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第7話 間違い

リゼルの足が再び崖に差し掛かった。まっすぐ前しか見えていないのだから、呆れたものだ。


「なんでそんなに前が見えてないんだ? ありえないだろう」


回り込みリーゼの後ろに来たオスローは息を切らしながらそう言う。そして彼は今にもその場から落ちそうなリーゼの腕をつかんだ。


「ちょっと、何するのよってきゃっ!」


「おい、ちょっ、まて!」


せっかく助けたのに、リーゼはそのまま転落する。もちろんオスローも一緒に。


「馬鹿なのか!? もっと周りをよく見ろ!」


「知らないわよ! そんなことできないもの!」


言い合う二人。少ししてから、リゼルは何かに気が付いたように口を覆った。オスローの頭の上にははてなマークが浮かんでいる。


「どうした?」


「ちょ……あ、あの……」


顔が赤いから熱でもあるのだろうか。だが彼女の顔は赤みを帯びていくばかり。あまりにも気が付いてくれないので限界が来たのか、リゼルは叫んだ。


「わっ、私の上から降りてくれないかしら!? この体勢、恥ずかしいのよ!」


そう、さっき崖から落ちた時に咄嗟に守ったせいでリゼルはオスローに抱きしめられるような体勢だったのだが、さらに”馬鹿なのか”のところでオスローが地面を叩くために少し起き上がったせいでリゼルがオスローに押し倒されているかのような形になってしまったのである。


「こんなことにも気が付かないだなんて、あなたも馬鹿じゃないのよ!」


「何を言う!」


結局どっちも馬鹿なのでは……というのは言わないでおこう。ずっとその一部始終を遠くの方で眺めていたリアは、おもむろに立ち上がると二人の方に近づいた。


「仲いいのねえ。もしかしてその……私お邪魔だったかしら……? 恋人同士の時間がよかった……?」


あまりにも仲良さそうに見えるので恋人同士だと勘違いしたらしい。慌ててリゼルは訂正を入れる。


「ぜんっぜん邪魔じゃないのよ。何が悲しくてこんな人と付き合わなくちゃいけないのよ」


「何だその言い方は」


オスローは不服そうだが彼女はそんなこと気にもかけていないようだ。彼女の言葉を聞いたリアは安心したように息をついた。


「どこまで言ってたのかは聞かないけれど、おなかすいたでしょう? ご飯食べましょう?」


リゼルが遠くまで行っていたことはばれていたらしい。



「リーゼちゃんどこに行ってたの? 詳しく教えてくれないかしら」


「えっとね」


特に怒ることもなく聞いたリアにリゼルは少し胸をなでおろす。


「うさぎとかくまがいたのよ!」


「あら? この森にはいたちとかきつねが多いはずなんだけど……うさぎやくまもいるのね、珍しい」


リゼルが勘違いしているだけでもちろんうさぎもくまもいない。いるかもしれないが、リゼルが会ったのはいたちときつねである。


「私も見てみたくなっちゃった。まだいるかしら? 連れて行ってくれる?」


「もちろん!」


嬉々として歩き出した二人にオスローは渋々立ち上がった。


「見間違いだと思うのだがな……」



「ねえどこー?」


「えーっとねえ……」


先程の森に戻ってきたリゼル。今度は一人ではなく三人である。木の陰に隠れていた何かが、突然動いた。


「あ、いた……」


「え、どこどこ!?」


彼女が指したのは茶色っぽいふわふわの動物。彼女がうさぎだと思っているいたちである。


「……あれはいたちではないのか?」


「え!? そうなの!?」


信じられないと言った様子でいたちと見つめ合うリゼル。あらあら、とリアも苦笑している。また、何かが横切った。


「ふあ!? くま!?」


「……あれはきつねだぞ」


「はあ? なんでよ!」


全く納得できていないであろうリゼル。もう少し勉強しなさい。

笑ていたリアが顔を上げた。彼女はリゼルの頭を撫でる。


「こんなこと間違えるだなんて、本当に可愛いのねえ」


「もう、子ども扱いしないでよ~!」


そうはいってもリアから見れば彼女はまだまだ子供なので仕方がない。


「本当に、見ていて飽きないな」


ははは、とそばで見ていたオスローが笑う。それを見ていたリゼルの心臓は小さく音を立て始めた。


「……どうして……どうしてそんなに表情を変えるの……? 変わるたびに心臓の音が鳴りやまなくなるわ……」


「どうした?」


「何でもないわ!」


今の言葉をごまかすように彼女は大きな声で叫ぶ。


「なんでも、ないわよ……ばか……」



「さあ、帰りましょうか。夜ご飯も食べていく? それとも忙しい?」


「いや、寄らせてもおう」


日が暮れてあたりがだんだんと薄暗くなってきた。三人は並んで森の斜面を降り始める。


「あら、可愛い。りすちゃんだわ」


「ほんとだ!」


木の上で可愛らしく木の実を食べているりすを見て二人がはしゃぐ。


「それは間違わぬのだな」


「失礼ね!」


この二人は相変わらず仲がいいのか悪いのか分からない……

言い合っている間ずっとりすを眺めていたリアは振り向いてリゼルをじっと見つめた。


「あのね、わたしりす飼いたいな。ねこも」


「お母さんそれは一緒に飼っちゃいけないんじゃないかしら?」


りすとねこ、一緒に飼えば当然ねこにりすが食べられるだろう。だがリアはどうしてもりすとねこが飼いたいらしい。


必死にお願いしてくるリアを見てリゼルはついに折れた。


「りすはちっちゃいから鳥籠か何かに入れておかなきゃだし大丈夫よね。今度また見に来よう!」


どっちが子供なのだろうか……

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