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≪第五章―役立たず、頑張る―≫(後編)

「マオウ……マオウ……」


 ここは町外れ。辺りにはおびただしい破壊の跡。


「オークなんかが徒党を組んで、何をしようって言うんだ!」


 足が震えている。当たり前か。

 ついぞ俺は宮廷魔導師時代こいつに勝てなかった。なんな一年前、俺に役立たずの烙印を押したのだって。


「ワレラ……フタタビ……」

「魔法を撃つオークってだけでも驚きなのに、おまけに喋るなんて最近のオークは随分進んでるんだな!」


 既に二度魔法を撃ったがかすりもしていない。

 とはいえ町にそこまでの被害はでていないのは、悔しいがソフィアさんにボコボコにされたからであろう。ある程度は抑えて撃ったつもりだ。


「ぼ、坊や……大丈夫かい?」

「心配しないでください。俺が何とかしますから」


 ただのオークだけなら俺にだって……。




 ――今からさかのぼる事30分前。


「『水系統の魔法は、強いイメージが大事』だって?できるわけないだろ、こちとら頭の中の円を維持し続けるので精一杯だってのに!」


 スバルの姿は近くの川にあった。

 水魔法の練習、魔法の本曰く『水魔法を学ぶ際には実際の水の流れを感じる』ことが大事らしいからだった。

 辺りは大雨でも降った後のように水浸し。


「『そこに存在しない流れる水を捉えるように。』なんて簡単に言いやがって」


 彼の生まれ持った膨大な魔力から放たれる水魔法は相応の質量の水を生み出した。スバルの水魔法はその質量故にコントロールが全く効かなかったのである。

 手のひらに水を捉えることまではできても、それ以上はどうしても先に進めない。イメージとしてはバカでかい破裂寸前の水風船を留めておくイメージ。


「はぁ、町で頭を冷や……違うな、頭は冷え切ってるんだから休むだけか」


 そう言って彼は町に出向いた。

 それなりに大きな町。それなりの人の流れ。それなりの賑わい。

 何をするでもなくただぼんやりと歩いていた。彼はそうしていると、自分を少しだけ忘れられたのである。

 途中の広場に噴水を見つけた彼は、そこに腰かけることにした。


「ラーラララーララーラララーララーララー♪」


 この歌を歌っている間だけは難しいことを考えないで済む。

 だから彼は、ただ空をぼんやり意味もなく眺めていたい時にはこの歌を口ずさんでしまうのであった。


「ラーラララーララーラララー……」

「――あら、そのメロディーは」


 そんな彼に一人の老婆が声をかけた。


「え?おばあちゃんこの歌を知っているんですか?」

「えぇ、もちろんよ。あなた、ニアナ村の出身ね」


 話を聞くと、そのおばあちゃんの亡くなった旦那がニアナ村の出身だったらしかった。


「ご、ごめんなさい。あれやこれやと聞いてしまって……」

「いいのよ、私の話なんて聞いてくれる若い子はいないから。それにあの人の出身と同じニアナの方だったんだからむしろ嬉しいくらいよ」


 うふふふふ。とおばあちゃんは優しくは笑った。


「でもあの歌をまた聞けるなんて……。私は幸せ者だわ」

「そんなこと。あんな古い歌なのに」

「いいえ。あの人がこの町に来て、丁度あなたがいた場所であの歌を歌っていたの。あの頃に戻ったのかと思って年甲斐もなくはしゃいでしまったわ」


 そう笑うおばあちゃんの顔は、今にも消えてしまいそうなほど儚かった。


「お、俺でよければ!あ、あんな歌くらいいつだって歌います!」


 スバルは気が付くとそのおばあちゃんの手を取っていた。


「あらあらまぁまぁ。嬉しいことを言って下さる若者だこと」

「ご、ごめんなさい!」


 スバルは慌てておばあちゃんの手を放した。年相応にか弱くか細い腕は、それでも尚暖かく、彼に生きていることを感じさせた。

 スバルは何となく思い出していた。

 村にいた頃、おじいちゃんおばあちゃんのお願いを毎日聞いてはこうしてゆっくりした時間を過ごしていた時のことを。

 宮廷にいた頃、役立たずと言われながらも毎日毎日雑用に明け暮れていた時のことを。


「そうか。そう言うことか」


 彼はどうしてもソフィアの言っていたことに納得できなかった。

 自分に力なんてないんだと、どこか晴れ晴れとした気持ちでいた『アリサと出会った頃の』彼自信を、気づかぬ内に『王宮にいた時のように卑屈』で『役立たず』な自分だと思い込んでしまっていたから。

 でもそれは半分正解で半分間違っていた。

 確かに彼に大きなことはできなかったかもしれない。華々しい活躍はできなかったかもしれない。

 でも、足りない自分の力を誰かの為に使うことに対してなんの抵抗もなかった。でも、力がない自分を受け入れられていた。


「できない自分を嫌ってやるな。なんて難しいですよ。ソフィアさん」

「ふふ。若者というのは良いものね。随分暗い表情だったのにすぐ立ち直ってしまうんですもの」

「そ、それは――!」

「きゃあぁぁぁ!」


 彼が言い終えるより早く、誰かの叫びが広場にこだました。


「なんだ……。ってオーク!?」


 オーク。それは身長2~3メートル程もある緑で人型の体躯に、豚のような頭のついた魔物の一種である。通常2~3匹で群れになり人里を襲う。

 今回もその例に漏れず


「お、おばあちゃん!逃げよう!」

「え、えぇ……」


 そう言っておばあちゃんの手を取って走りだそうとするが、突然のことでおばあちゃんが足を滑らせてしまう。


「う、ううぅっ……!ご、ごめんさい、私のことは良いからあなたは――」

「駄目ですよ!あなたも生きなきゃ!」


 やるしかない。彼は覚悟を決めた。

 これは彼にとって必要なことだった。彼を『役立たず』にしたのは他でもない。オークの群れ。


「俺は、俺のままであの頃の俺を越える」


 範囲魔法を狭めるのはもう慣れたものである。


「魔力を抑えろ……魔力を……!」


 ソフィアとの組手の経験が、水魔法の練習の経験が、彼に魔法の原則を感覚として理解させていた。

 魔力はイメージ。

 ゆえに彼は可能な限り小さな炎をイメージした。何もかもを飲み込む劫火ではなく、眼前のオークを焼き尽くす炎を。


「食らえ!」


 放たれたのは初級魔法というには少し大きい程度の火球。しかし、オークを討つにはこれで十分だった。

 狙いすました炎は寸分狂わずオークに直撃。生き物が焼かれる独特な臭いを上げてオークは息絶えた。


「やれる、やれるんだ!」


 そんな俺をよそに、残ったオークたちが突如叫び声を上げた。


「なんだ、一体。どうしたんだ」


 通常、オークは群れの一匹が討たれた場合激昂して襲い掛かってくる。しかしこいつらは何だ。それはまるで――。


「何かを呼んでいる?」


 そう彼が思った時、ソレは彼の前に突然落ちてきた。

 そして叫んだ。


「ワレラ……マオウノモトヘェェェェェェェェェ!!!」


 何が起こったのかを彼が理解する前に、ソレは持っていた剣を大地に突き立てた。


「危ない!おばあちゃん!」


 切っ先からは、膨大な魔力が爆発となって炸裂した。

 爆発の煙が晴れた時には、信じられない数のオークたちが集まっていた。




――とは言ったもののどうにかできるのか、俺に。


「カンジル……チカラ……」


 さっきの爆発で恐らくすぐにでもソフィアさん達がここに来るはずだ。そうなればこんなオークくらい――。


「なっ!?スバル、お主ここで何をしておる!」

「ソフィアさん!良かった!来てくれた!俺一人じゃこいつらを――!」

「ま、まさかお主オークを討つためとは言えこんな町中で魔法を撃ったのか!?何と言うことを!これではお主かオークかどちらが町を襲ったのか――」


 ま、まずい。とんでもない勘違いをされている。このままだとオークをどうにかする前に俺がどうにかされてしまう。


「この方は違います!私を助けてくれました!この爆発もあのオークが!」


 その前におばあちゃんが俺を庇ってくれた。

 おばあちゃんが指さした先を皆が見つめた。


「あのオー……ク……」


 そのオークを見たソフィアさんの様子が急変した。

 ソフィアさんの声が急に震え始める。


「あ、あぁ。あぁぁ。あ、あれは、あれは……!」


 声だけじゃない。ソフィアさん自体もありえないほどに怯えている。


「どうしたんですか!?ソフィアさん!?」

「に、逃げろ。逃げるのじゃ、お前達!あれは――」

「ソォォォォォォフィイィィィィィアァァァァァァァ!!!」


 オークがソフィアさんを見て彼女の名前を叫んだ。


「あれはただのオークではない!先代魔王がこことは違う世界の神話から()()()()()()()()()()の意として名を借りて生み出した知性を持ったオーク、『アダム』じゃ!逃げろ!奴は私でもどうしようもない!」

ご一読頂き、ありがとうございます。

これからも定期的に上げられるように頑張ります。

もしよければブクマとページ下部、評価ポイントをお願い致します。励みになります。

あと批判も、というよりむしろ批判を待っておりますので感想等もお時間あれば頂けると幸いです。


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