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≪第四章―役立たず、褒められる―≫(前編)

 ここはロックバース。王都から西に位置する町。王都からの交通の便から、様々な商業が栄えた商人の町。

 東に向かうもの以外は、ほぼ例外なく王都の高い物価ではなくここで旅の荷造りをする言わば第二の王都とも言うべき場所。

旅人にとってはむしろこちらの方が馴染み深いというものも少なくない。


「ごめんスバルくーん。こっちもよろしくー」

「あっ、はーい!了解でーす!」


 俺はと言うと清掃業務についていた。

 話は昨日の夜に遡る――。




「で、スバル。あんたどこまで付いてくるつもり?」


 アリサは窓から外を眺めている。


「え?」


 彼女の言葉に思わず間抜けな声が出た。


「え?じゃないでしょ。何?あんたもしかしてテナーまでずっとついてくるつもりだったの?」

「あ、いや、その……」


 別におんぶにだっこであるつもりはなかったが、何となくこのままテナー近くくらいまで相乗りできるような気になってしまってはいた。


「はぁ。あんた役立たずのくせに結構面の皮は厚い方だったのね」

「で、でもさっきお前を助けたのは俺だぜ?少しくらいこう、譲歩してくれたって罰はあたらないような……」


 あれだって立派な労働である。

 まぁアリサに言わせればきっと――。


「あんた男のくせにみみっちいのよ。それにあんたの魔力に気づいてそれをあんたが使いこなせるようにしてやったのはどこの誰?むしろ感謝して欲しいくらいよ。次変なこと言ったら地獄で呪うから」


 なんて言うに決まっている。


「まぁでもとりあえず次の町まではこのまま連れてってあげるわ。感謝しなさい」


 いきなりここで降ろされないだけ温情だと考えよう。これからのことは次の町についてから考えればいい。そもそもこれはそういう旅だったはず。


「ああ、めちゃくちゃ感謝してるよ」


 それに、こんな子と旅ができる権利なんてきっと世界中探したって売ってない。今はそれをありがたく享受しよう。


「……んで、あんた実際金はどれくらいあんの?雑用係とは言え宮廷魔導師でしょ?一応村に帰るくらいの余裕はあるってことでいいのよね」


 アリサは外を眺めたままふとそんな風に言った。


「どうなんだろうな。宮廷魔導師ったってピンキリだし」


 自慢じゃないが、俺は間違いなくピンキリのピンの方。正直一般の仕事とそこまで入りに差はないように思う。


「ふーん。で、あんたの懐事情はどうなの?」

「100万エルム」


 一応全財産そのまま持って帰らされた。だから村まで帰るだけなら恐らく困りはしないだろう。


「なまなましいけど夢はないわね」

「悪かったな。現実突き付けて」


 どこまで行ってもしょうがないものはしょうがない。少女よ、これが現実だ。


「スバル。よくわかんないけどあんた今変なこと考えてたでしょ」

「いや、別に」


 随分勘のいいものである。


「そ。あぁ、でもあんた100万エルムでニアナまでなんて結構ギリギリじゃない。わかってんの?」


 ぶっきらぼうな物言いであったが確かに事実だ。

 抑えられるならなるべく費用はかけたくない。


「まぁ、何とかなるだろ。行った先でだって仕事はあるだろうし」


 あまり難しく考えたくないのが半分と、これ以上アリサに弱いところを見せたくないのがもう半分。

 そんなことを思った。でも何よりそんなことを思う余裕が自分に生まれていたことが驚きだった。王都にいたことはなかった余裕だ。

 少なくとも体裁を気にするとかそんな余裕はなかったし、仕事なら何でもいいなんて考えもなかった。


「……見てらんないわね。良いわ。乗せてってあげる」


 そんな俺の強がりを見透かしたのかアリサがそう言った。


「い、良いのか?」


 それはもちろん願ってもない提案。断る理由はない。


「ただし条件が二つ。一つ、食費は自分で何とかすること。んでもう一つは――」


 そう言うと、アリサは俺の目を見てこう言った。


「あたしを守って。こんなかわいい子が一人旅なんて危ないでしょ?擬態のローブも捨てちゃったし」

「そ、それって……!」


 言い終える前に、また窓の外を向いてから――。


「一応期待してやってんのよ。役立たずのあんたを」


 なんて言ってのけたのである。

 嬉しくてたまらなかった。それだけで今までの一年が報われた気さえした。


「あ、寝るときは後ろの荷台で寝てね。ただし薬には指一本触れないこと。わかった?」




 ――と、言うことがあって今に至る。

 幸いこの町には仕事が溢れている。その日の食費ぐらいならいくらだって用立てることができる。


「スバル君だったかな?今日はありがとね。はい、これ今日の給料ね」

「いえいえ、今日はありがとうございました」


 よし、これでとりあえず食費は何とかなった。これで一先ずアリサとの約束は――。


「で、スバルよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え?あ、いや、いまだにあんまり実感なくて――ってどうしてそれを!」


 あれは俺とアリサ以外誰も知らないはずだ。


「しっかしあのバカ弟子にも困ったものじゃの。せめておなごなら良いものをまさか言うに事を欠いて男とは」


 バカ弟子?アリサのことか!?じゃあまさかこの人があの――!


「ちょっとスバル!まだ掃除の仕事終わんないわけ?あんたほんとに魔力以外はからっきしね……って師匠!?ど、どうして師匠がここに!?」


 そこにアリサが現れた。でもこれで間違いない。この人が伝説の魔法使いソフィア・モルガン。

 でも、ソフィア・モルガンはそもそも女性だし噂によればよぼよぼのおばあちゃんだって言われている。なのにどうして。


「一週間ぶりかの?アリサ。旅は順調、とは言っておらんようじゃが健勝なようでワシは嬉しいぞ」

「えっ、だって!師匠修行中は絶対に顔を見せないって!」


 でもアリサの態度を見るにこの人がソフィア・モルガンで間違いない。そっか、伝説の魔女って言われていたけど本当は男性だったのか。


「何もなければそのつもりじゃったがそうもいかんじゃろう。あんなことをしでかしておいて」

「あ、あれはそいつがやったんであってあたしは、別に……!」


 なんかいきなり責任転嫁された。ずっと「あたしのおかげ」って言い続けたのはどこの誰だよ。


「じゃからワシが来たのじゃ。お前と共にいるスバル・スコットランドが一体どの様な男かを見極めるために」


 そこで、ソフィア・モルガンが俺の目を見た。さっきまでただの用務員のおっさんだと思っていたから何ともなかったけど、目の前にいるのが伝説の魔導師だってわかると異常に緊張する。


「……へ?え!?あ!俺、じゃなくて自分、ですか!?」


 めちゃくちゃ挙動不審になってしまった。でも許して欲しい。

一応俺も魔法使いの端くれだ。何度も何度もその活躍に憧れた。そんな人に名前なんて呼ばれりゃ誰だってこうなる。


「そうじゃ。お主じゃ」

「あっ、えっと、お、驚きましたまさかあのソフィ――」

「ここで名前を出すでない」


 言い切る前に杖で口を塞がれた。目の前にいるのはおっさんなのに、なぜかその所作にドギマギさせられた。なん……だと?


「ふむん、アスカの馬車は――、そこか」


 そう言って彼が杖を振った瞬間、辺りの風景が変わった。町はずれに留めておいた馬車のすぐそば。


「うわぁっ!?」


 何だこれ。どういうことだ。ど、どうしてこんな。


「なんじゃ、転移魔法なんて珍しくもなんともなかろう。特にお主にとっては」

「あ、いや、違うんです師匠。こいつ――」




「――ほう、それはまた愉快な話じゃの」


 アリサが俺のことをあらかたソフィア・モルガンに伝えた。途中何度も「役立たず」と挟まれたのが地味に堪えたがまぁそれは気にしないようにしよう。


「お主を王都が追い出した、とな。ふむ、なるほど、お主の魔力に気づかなかったのじゃろうな」


 俺を食い入るように見つめるソフィア・モルガン。

 なんでこの人はおっさんなんだよ!おっさんでさえなければ!この変な感じだって俺の間違いじゃないのに!


「だから、あの、師匠。多分こいつからは師匠の事……」

「ふむん。お前の言うことが本当なら確かにその通りじゃな。ここは人もおらんし……構わぬか」


 そう言って彼が杖を振った。まるで霧でも晴れるようにその姿が露になる。そこにいたのは紛れもなく女性だった。


「は、ははっ。こ、今度はおっさんが綺麗な女性に……」


 もう気がどうにかなりそうだ。


「ふむ。ワシのことを開口一番綺麗な女性と言ったのは誉めてやろう」

「ちょっ!スバル!この人これで本当は何百歳ってクソババアだからね!?見た目に騙されんじゃ――!」

「アリサ」

「ひぃっ!?」

「あとで少しお話が必要じゃな」


 そう言う彼女は、顔は笑っているのに何一つ笑っているように見えなかった。


「さて、ではスバルよ」

「は、はい!ソフィア・モルガン様!」


 あれの後だ。尚の事緊張する。違う意味で。


「そこまでかしこまるな。そうじゃな、ワシのことは親しみを込めてソフィアさんと呼びなさい」

「えっと、あ、じゃあ。ソフィアさん」

「ふふっ。良くできたの」

「は、はい」


 なんだか背中がむず痒い。こんな風に子ども扱いされるなんて久しぶりだ。


「ふむん、では早速で悪いがスバルよ。ワシにお主の魔法を撃ってみよ。間違っても手加減はするでないぞ」

「え?」


 ソフィアさんが何を言っているのかわからなかった。


「む?聞こえなかったか?スバルよ。全力で、あのイフリートを屠った魔法を撃ってみよと言ったのじゃが」


 彼女の纏っていた雰囲気が一変した。

 頭に浮かんだのは抗い難い死のイメージ。


「し、師匠!?何を!」


 驚きを隠せなにでいるアリサにソフィアさんが驚くべき一言を放った。


「アリサ。ワシは自分でいうのもなんじゃが弟子バカじゃ」

「は?」


 アリサが間抜けな声をあげたが俺も同じような気持ちだ。

 何だって?弟子バカ?


「そんなワシがお前と共に旅をするやもしれぬそれも男を見極めんとするのは至極当然じゃと思うが?」


 さも当然のことのように言葉を紡ぐ伝説の魔女(推定うん百歳)。


「ワシも伊達に長生きはしておらん。そやつがどんな奴かは魔法を見ればわかる」


 そう言いながら、ソフィアさんが再び俺の目をじっと見据えて「だから……」と言葉を紡ぎだす。


「付きおうてくれるな、スバルよ」


 もうドキドキするような余裕はなかった。

ご一読ありがとうございました。

これからも定期的に上げられるように頑張ります。

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[良い点] 役立たずと言われてきたスバルが頼りにされるのは 読んでいて嬉しかったです [気になる点] 地の文と会話文の間に空白スペースがあると読み易くなると思います
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