≪少女、追想する≫
今でもよくあの日のことを夢に見る———。
———村中に火が放たれていた。
いつもは和かなだけが取り柄のようなこの村に似合わない喧騒が村をおおっている。
「いいね、絶対にここから出てくるんじゃないよ」
「ごめんなさいね、あなたにはもっと、もっと色んなことを教えてあげたかったのに、こんなことになるなんて……!」
パパとママが涙を浮かべながら私にそう言った。
「ねぇ、どういうこと?パパ、ママ?」
「わからなくて良いんだ、必ず、必ず、迎えに来るからね……!絶対にここで待っているんだよ」
「パパと一緒に絶対迎えに来るからね?待っていてね」
「私たち以外の誰が来てもここから出ては行けないよ」
二人が泣きながら私を強く抱き締めている。
わからない、どうして二人がこんなに辛そうな顔をしているのか。
私は家の棚に押し込まれて、外から鍵がかけられてしまった。
「行きましょう、あなた」
「あぁ」
その声を最後に二人の声は聞こえなくなった。
それからしばらくして、寂しくなって、怖くなった。
だから私は魔法を使って、言いつけを破って外へ出た。
そこに広がっていたのは、私が知っている村の風景ではなかった。
目に映る景色がどうしても信じられない。これはなんだ。違う、こんなのは私の知っている村じゃない。
「いや、いやだよ……いや!」
どうして、なんで。なんでこんなことに。
村が炎に包まれている。
「パパ!ママ!どこー!?どこなのー!?」
どれだけ声を挙げても返事はない。
どれだけ目を塞いでも、鼻をつんざくような独特の匂いと、肌に焼け付く炎、そして悲鳴だけが私に飛び込んでくる。
「なんだぁ、まだこんな奴が残ってたのか?」
誰だろう、誰でもいい、男の声がした。
ハッとして振り返った。もしかしたら誰か事情を知っているかもしれない。そう思った。
でも、そんな私の幻想は一瞬で砕かれることになる。
「うそ。パパ……?ママ……?」
そこには見慣れない男が立っていた。
子どもながらにわかった、この人がこの村をこうしたのだと。
そんな男が背負っていたのは間違えるはずもない。血まみれになったパパとママ。
「あぁ?なんだお前、こいつらの娘か?ほんとは殺すつもりなんてなかったってのによぉ、必死に抵抗しやがるからつい殺しちまってどうするか考えてたところだけどよ。良いじゃねぇか、娘がいたなら話が早え」
その男の手が迫った。パパとママを殺した男の手。
これは人の手ではない。これに掴まれてはいけない。
「いや、いや、いや!」
頭では分かっている。今すぐに離れなければならない。ここにいてはいけない。パパとママが私を守ろうとしてくれた。
なのに恐怖で体が動かない。
逃げなきゃ、逃げなきゃ。わかっているのに体が言うことを聞かない。
「なぁに、取って食おうってんじゃねぇんだ。大人しくしてりゃ悪いようにはしねぇよ」
「いやぁぁぁぁぁっ!」
何とかしなきゃ、そう思った。でもどうやって。わからない。
そんな時、逃げようとする気持ちが勝ったのか思わず魔法が発動した。小さな子どもに発動できる魔法なんてたかが知れている。それでも、無防備だった男の顔に傷をつけるには十分な威力だった。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?てっ、てんめぇ!殺す!殺してやる!」
「ひいっ!」
思った以上の魔力が出た。そのせいでその男の顔が焼け爛れている。
「ボス!女の子どもだ!傷はつけねえ方が!」
「ちいっ!さっさとつれていけ!後こいつは二度と俺に近づけんな!拘束具つけて牢屋に放り込んどけ!」
「へいっ!ってことだ嬢ちゃん。悪く思うなよ、これも仕事だ」
「いやっ!やめて!」
そう言って部下の男だろうか。回りにいた男が私の手に手錠をはめた。
なんとか振り払おうとする。しかしそこは少女と大の男である、どれだけ反抗したところで何か起こるはずもない。
ガチャリ……と音を鳴らし私に手錠がはめられた。
謎の模様がついている。恐らく特殊な加工が施されているのだろう。
「えっ、なんでっ?なんでっ!?」
外そうとして魔法を使おうとしたのに魔法が使えない。
なるほど、こういうことか。子どもの私を捕まえるにしては随分と仰々しいモノだ。
「ったりめーだろ。お前らを捕らえるためにわざわざ高値払って作らせた手錠だぜ?」
間違いない。この人たちは私たちを狙ってきたんだ。ほかのどこかの誰かじゃない。そうでなくてはこんなものをわざわざ用意してくるはずがない。
そこら中で泣き叫ぶ声が聞こえる。そうか、もうどうしようもないんだ。
子どもの私ですらそう思ったんだ。パパやママはどれだけの絶望を覚えただろうか。それでも私の為に戦ってくれたのだ。
なのに私にはどうすることもできない。
「さぁ、行こうか嬢ちゃん」
彼らの手が私に触れた———。
———そこであたしの夢はいつも終わる。
でもここから先のことを思い出したいとは思わないし、思い出したくもない。
ただ父と母を背負っていたあの男の顔だけが、記憶に焼き付いて離れないままでいる。
さて、これは誰の追走なのか気になりますね。(すっとぼけ)
とまぁそんな訳で、今巻ではそんな彼女に少し焦点を当てて行こうと考えています。
鋭意執筆中ですので気長にお待ち下されば幸いです。
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