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第22話 私がいないと

「いただきまーす!」


広いテーブルを囲んで、卵のスープだけの簡単な朝食をとる。五人も一緒にいるのだから、いつもと比べてとても大人数だ。


「んん、美味しいわ!」


「卵のふわふわ加減が絶妙ですわ。わたくし、毎日食べたくなってしまってよ?」


商家の娘でかなりいい家の出なのに、それほど気に入ったということだろうか。確かに王女の自分からしても絶品なのだから、とリゼルは思った。帰るつもりはないけれど、城の料理長に教えてやりたいほどだ。まあどうせあそこに居れば自分の食べる料理はほとんど冷めているからそこまでではなくなってしまうだろうけど。


「あ、あの、」


少し小さめの器でスープを飲んでいたアディリィが話しかけた。リゼルたち三人が彼女の顔を見る。


「とってもおいしいです、帰ってからも作ってみますね」


それはつまり、


「あなたが食事を作っているの?」


疑問を率直に口に出して、それからリゼルは慌てて口をつぐんだ。変なことを聞けば嫌な思いをさせてしまうかもしれない。そんな彼女を見てアディリィは大丈夫です、と笑った。


「ちゃんと料理を作る方がいます。でももしかしたら、お母様もおいしいお料理を食べたら機嫌が直るかもしれないですから。心が落ち着くかなって」


「素敵ね、アディリィちゃん」


あんな目に合っているのに、文句ひとつ言わず、それでも母親のことを考え続けるアディリィを、どうして放っておけるだろう。そう思ってリゼルは彼女をぎゅっと抱きしめた。


「あなたとってもらいわ、ねえ?」


褒めて褒めて甘やかしたい。妹がいたらこんな風なのだろうか? そんな考えがリゼルの脳裏によぎる。どうせもう兄弟は出来ないだろうけれど。リゼルの実の母親はもう子供は産めないだろうし、リアはそもそも独身だ。王家の後継ぎがいない、なんて状況なら愛妾でもなんでも迎えて弟ができただろうけれど、あいにくフォルカ王国の世継ぎはしっかり決まっている。考えれば考えるほど、自分はあの王家にいらない。


「えらいだなんて、」


頭を撫でていたら、アディリィは少し遠い眼をした。


「お母様は私がいないとだめだから」



「うーん、やっぱりわたくし、ここの空気は大好きですわ!」


海岸沿いを歩きながら深呼吸して、ニノンが顔を輝かせる。


「王都の雰囲気も大好きだけれど、ここは自然を感じられて安心するわ。緑は癒しね」


王宮の人工的な風景を見て育ったリゼルにとって、王都という存在はかなり物珍しかったが、ここはそれ以上だ。なにせ森も海もすぐそこにある。もしここがセルゼデート王国ではなくフォルカ王国であれば、間違いなくここに離宮を建てただろう。残念ながらフォルカ王国は遠いが。


「朝食を軽くしたからなにかお店にもいけるわよ。リーゼちゃん、二ノンちゃん、どこか行きたいところはある?」


「わたくし、もう少し向こうにあった宝飾品の店に行きたいですわ。海が近いおかげで貝殻を使った飾りも置いていますの」


それは名案だ、とリゼルはオスローのほうを向いた。


「それでいいかしら、オスロー」


「ああ、好きにするといい」


やっと喋ったなこいつ。まあ彼の統治している街だから、目新しいものがなくてはしゃいでいる四人を眺めるのが一番楽しいのだろう。ちょうどいい感じに変な連中も絡んでこないし――というか彼が統治しているところなので滅多にそういった連中にはお目にかかれないが、意外と役に立っている。喋りはしないけど。


「あなたも話に入りなさいよ、せっかく私たちはアディリィと仲良くなれているのに、このままだとあなたの印象はなんだかずっといたけどよくわからない男の人よ」


「だが話題の振り方などわからん」


「何でもいいから話しかけて見なさいよ」


職業は騎士様なのに度胸がないのね、と言われてしまえば仕方がない。彼は渋々自分よりずいぶん小さな少女と向き合った。


「あ、あの、ちゃんと覚えていますから大丈夫ですよ……?」


おおっと、何歳も年下の少女に気遣われている。


「……つかまれ」


オスローはいきなりそう手を差し出すと、何も分からず手を重ねたアディリィを軽々片手で持ち上げた。


「わ、」


ふわり風が吹く。低かった視点が一気に高くなった。まるで自分が大きくなったみたいだ。


「この方が周りも見やすいだろう」


「それ小さい子にいきなりやるものじゃないと思うわ」


リゼルは少々呆れているが、アディリィは喜んでいるので良しとしよう。


「みなさんとおんなじ背になった気分です! たくさん見える……」


その美しいエメラルドがきらきらと光る。


「ありがとうございます、オスローおにいさ……」


そこまで言いかけて、彼女ははっと言葉を止めた。


「ご、ごめんなさい、勝手に……」


「いや、気にするな」


「でも……」


血がつながっているわけでもないのに、自分は何を。でもこの四人と一緒にいると本当に家族になったように思えて、思わず言ってしまったのだ。オスローのような兄がいれば。不愛想だけれど、本当は優しいかもしれない。リーゼのような姉がいれば。毎日抱きしめてもらえるかもしれない。ニノンのような姉がいれば? 素敵な服を選んでもらえるかも。


――リアのような母親がいれば。きっと想像するのは簡単なのに、それだけは、それだけはアディリィには想像する勇気がなかった。きっとそれを夢に見てしまえば、囚われて抜け出せなくなってしまうだろうから。

なんか重くなった。さすが情緒ジェットコースター小説。

次の更新予定日は一月十七日です!

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