《第6話》守れぬ運命、焚きつく意志[スターダスト平原]
恭子は走る。
懸命に、一分一秒無駄にできないという思いで魔力を脚に込めて走る。
彼女の息が乱れる。
今まで使ったことのない力を使いながら走ることに彼女の脳と体がついていかない。
脚がその力で生み出される風にすくわれて、恭子は前のめりで転倒する。
「っ! ああ、イッテェ!!」
両方の手のひらを擦って血が出る。じんわりと痛むその手のひらを握り締め、上体を起こす。
(くそ、こんなんで足を止めてられないだろ……。スカイの顔、あれはマジでヤバいんだな……)
数時間前のことを思い浮かべ、再び必死になって走り出す。
妖精達にお願いをされ、半ば強引に押し付けられるようにして手に入れた腕輪のようなもの。
パンドラ。
(アイツラが、プラーマ達がアタシにこれを使って戦えって言ったんだ。……でも、何でアタシはこんな必死になって)
いきなり酷い扱いをしてきた妖精達、彼女達が本気であの平原を愛していたんだとその場で感じだ。 その平原に、助けられられた恩もあるのかもしれないと恭子は思った。何よりも――。
(ああ、まだ会って間もないけど、なんだか無性にアイツラを助けたいんだ……!)
そう考えて、もう一度パンドラを見る。
彼女は、パンドラと聞くとどうしても脳裏でパンドラの箱をしていた自分の弟を思い浮かべてしまう。
『パンドラの箱ってさ、開いた瞬間世界が絶望に溢れかえるんだって。それで、全てが終わったあとに小さな希望がその箱の底に残ってたって逸話なんだ。それの題材になってるのが……』
「なんだそりゃ……。それがもしあいつが言ってたパンドラなら、これは一体……? ん、ちょっと待て?」
彼女は何かを忘れている。
ふと、彼からギリシャ神話ベースの小説を渡されたのを思い出した。
それを、自分のトートバッグの中にいれたまま。
(あっ)
置いてきたのだ、それをあの戦場に。
「あーっ! アタシのバッグ!!!」
恭子は額からこめかみからダラダラと汗を流し始める。
「やっべぇぞ!! 終わったか?! いやでもちったあ可能性信じて! 早くしねぇとアイツらの戦いで消し灰だチキショーバカアマぁ!!! けど……こんなに走っても走っても、辿り着かねぇこのくっそ長えトンネルみてぇな洞窟を、このままずっと走る? ――ええい! バカだバカ! こんなん飛べやいいんだ!」
彼女は、すぐさま立ち上がり足を踏ん張る。すると、足元に光と風が集まってきた。
「うおおおおおおお! 溜れ溜れ溜れぇ!!!」
足元に魔力が生み出す色彩が混ざり合いオリーブ色の重なり合った円を描く。
魔力が地面に伝わるとヒビが入る。
「すぅ……っ。これでぇ! どうっ」
彼女はヒビ割れた地面を蹴り飛ばした瞬間、地面が蹴り飛ばされ、洞窟の天井まで盛り上がる。
「だああああああああ!!!??? ちょちょちょまてまてまて!!!」
強力な風がその足元に生まれた衝撃で爆発音を洞窟に鳴り響かせる。
体に光をまとったまま、彼女は突き飛ぶ。
「うわああぶつかっ!!!!」
その爆風にパチンコ玉のように飛ばされた恭子は、洞窟の天井を貫き空へ放り出される。
「っ〜〜〜〜! いってぇ!!!! くねぇ!! ははっ! あれ、なんで大丈夫!? って、ここは……」
目を開いて映った景色は、光を失った平原だった。
「え? 何だよ、これ……。真っ黒で、死んでるみてぇだ……」
恭子は飛翔しながら周りを見渡す。
けれど、真っ暗でどこにも大きな木が見当たらない。
「クソ、あそこの近くにおいてきちまったって言うのにさ! こんな真っ暗じゃ、……あの緑と青の光は」
真っ暗な中で、2点の光がそこで光っていた。
「……そうだな、まずはそっちだな」
恭子は、その光に目を注ぎ足に力を溜める。
「……空気って蹴れるのかな? っオラッ!」
彼女が脚を伸ばすと突風が生まれ、光がある方へ真っ直ぐ飛んでいく。
「うおおおおお!?!? ちょちょちょ、ストーーーーっ」
ボン!!!! と、鈍い音が広がる。
「はぁ?! 今度はなんか飛んできたんだけど!! 一体なんなんだよクソッ!! スカイ!! 相手してよ!!」
「!? 待って、この力はキョウコさんです!」
「ええ!? キョウコ!?」
煙が撒くと、横向きにうずくまりながら倒れたキョウコがいた。
「とんだ無茶しましたね……キョウコさん。大丈夫ですか」
「いってて……いやなんでか痛くなかったたんだけどさ。で、誰が◯ムチャだって?」
「無茶だよ! 何か勘違いしてるし! ってそんなことどーでもいいよ!! 誰でもいいから助けてよ!!」
「恭子さん、ごめんなさい直ぐに力を貸してください」
「ん? ……っ」
恭子は起き上がって瞬時に状況を目にした。
そこには朱色の砕け散ったかけらを緑色の光で涙組ながら光らせている緑色の妖精がいた。
「……プラーマは?」
「……煩い」
「ライム、どうした――」
「煩い! なんで、なんでこうなったんだ!」
「ライム、落ち着いて! 呪文に集中して!」
ライムは、恭子を睨みつける。
「「「……」」」
その翠の目をみて、恭子は目を細める。
「なんでって、それはアタシが聞きてぇわ。……その朱いやつ、アイツなんだろ」
「そうだよ! 二人が行ってる間に、こうなったんだよ!」
「……っ、そうかよ」
「なんで、なんで早く知らせなかったんだ」
「ライムそれはさっきも――」
「アタシのせいって言いたいんだろ」
スカイが弁明しようとするも、恭子は彼女の言葉を遮る。
ライムの堪えてるものを、ライムの瞳から感じた想いを言葉にする。
「……そうだよ、オマエが来たから、魔物が来たんだ。オマエが来たから、アイツラの存在に気付けなかったんだ。……ソレに、アイツまで! 呼び出してきやがったんだ!!」
「……そうかよ、悪かったな。でもアタシはなんも知らねえ」
「っ……」
恭子はライムの瞳から目をそらし、後ろから襲いかかってくる数多の影に意識を向け、思いを堪えて血走らせた目を向ける。
「分かるのは、ただ一つだけ」
腕輪を黄金色にさせる。
「アタシは、やれる事を殺るだけだ」
彼女はその茶色い眼を黄金色へと変える。
「すぅ……」
自身の頭に噛み付こうとする一匹を、裏拳でその頭部を吹き飛ばし、足元に滑り込んでくる三匹を光を纏った足で薙ぎ払い、遠くから風で突進してくる十匹を腕の周りに集まる光を掴み、投げ飛ばし、分散させて全てを貫いた。
「……はあ。コットンツリーは、どこにあんだよ」
再び光をまとった少女は、黄金色の瞳で辺りを見渡しながら暗闇の戦場を進み始めた。
リアルとソシャゲ優先してたせいでゼーン然覚えてなかった!(作者としてどうなのか)
文章ナニーの為、とりま再開しますん。