≪第九章―役立たず、雑用する―≫(2)
スバル達が戦線に加わる一時間ほど前――。
彼らの姿はまだテナーにあった。
「エルダよ、状況はどうなっておるのじゃ」
「そうだね、まだ五分五分ってところかな」
「ほう。王都の連中も中々やるではないか」
ソフィアは素直にそう思ったままを口にした。
まぁ、紛いなりにもこの国の中枢。魔物が押し寄せたというだけですぐに機能不全になられるようでは困ると言うのが妥当なところだろうか。
「まぁ大規模な転移魔法を使って王都付近まで跳んできている分、まだ頭数がそろう前に叩けてはいるみたいだし私たちの仲間も既に戦闘に参加している。だけど、宮廷魔導師や騎馬隊だけではやはり戦線の維持だけで手一杯。特に今回一番厄介なのは――」
「オーク、じゃな」
エルダが言い終える前にソフィアがそう言った。
ソフィアは耳が早い。近頃辺境の村や町をオークの大群が襲っているという話は既に聞き及んでいる。
それにそもそも魔物と言うのは無意に徒党を組むことはない。特に多種族間で並び立つことなどまずあり得ない。
それが大群だと言うのだから間違いなくアダムが係わっている。
「ふふっ、流石ソフィーだ。噂に聞いているよ、君がアダムを追い返したって」
「いや、それはただの噂なのじゃ。やったのはそこにおるスバルと言う男でな」
「なっ!?それは本当かい!?」
エルダの視線が突如スバルに注がれた。
ここでも、やはりスバルはガチガチに緊張していた。奇異のまなざしとは言え、美しい女性にまじまじと見られていることに変わりはない。
「ふーん……。へぇ……。アダムを追っ払ったにしてはすごそうには見えないけど。まぁソフィーが言うんだから間違いないんだろうね」
「あ、はい。い、一応は」
「それはそれとして。君ソフィアと一緒にここまで来たよね?」
「へ?」
エルダの雰囲気が一瞬で変わったのを彼は何となく察した。と言うより目に魔力を集められるようになった結果察せるようになったと言った方が正しいだろうか。
「君、ソフィーに何か変なことしてないよね?」
何を言われるのかと身構えていたスバルは耳を疑った。しかしエルダは至って真剣な目をしている。
「……はい?」
「いや、隠さなくていい。ソフィーは見ての通り綺麗だ。顔は良いし、髪だってこんなにサラサラでスタイルは抜群。君のような盛りの付いた犬が変な気持ちになったって仕方がないだろう」
「え?えっと?それってどう言う」
スバルはこの時点でエルダの雰囲気が何をもって変わったのかを理解していた。と、同時にソフィアを横目で見たがソフィアはソフィアで頭を抱えながらため息をついている。
「さぁ、スバル君、正直に言うんだ。今なら半殺しで済ませてやる」
「あ、えっと、自分そう言うことは全く――」
「嘘はつかなくて良いんだ。さぁ、さぁ!」
エルダは聞く耳を持っていなかった。と言うより彼女は頭からソフィアを襲わないでいられる男などいないと考えていたからそもそも話し合いにすらなっていない。
「君の迸る熱いパトスでソフィーに一体どんな羨まけしかんことをしたのか今すぐここで洗いざら――いだぇっ!?」
「止めんか、このバカタレ」
ヒートアップしたエルダにソフィアが思い切り拳骨をかました。
エルダは、これでいてことソフィアに関してはかなり残念な人物なのであった。
「痛い!何をするんだソフィー!私はただ君に付いた悪い虫をさっさとこの世から抹殺しようと!」
「抹殺するのは構わんがまずは王都を守ってからじゃ」
「そ、そうですよ!そう言うことはまず王都に来ている魔物やアダムを何とかしてからだって――え?あれ?」
スバルは、何かとんでもないことを言われた気がしていたが、同時にもうどうしようもないことになっている空気も感じていた。
「残念だったわね、スバル。あんた抹殺確定だって」
「え?あれあの人本気なの?」
「さぁ?ただ師匠には不思議なくらい男の影がないのは事実よ。あんなに綺麗なのに誰かに言い寄られてるとことか見たことないもの」
アリサのセリフに、彼は背中から変な汗がダラダラ流れるのを感じた。
「ふぅ、確かにソフィーの言う通りだった。済まない二人とも、取り乱したね」
なんてエルダは涼しい顔で言ったが、もう今更取り繕うのは難しいだろう。
「あぁ、この人残念な美人だ」とスバルもアリサもこの時だけは全く同じことを思っていたのであった。
「で、エルダよ。勝算はあるのか」
「てっきり私はソフィーがアダムを倒したものだとばかりと考えていたからそのつもりだったんだけど……」
「何、案ずるでない。作戦ならある。実際これでスバルは中々できる男じゃ。スバル、お主は今回の作戦の要じゃ。期待しておるぞ」
「は、はい!任せといてください!俺絶対やって見せます!」
「なんであんたそんなにやる気出してんのよ」
「べ、別にいいだろ?」
いきなり話を振られたスバルは一瞬戸惑ったがすぐに持ち直した。むしろ王都にいる奴らを見返すチャンスだとすら考えている始末。
「ふーん。こいつがねー」
そんなスバルをエルダは半信半疑といった様子。
「でもまぁソフィーがそう言うなら信じるよ。じゃあ行こうか。王都で私たちを待っている人がいるからね。今頃首を長―――くしてるよ」
と言うと事も無げにエルダは転移魔法の発動準備に入った。
それとほぼ同時にソフィアがスバルに耳打ちをする。
「――えっ、それって」
「頼むぞ。さっきも言ったが今回はお主が要じゃ」
そうソフィアが言い終わるとほぼ同時。王都、それも王宮の中への転移が完了した。
思っていた以上に長くなってしまいそうなので(前中後)ではナンバリングできなくなりました。
付き合わせしまい本当に申し訳ございません。
ということでご一読頂き、ありがとうございました。
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