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果てに咲く花 〜彷徨える輝少女の英雄譚〜  作者: 旭ノ景
第一章:パンドラに選ばれし輝く少女
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《第5話》力に目覚める二人、悪夢の前兆[アモレトット村]

「守護者よ!! 叩き潰して!!」


 スカイが青い巨兵が、己の手を黒狼にむかって振り下ろす。


 その巨大な手は、空気を凍てつかせながら地面をたたき割る。


 四体、七体、十体、十四体と、その魔力により黒狼は次々と氷の欠片となっては、巨兵の手によって散っていく。


 しかし、その巨体の手の圧に屈せず、隙間をくぐり抜けていく黒狼が数体いた。


(そんな、なんてタフなのですか……! 召喚術の魔力に耐えられる個体……まさか!)


 奴らが向かう先は、恭子だ。


 ギラギラと、その黒い瞳で睨みつけ、風を纏って突進していく。


「氷の……っ?!」


(う……だめ、速すぎる。呪文が、全く間に合わないっ……!)


「キョウコさっ……!」


 黒狼がスカイを横切る。 スカイが、後ろに居た恭子へ振り向いた、その瞬間だった。


「ぶっっっとべえぇ!!」


(光の、線?)


 黒狼の体が、勇ましい声とともに飛んできた光に打ち飛ばされ、一瞬にして黒い霧になって弾けた。


「こんな! ところで! やられるかッ、てぇのッ!!!」


 次々と走っていく黒狼が、恭子のもとから放たれる光に体を貫かれると、まるで風船のように体を弾けさせて散っていく。


「……! キョウコさん、急にどうして……。っ! これは」


 黒狼が消えた後に、コロコロと光るなにかが落ちていく。


「やはり、魔石ですね。こんな強力な魔力の黒狼を、一撃で」


 スカイは眉を潜めながら、恭子をみる。


「……」


 恭子の腕輪が眩い光を放つのと共に、彼女の瞳は黄金の閃光を走らせる姿を見て、スカイは思わず息を飲む。


「いやあああああ!!!」


「なんだ?」


 恭子は叫ぶ声がした方に目を向けると、黒狼達に壁際へ追い詰められた村民達を見つける。その中には負傷した人が、子供を含めて三人いた。


「あ、あっちいけ! いけよお!!」


「ち、くっそ、お……」


「うええええええええええっ!!!」



「あれは……! チッ! 間に合え!」


 負傷した住民に寄っていく黒狼達を見て、彼女は拳に力を入れ、歯を食いしばり、地面を思いっきり蹴って駆け出す。


「邪魔、だぁ!!!」


 まとわりつくように飛びかかってくる黒狼を、その拳で弾き飛ばしてはかわしながら、握りしめていた光を分裂させ、投げ飛ばす。


「間に合ええええっ!!!」


 彼らが、黒狼達に噛みつかれる。


 彼らの絶叫が響き渡る。


 肉がちぎれたような音がした。


 だが。


 彼らの声は、途切れなかった。


「ウワアアアアアアアアッ! あ……あ、あ。はあ、はぁ、うっううう」


「ヒ……ヒ……」


「は、はは、たす、かった、助かったよお」


 一瞬にして弾け飛ぶ一体の黒狼の頭部、残された胴は横にゆっくり倒れこみ魔石を残して消えた。続くように胴体を貫かれ、影となり霧となって消えていく黒狼達を目にし、追い込まれていた村人達は脱力感で、震えながら壁により掛かり、座り込んでいく。


「ふう、カンイッパツってか。……けど」


 恭子は一息入れ、辺りを見渡す。


 周りにも、同じく襲われている村民達が壁や崩壊した瓦礫のそばに追いやられている。


「チッ、休んでられねえなあ! やらせるかあッてえのッ!!!」


 腕輪に引寄せられるように周りに浮かぶ光の玉を、彼女は迷うことなく握りしめると、走りながらも舞うようにステップし、向かってくる黒狼の攻撃をかわしてはその輝く拳で迎撃し、村人の周囲にいる黒狼に向けてその光を放ち、次々と消し飛ばしていく。


「これが、パンドラ……。そして、恭子さんが持つ力なのですか……?」


 人々を襲おうとしている個体や、己の突風で荒れ狂う個体が、その光の一撃で次々と消えていく光景に、スカイは呆然と見ていた。


 一匹の風をまとう黒狼が、目の前にいたことに気付かずに。


「あ」


 彼女は、黒狼の隠密能力と俊敏性を知っていた。けれど、その能力を全く警戒していなかった。完全に油断していた。


 己の敵の隙を見逃さず、黒狼はドス黒い魔力のこもった牙でスカイに噛みつこうとしていた。


「っ!」


 黒狼が持つ“絶命の牙”といわれる死の呪いがまとった牙が、彼女の体を捉える。


 終わった。

 

 彼女がそう思った瞬間、あの光が横切った。


 目の前で黒いモヤから魔石が転がり落ちるのを夢見心地で眺めていると、遠くから「おい!」と荒げた声が聞こえた。


 振り向くと恭子が、襲いかかる黒狼と乱闘を続けながらスカイに向けてふざけんな、と続けて叫んでいる。


「ボーっとしてんなよ! つーか! さっきからよ! ド素人のアタシばかりに、コイツラ任せんなっつーの! それにアンタ、助けんだろ?! あの二人をさ!」


 恭子の怒声を聞き、スカイは我に返る。今の彼女の異様な強さと冷静さに、驚いている場合ではないのだと。


 油断している場合では、ないのだと。


(魔導兵の恥さらし! 私が呆けている間に、キョウコさんは、戦っている。それも、戦いを知らないのにも関わらず、己の意志で躊躇わず立ち向かっている。……それにきっと、あの二人は今頃……!)


 彼女は、胸に手を当て短い深呼吸をした後、乱れた長く青い後ろ髪を紐で縛り直し、槍を構える。


「チッ一斉にそっちに向かってやがる! スカイ! アンタの近くに人を狙ったやつらが向かっているぞ!」


「はい、任せてください! 守護者よ、冷徹なる鉄槌を! 《クルエルハンマー》!」


 教会に逃げ込んできた人々へ駆け出す黒狼達を、スカイは青い巨兵を操り、拳で潰す。


「っ、やはり生きている!」


 特殊な個体である黒狼達は、体を瞬時に凍てつかせるその冷気を、自身に纏う風で防ぎ、巨兵の攻撃から逃れた。その残党が、巨兵の拳から生まれた霧の中から顔を出す。


(アイスガーディアンの冷気に凍りつかない個体は、間違いなく魔石持ち。つまり、並大抵の魔物じゃない。小さな村なら一体だけで壊滅させる程の脅威、そんな奴らの動きを瞬時にして凍りつかせるには、上級殲滅術が求められる)


 彼女は、槍を構えると周囲に細かい無数の氷の針を生み出していく。


「うっ……!」


 彼女が目を強く瞑ると、手元の槍を震わせ頬に汗が浮かび上がる。彼女の脳裏に、羽根付き帽子を被った長耳の青年から言われた言葉が浮かび上がる。


『一般的な魔術師は、複雑で高度な術式を同時に2つ活用すると、魔力の消耗が激しく、心臓の動作を司るマナコアにまで負荷がかかり、最悪死に至ると言われています。くれぐれも併用は気をつけなさい』


(……耐えられるのか、私に)


 スカイは首を振り、目を開く。その蒼き瞳から浮かび上がる魔力の光を輝かせ、再び槍を握りしめる。


(今、私の限界を超えなければ、あの二人は……助けられない!)


「だから、今、私は! お前達を、ここで討たなければならない! 寒獄で吹き荒れる暴風よ、敵を氷結させろ。《フリーズブラスト》オォォォ!」


 駆け出す黒狼達を、スカイは光に照らされたサファイアの如く輝く瞳で捉え、槍を投げ飛ばす。その勢いから生み出される暴風が氷柱の無数の針を乗せて、一斉にかつ瞬速で黒狼達に吹き付けられていく。


 残党達は、瞬く間にその無数の氷の針に貫かれ凍りついた。


「《ダブルマジック》! ッう、う! 愚かな、生物よ! 凍てつく墓標へと沈めっ! 《クラッシュプレス》ッ!!!」


 凍った事を瞬時に確認したスカイは、意識が朦朧としたまま、凍りついた黒狼達を一匹残らず巨兵の平手で押しつぶし、一体も残すことなく砕いた。


 魔石がその跡を、キラキラと光らせている。


「た、助かった。助かったよ!!」


「あ、ありがとうスリースターズ!」


「助かったよスカイ様!」


「スッゲェ! スカイってやっぱ凄い妖精なんだな!」


(これが、召喚術と、上級攻撃魔術を併用した、代償……)


「スカイ? ……おい! スカイ!」


 空中で弱々しく降下していく青い妖精を見て、恭子は眉をひそめて彼女の名を呼ぶ。


「はあっ、はあっ、はあっ……。くっ、やはり、はあ、応えます、ね……」


 スカイの荒げた呼吸が止まらず、彼女の目と羽が次第に光を失っていく。


(これが、私の限、界……)


「っ……」


 空中に浮く魔力から投げ出されるように、スカイが弾け飛ぶ羽に飛ばされる。


 纏っていた青い光が、辺りに花弁が散る様に弾けると、スカイのサファイアのような羽が粉々に砕け散り、そのまま彼女は地面に叩きつけられる。


「スカイ! おいスカイ! 大丈夫か!!?」


「あ、は。はあ、はあ。むり、かも、し、れ……」


 彼女は幸い、軽い怪我をしたようだったが、小刻みに呼吸を入れていて、目を瞑ったままか細い声でそう答える。

 恭子は舌打ちをすると、周りの光の玉を彼女に向けて誘導させる。


「これ! 試しに抱きしめてみろ!」


「な……に?」


「いいからさ!」


「うッ!?」


 恭子は、光の玉を掴んで無理やりスカイの小さな体にねじ込むようにしてあてる。


「ううっ。か、体が、熱い……。っ!」


 光の玉は、スカイの体に入り込んでいく。その白く輝く光は、彼女の体に順応していくように青へと色を変え、彼女を包みこむ。


「体に、力が、戻っていく……!」


 スカイは、空中にふわりと浮くと、魔力を取り戻したかのように再びサファイアのような羽を作り出していく。


「恭子さん、これは一体?!」


「分かんねぇ!」


 笑いながらそう答える恭子に、スカイは苦笑を浮かべた。


「てかさてかさ! あたしなんか玉投げてるだけなのに、あんな迫力ある凄え魔法みせられてさ、なんつーか、凄かったぞ!」


「ふふ、凄い凄いって。こんなのより凄いのは、その玉を投げて一撃で倒してしまうあなたなんですけれどね」


 困った顔で笑いながらいうスカイに、恭子は「そうか?」とヘラヘラしながら頭の後ろをかいた。


「「あっ!」」


 敵から目を離していると、突風が起こった。


 残党の黒狼達が、後退る姿勢を見せてその風と共に一斉にして教会の外へと消えていく。


「キョウコさん! 奴ら、逃げていきます!」


「ああ、追おう!」

 

「みなさん、我々は残党を追います! 妖精の雫を置いていきますので、重症者から優先して使ってください!」


 スカイは、青い光を生み出すと、光は大きな袋へと形を変えた。


「ああ、ありがとう、ありがとう! スリースターズ! 勇気あるお姉さん!」


「助かったぜ! お嬢ちゃん達!」


「お願い、まだ外にいる人達を救ってあげて……!」


「ええ!」


「ああ、任せな!!」


「恭子さん、急ぎましょう!」


 恭子は彼らに向けて手を振ると、スカイと共に風の魔法に乗せられて残党を追いかけた。

 


 教会の外へ出ると、地面に張り付いたように存在する黒い渦があった。そこへ、黒狼が逃げるように入っていく。


「行かせません!《ソニックフリーズ》!」


「逃げん、なああああ!!!」


 スカイが槍を振りかざすと、氷が瞬時に生成され、銃弾の様に音速で飛ばされる。

 逃げる黒狼達の内、半数の足に氷が命中し、瞬時に打ち込んだ箇所を凍らせると、恭子は光の玉を追撃で食らわせ、消し飛ばしていく。


 しかし、残りの残党には避けられてしまい、間もなく黒い渦は黒狼達と共にとなって消えていった。


「ッ、逃がしました!」


「逃げ足が早えなっ! おい、アンタ等大丈夫か!」


「ありがとう、助かった。けれど……皆怪我しちまってて……。おまけに……ッ」


 破壊され尽くされた家と荒れた畑が広がる村内を見渡す。


 恭子は、荒れる前のこの村がどんな場所だったが分からなかったが、ふと自身の故郷を思い出して、拳を強く握りしめる。


「……ッ」


「怪我人は残り僅かですが、妖精の雫で治療を行ってください」


「ありがとう、スカイ様」「こんな貴重なものを……有り難うございます……」


 恭子は、その光景に目を背けるように空を見上げると、光が上がっていた。


 緑色の光だ。


「なあ、スカイ。あれは……」


「……!!! ッ!!!」


 スカイは、形相を変えるや否や羽の周りをバチバチと音を鳴らし、一瞬にして姿を消した。


「お、おい?! スカイ! アイツ、急にどうしたんだよ。……ん? この青色の軌道線は……」


 青色をした光の線が、奥の洞窟に走っている。


「これって、スカイのか? ……ヤバイってことか、あいつ等」


 再び恭子は、拳を作りなおす。


「……急ぐか」


 恭子は、スカイが残した風の魔法を使い、その青い光の線に沿って走り出した。

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