≪第二章―役立たず、人助けをする―≫(後編)
「いつつつつ……」
開けても何も起こらなかったし蓋は思っていたより簡単に取れた。
「おばあちゃん!こんなに簡単に取れるなら先に言っておいて下さいよ!おかげで」
「いやー、スバルさんの慌てている姿が随分おかしくてね。それに男のあんたからすれば簡単かもしれないけど見ての通りこんな老いぼれにはそれも難しくてねぇ」
「それはそうでしょうけど……」
なんだかやりきれない気持ちになったが、何も無いに越したことはない。
「で、つぎはどうすれば?」
「いやあ、ここまでで十分だよ。ありがとね。ここからはあたし一人で何とかなるからさ」
と、笑ってはいるが引く馬のいない馬車と届けなければならない薬。どう考えたって何とかなるはずがない。
大丈夫だと言っているのだ、首を突っ込まなければいいのについつい要らないことしてしまう。村育ちの悪い癖である。
「でもおばあちゃん、一人じゃ何かと困ると思うしもう少しだけ手伝うよ」
「とは言ってもねぇ。ここから先は魔法を使えないことにはどうしようもないんだよ」
「魔法が?」
「あぁ。見てもらえりゃわかるがこの荷馬車には馬が繋がれていないだろう?これは魔力を燃料にして動く彫金師手製の馬車でね。さっきの爆発は恐らく魔力のオーバーフローだね。今までこんなことなかったんだけど……。長い事使ってるからこいつもそろそろ年かねぇ」
なんて簡単に言っているが魔法で物を動かす術式が彫れる彫金師なんて超一流だ。そんなのが彫られた馬車を使えるなんてこのおばあちゃん相当なお金持ちである。
「……ちっ、あのバカ師匠。だから早く回路を書き換えろって言ったのに!何が『あと五十年は大丈夫』よ!五十年どころか五時間ももってないじゃない!」
「どうかしましたか?」
何か小さな声でぶつぶつ言っているような気がしたが。
「ん?あぁ!いや!な、何でもないよ」
「?」
まぁ何でもないというのならきっと大丈夫なんだろう。
「あの、もしよかったらそれも見ましょうか?同じような術式が彫られたランプの整備とかもさせられていたので」
思えば随分と色んなことをさせられていたようなきがする。
「そ、そうかい?ならお願いしようかしら?」
こうして術式の整備が始まった。
しかしこう見てみるとなんとも見事な術式である。
王宮のシャンデリアでもこんな見事なものは見たことがない。何なら見事すぎて半分くらいどんな意図で組み込まれているのかわからない箇所もある。
「しかしこの術式は本当に見事ですね。俺みたいなちょっと齧ったことがあるくらいの素人でもわかります。これ、彫ってもらうの高かったでしょう?」
「わ、わかるの!?――コホン!ではなくてわかりますか?」
「はい。魔力効率の部分なんて、大抵の場合結構適当に彫ってあることが多いんです。特に一般に出回るようなランプなんかは大量生産のためにその色が濃くて……ってすみません無駄な話をしてしまって」
王都にいた時は俺の話なんて聞いてくれる人がいなかったからついつい話し込んでしまった。
「いや、全然……。わ、若い子の話は聞いていて楽しいからね。構わないよ」
「うんでも、確かにこれは過剰な魔力の流入で術式が焼けてしまってますね。でもこれなら一旦中の魔力を抜いて休ませてやればすぐに直りますよ。なんせモノがいいですから!」
「そ、そうかい?何から何までありがとね」
まさかこんなところで雑用の経験が活きるとは思わなかったが、役に立ってくれたなら万々歳。
「―――よし、魔力抜きもおわったしあとは目的地までの魔力を補充するだけですね」
しかし不思議なものだ。
王宮の安っぽい術式が彫られた調度品が壊れるのは分かる、所詮は大量生産だ。しかしこんないい術式がそれもオーバーフローなんて珍しいこともあるものである。
「もうついでなので魔力の補充もやってしまいますね」
「い、いや流石にそこまでは――!」
「乗りかかった船ですから!こんなことお安い御用ですよ!」
これだけの術式なら魔力効率も相当なものだろう。王都までなのか、それとも近くの町までなのかは知らないが大した量にはならないはずだ。
「な、ならそれは私も一緒にやるよ!若い人にばかりさせるのは気が引けるからね!」
やけに食い下がって来るが、一緒にやってくれるというのならそれに越したことはない。
―――それから数時間後。
「いやー、まさかそんな遠くの村まで行くご予定だったとは。随分な長旅だったんですねー。あはははは……」
結論から言えばとんでもない貧乏くじだった。
荷物が大量に乗った馬車を動かすもんだから、どれだけ効率が良くてもそもそも必要な魔力量が多い。
その上距離が相当遠いらしく生半可な量ではなかった。この魔力量はあのおばあさんにはきついだろう。
「あ、あんた……!大丈夫なのかい!?」
ついさっき魔力切れになったおばあちゃんがそんなことを聞いてくる。息も絶え絶えという様相。
「はい、若いので!」
俺がいてよかった。このおばあちゃんだけじゃいつまで経ってもおわらなかっただろうから。
「そ、その魔力量は若いとかそういう問題じゃ――!」
「――よしっ!終わった!」
ばっちり言われていた魔力量、全体量の8割を達成。
距離が距離だけに貯めるのも時間がかかってしまったがまぁ俺とおばあちゃんで賄える量なら知れたものである。
……と、そう思っていたのだがこれから少し後にそれは間違いだったと気づく。
先に言っておく。
これは「役立たず」の烙印を押された俺が、自分の力で未来を切り開く物語である。
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