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≪第九章―役立たず、雑用する―≫(4)

「や、やっぱすげぇな。お前の師匠」

「当たり前でしょ?何寝ぼけたこと言ってんの?地獄で呪うわよ」


 スバルはと言うと、ただただあっけに取られていた。

 別に侮っていたわけではない。ただ伝説の魔女の伝説たる姿を目の当たりにするとまた違った感慨深さを感じていたのである。


「世辞は良い。早く兵力を集めよ。まずは兵たちの士気を上げたい」

「かしこまりました。ソフィア・モルガン様から直接の鼓舞ともなれば皆嫌でも全力を振るいましょうぞ!」


 そうして残存兵力や、負傷しはしたがまだ動ける者等々がテントの前に集められた。

 そこら中で「伝説の魔女」、「あのソフィア・モルガン」という単語が飛び交い、戦闘中とは思えない盛り上がりを見せている。

 そんな中、ただ一人だけ半目で事の成り行きを見守っている者がいた。


「あんたなんて顔してんの」

「いや、さっき俺ソフィアさんに言われたんだ。『ワシが合図を送ったと同時にお主の魔法を使ってくれ』って。俺はてっきり戦いの中の切り札的なことかと思ってたんだけど多分これは……」

「魔力のタンクでしょうね」


 スバルである。

 それはもうアリサが一目見てわかるくらいに何もかもを諦めていそうな顔をしていた。


「だよなぁ」

「まぁ良いじゃない。あんたの魔法ではあるんだし」

「そりゃそうだけど」


 そんな二人を他所に兵士たちは続々と集まり、今ではかなりの数になっていた。


「ソフィア・モルガン様、兵士たちの準備整いました」

「ありがとう」


 そう言って、ソフィアは集まった兵士たちの前に躍り出た。

 伝説の魔女の登場に兵士たちが一斉にざわつき始める。


「皆のもの、良く聞いて欲しい。まずは私の力を疑うものやそもそも本当にかのソフィア・モルガンなのかと疑うものがいるだろう故に――!」


 そう言ってソフィアが手を上げた。つまりそう言うことである。


「多分今よ、スバル」

「分かってるよ!」


 スバルは可能な限り、集まった兵士達を覆い隠す程度の円を頭で描き魔力を高めていく。かつて彼を役立たずと罵った顔がいくつもあった。それでも彼は魔力を止めなかった、今できることをやろうと決めていたから。


「これで私の力の証明としたい」


 大地が光り輝き、兵士たちの体にかつて感じた事のない程の魔力が流れ込んでいく。ソフィアの目的はここにあった。


「う、うぅぅぅ……!うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 地鳴りのような歓声が辺りを埋め尽くしていく。


「す、すげぇ!これが伝説の魔女の力か!」

「な、なんてこった!傷が見る見るうちに治っていきやがる!」

「ソフィア・モルガン万歳!ソフィア・モルガン万歳!」


 ついに万歳の声が兵士たちに上がるほどである。

 ソフィアの作戦は完全に決まったと言ってよかった。


「すごいじゃないかソフィー。いつの間にこれほどの魔力と魔法を?」

「後で話すがこれはワシの魔法ではないのじゃ」


 エルダはいぶかしんだが、鳴りやまない万歳の声にいったんそこで言葉を止めた。


「皆の者、聞くがよい!私はこれから貴殿らに今と同じように力を分け与え続ける!故に恐れるな!このことを前線の者にも伝えよ!勝利は我らにある!」


 ソフィアの一挙手一投足に兵士たちは酔いしれた。

 これが伝説の魔女の力だ、我らには伝説の魔女が付いている。その事実が実際に与えられた力以上に彼らを鼓舞していた。


「すごいじゃない、あんた」

「でもこれ俺がやって同じようになったと思うか」

「ならないわね」


 鳴りやまない万歳の声の中、二人だけがそれを一歩引いて眺めていたのであった。




「――いやはや流石ソフィア・モルガン様ですな!これで兵士たちも再び戦えますわい!」

「良い、これもワシの仕事じゃ。それに今のはワシの力ではない」

「はて、と、申しますと?」

「ワシの弟子であるスバル・スコットランドという男の魔法じゃ」

「なんと!お弟子様の!つまりソフィア・モルガン様は更に大きい魔法を隠しておられると!そういうわけですな!」


 こういう時、人はより良い方向にことを捉えがちであるが、現場の指揮官である彼にしても同じことであった。

 まさかその弟子と言うのが王宮では役立たずなどとバカにされていたものだとは夢にも思っていないし、その弟子の魔法が現状魔物――引いてはアダムに対抗できる唯一の力だなどとは到底考え付きもしないのである。


「ワシ達はこのままここで後方支援を行いつつ、必要があれば適宜前線に赴きたいと考えているのじゃが。良いだろうか?もちろんその間にも弟子の魔法は使わせ続ける」

「はい!ですがこの魔法の効果は――」

「あぁ、ワシの。伝説の魔女ソフィア・モルガンの魔法だと言って皆には聞かせてやってくれ」

「かしこまりました。いやはや、流石おとぎ話にも名を連ねられたお方は違いますな!これは百人力どころか千人、いや万人力でございましょう!」


 そう言って彼も自分の持ち場へと戻っていった。なんとも調子のいい指揮官である。

 しかし、ソフィアが与えた鼓舞は彼がこうなってしまうのも仕方がない程に兵士たちを奮い立たせた。それこそが正にソフィアの考えていた『作戦』でもある。


「聞かせて貰おうか。あれはどういうことなの?それにそれがスバル君の魔法だっていうじゃないか」

「そうじゃな――」


 そうして、ソフィアはスバルの魔法と魔力についてエルダに話した。


「本当にそんな魔法が?それにそんな魔力量……。とても信じられない」

「だが本当じゃ。だからこそ奴はアダムを一度追い返しておる」


 エルダは、ソフィアがこんな時にわざわざ嘘をつくようなタイプではないと知っていた。

 それにソフィアを疑うことができないのは勿論、今実際に見せつけられてしまった現実をどうしても疑うこともまたできなかったのである。


「つまり彼を守ることが……」

「あぁ、今回の作戦の肝になるの」


 この時点でスバルは自分が期待されていたのは前線で華々しく戦うことではないのだと気が付いた。

 言いたいことがなかったではないだろう。だがそんな彼の気持ちを知ってか知らずか、ソフィアがこんなことを言った。


「さっきあそこにいた者たちを見たか。あやつらはもちろん、この戦いに関わっている全ての者――ざっと千人超の生死を握っておるのはお主じゃ、スバル」


 それは十分すぎるセリフだった、スバルを後ろに引っ込めるという意味では。

 彼は流されやすいタイプだ。

 だからこんな言い方をされればついその気になってしまうのである。


「スバル、改めて頼みたい。今回の作戦の要はお主じゃ。引き受けてくれるかの?」


 ずるいな全くもう。なんてことをスバルは思った。

 だからソフィアにこう言い返す。


「でも、やばそうなら勝手に前に出ますよ?俺、ソフィアさんに死なれると困るんで」

「ふっ、生意気言いおって」


 ちなみに、この話を聞いている間ずっと笑顔を崩さなかった者が二人いた。アリサとエルダである。

多分ここまでで下ごしらえは済んだかなと思います。

ここからはもう少し主人公君に頑張って貰いたいですね。


ご一読頂き、ありがとうございました。

これからも定期的に上げられるように頑張ります。

もしよければブクマとページ下部、評価ポイントをお願い致します。励みになります。

あと批判も、というよりむしろ批判を待っておりますので感想等もお時間あれば頂けると幸いです。

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