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第3話 お母さんの仕事

「リーゼちゃんリーゼちゃん?」


家の外で洗濯をしていたリゼルにリアが声をかけた。呼ばれたリゼルが振り返る。


「お母さん、どうしたの?」


「洗濯終わったかしら?」


「あとちょっと!」


それを聞いてリアは嬉しそうな顔をした。


「ありがとう。終わったらね、一緒についてきてくれないかしら」


「もちろん!」


何かあるのかな、と考えながらリゼルは上機嫌で洗濯に戻る。リゼルはリアのことが大好きだから、なんであろうと一緒にいられるとなればうれしいのである。残り少なくなった洗濯物を干して彼女は家に入る。


「終わったけどなにするの?」


不思議そうに彼女はリアに聞いた。リアが優しいほほえみを見せる。


「いつも私がお仕事でしてることをね、リーゼちゃんも一緒にできたらいいなって」


リゼルの顔がぱっと輝いた。一緒にできたら。そんなに嬉しいことはない。


「だからね、必要なものを買いに行きましょう?せっかくだし何かお菓子も買ってきましょうか」


「うん!」


王都の専門店の並ぶところにやってきた二人。奥のほうの貴族街の近くには豪華なドレスの店やレストランが立ち並んでいる。リアは手前のほうにある布や糸を売っている店のドアを開けた。


「ふふふ、リーゼちゃんが使いやすそうなのはどれかしらねえ」


楽しそうに道具を選ぶリアにリゼルは笑った。

リアの今の仕事は、機織りである。彼女の作る布は貴族にも売れるほどのものだ。実際多くの令嬢たちがリアの織った布で作られたドレスを買いに来るらしい。


「リーゼちゃんはたぶん初めてだと思うから、これのほうがいいかしら」


リゼルはそんな腕前を持つリアに機織りを習うことができると知ってずっと店内を歩き回っている。


「リーゼちゃん、聞いてる?」


「え、あ、はい!」


リアはリーゼに道具を手渡した。


「帰って一緒にやりましょうね」



家に帰った二人。部屋に優しいリアの声が響く。おっとりしていて耳障りの良い声はまるで天使の声のようだ。


「ここをこうしてね、こうするの。わかるかしら?」


「うん! お母さんすごいね。ドレスの布のつくり、こんなに知ってるんだ…… ……私のもこんな……ふうに……」


ぼそっとリゼルは呟いた。自分がちょっと前まで来ていたドレスはこんな風に作られていたのか。あの重苦しいドレスも、リアが織った布で作られていたらよかったに。そう考えながら彼女は手を動かし続ける。もちろん彼女が着ていたのは王室お抱えの職人たちが作った国内最高級品。たとえリアの存在を前から知っていたとしても使うことなどできないのだが。


「ねえお母さんは」


唐突にリゼルがリアに言った。


「この仕事が好き?」


リアはほんの少し目を見開き、そして考え込む。やがてにっこりと微笑みながら答えた。


「好きよ。だってまだ……えっとなんだろう、貴族の方にも街のみんなにも喜んでもらえるんだもの。そういうのって素敵だわ」


それは、天使と見紛うほどの優しい微笑み。



「リーゼちゃん、おはよう!」


「お花屋のお姉さん! おはようございます!」


行きかう人にあいさつをしながら彼女は目当ての店に向かう。朝一番で賑やかな市場に来た彼女は、リアから頼まれた食材をかごに詰めて上機嫌で歩いていた。

と、そこでふいに手元が軽くなる。


「っ! って、あなたは……!」


「今日の荷物も重そうだな。驚いたか?」


黒い長髪。真っ青な瞳。


「オスロー……」


また会ったなと言わんばかりに、平民にしては高圧的な微笑みで。そこにいたのは昨日出合ったばかりの近衛騎士オスローだった。


「昨日来たばかりでしょ。暇なの!?」


信じられないと言ったように叫ぶリゼル。近衛騎士は国王を守らなければならないので、こんなに暇があるはずがないのである。だが彼は特にそんなことを気にせず言った。


「ああ、暇だ」


「本気なの!?」


この人大丈夫なの!? リゼルは王宮にいた時のことを思い出す。そう、近衛騎士とは。常に国王のために動き、そして私たち王妃や王子、王女を支えてくれる頼れる存在。いつ呼んでも必ず来てくれて、毎日真面目に王宮に来てからずっと私たちをあらゆる方面から補佐してくれる人たち。彼女の中ではこういうイメージである。というか実際そうだった。もう一度彼女は疑わしそうに彼を見上げる。


「本気で言ってるの……?」


「ふむ。半分本気だ」


「半分!? もう半分は何なのよ!」


それは本当に知りたいところである。彼は笑いながら答えた。と言っても威圧的な薄笑いだが。


「また来ると約束した。来て何が悪い」


確かに言ってましたけど! 心の中で彼女は叫ぶ。


「別にその“また”は次の日じゃなくてもいいのよ!」


「次の日でなくてもよいのなら次の日でもいいだろう」


心底不思議そうな顔で彼は彼女に言った。



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