支え、不安そうに顔を覗きこむベルデ。
「大丈夫ですか?やはり今日はおやすみになられたほうが…」
「ありがとうベルデちゃん。いつものだから大丈夫よ」
「最近回数が増えておりませんか?やはり魔眼の負担が」
「大丈夫よ、はやくご飯食べていきましょう。遅刻いたら大変よ?」
さえぎるように言い、何事もなかったかのように行動し始める。
「お嬢様がそうおっしゃるなら」
何を言っても聞いてくれないと悟ったベルデは諦めて朝の準備に取り掛かる。
そうして二人は準備をすまし学園へと向かう。
「今日は顔合わせと簡単なガイダンスだけよね?お昼ご飯をおうちで食べられるのね、嬉しいわ!ベルデちゃんお昼は何にするの?」
「今食べたばかりでもうお昼の心配ですか?」
たわいない会話をしながら学園へとたどり着き、正面玄関をくぐると張り出された紙の前に人が大勢集まっているのが目に入る。人をかき分け自分のクラスを確認した二人はそのまま教室へと向かう。
扉を開き、手ごろな席を腰を下ろした後二人は教室内を見渡す。
「んー、知らない顔しかいないわね」
「今日から編入ですので当然かと。それよりも本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。それよりも……」
「お嬢様?」
視線の先には、銀色の髪に蒼い目をした少年が友人と思わしき者と楽しそうに会話をしている姿があった。
「綺麗な魔力」
ほぅ。と見惚れるように少年を見つめ、ぼそっとつぶやく。
「お嬢様?どうされましたか?」
質問を遮るように突然ガラッと大きな音を立てて扉が開き、大柄でワイルドなおじさんが教室に入ってくる。
「そろってるな!席につけー」
と大きな声で指示を出し教室を見渡し、笑顔で自己紹介を始める。
「このクラスを担当することになったゼスタ・オリゴールだ。魔法陣学を担当している。お前らの授業も担当するからな。それはもう、嫌って程厳しくやるから気張れよ!一年間よろしく頼む。そんじゃあ、前のお前から自己紹介してけー」
たて続けに言い放ち、前のほうにいる生徒から順に自己紹介をさせ、どんどんと後ろに回していく。
面白い人が来たと思いながら前の人たちの話を聞き流していると、順番が回ってくる。
二人はスッと立ち上がり周りを見渡し、色素の薄い紫色をした髪の毛の少女が艶やかな唇からしっとりと声が発せられる。
「アンネリーゼ・エルメストです。こっちが私の付き人のベルティア・ドーラよ。一年間よろしくね」
ベルデが黒い髪をふわりと揺らしながらお辞儀をし、アンネはにこりと笑顔を見せ、二人はそのまま席に着く。
たわいのない短い挨拶だったが、クラスの生徒は見とれるようにアンネに視線を固定させ、まるで時間が止まったかのような空気が教室を支配する。
「次。後ろのやつー。」
というゼスタの声でようやくクラスの空気が動き出す。
その後も自己紹介は進んでいき、最後に銀色の髪の少年が立ち上がる。
「俺はアルフィス・スペント、光の固有魔法持ちだ!気軽にアルとかアルフィーって呼んでくれ!これから1年間よろしくな」
とさわやかな笑顔で自己紹介を締めくくり、周りの男子からはヒュー。とはやし立てる声があがる。
アルフィスが座ると女子が黄色い声をあげ、また少しクラス内がざわつくがゼスタの咳払いで落ち着きを取り戻す。
そうして自己紹介も終わり、ゼスタは今後の授業の話をしていく。
「夏季休暇までは基本的に、これまで通り三属性の座学となる。が、夏季休暇中に実技演習をやるからそのつもりでな。詳細は休暇前に伝えるからあまり気にしなくていいぞ。各授業のことは教員が授業で説明するだろうからいいだろ。んじゃぁそろそろ解散でいいか。明日から遅刻するなよ。解散!」
と豪快に言い切り、クラスはまた騒がしくなる。クラスの生徒は親睦会という建前でアンネをランチに誘おうと計画していたのだが、そんなことは全く知らないアンネは「想像より早く終わったな」と思いつつさっそうと帰る準備を終え、騒がしくなった教室から出ていく。
「面白い一年になりそうね」
とおかしそうにアンネがベルデに話しかけ二人は王立第一魔法学園の門を背にして歩いていく。