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おいでませ天界。つかあまりにも現世に似過ぎじゃね?

前回の最後でやっと死んだ真彦。

てかタイトルに「臨死体験」ってついてるんだからそろそろこの話完結しないといけないんじゃないですかね?

なのに、話のネタだけはいつまでも湧いてきて困っています。

俺の頭の紐が完全に切れたのを見届けると、ミルクはこう言った。


「さあ、真彦さん。そろそろ現世とのお別れの時間です」


「そうらしいな。未練はない。さあ、天界とやらに連れて行ってくれ」


 はい、とミルクは俺の言葉に頷き、全く特別なことでも何でもないように、すっと手を差し出してきた。

 その手を何の気なくとり、手を繋ぐ俺たち。


 あれ?

 俺、もしかして女の子と手を繋いだの小学校の頃にやったフォークダンスの時以来じゃね?

 なんだかすごくハッピーな気持ち。

 このまま天国へ行ってしまいたいような……。


 あ、そうだった。

 これから天国へ行くんだった俺。


 さておき、ミルクは腰の小さなコウモリの羽根をパタパタさせながら空へ昇って行った。


「ああ、周りの時間を動かすのを忘れてました。えいっ」


 ミルクは俺と繋いでいない方の手で持った鎌を振りかぶる。

 すると、あたりが急に騒がしくなり、人の声が聞こえるようになってきた。


「おい! 人が轢かれたぞ!」

「きゃーっ!」


 まあ、別に轢かれた本人が今こんなに幸せな気持ちでいるのだから、見ている周りの連中がどんな印象を抱こうが知ったことではない。

 ただ、親を置いて死ぬのだけは、ほんの少し、後悔がある。

 とはいえ、本来よりは四年も長生きして、学費も一部とはいえ返したのだ。孫の顔どころか嫁の顔も見せてやれなかったが、せいぜい息子の冥福を祈っていてくれ。


 ミルクが浮かび上がっていくにつれて、俺の体も少しづつ天へ昇っていく。


 冥福、か。

 あまり好きな言葉ではなかったが、今の俺はまさしく冥福の真っ只中にいるのだろう。

 死んでから使うのも変な感じだが、俺は今生まれてきてから一番幸せな時間を過ごしている。

 手から伝わってくるミルクの感触。確かなぬくもり。


 見上げると、ミルクがこっちを向いて微笑んできた。


 ああ、幸せだなぁ。

 俺って世界中で死んだ人間の中で一番幸せな男なんじゃね?


 そんなことを思いながら天へ昇っているとある時突然、


 バキィィィン!


 と、何かが割れるような、砕けるような音が聞こえて、下を見ても下界の様子が見えなくなった。

 つまり、これで本格的に天界に入ったということなのだろう。


「真彦さん、天界に入りましたよ。ようこそ、わたしたちの世界に」


「ああ、これからもよろしくな」と、ミルクに返そうとして、俺は戸惑ってしまった。果たしてミルクは死神をしながら、俺との付き合いを続けてくれるのだろうか?


 そもそも天界に男女が付き合うって概念はあるのか?

 性欲がないのだから、当然のごとく死者同士で子供は作れないのだろう。

 しかし、結婚は?

 死者同士の男女で夫婦になったりするのだろうか? それができてしまうと死に別れた夫婦とかの間でとんでもなくめんどくさいことが起こりそうだ。


 ま、少なくとも俺とミルクはまだ始まったばかりなのだ。

 これからのことは、これから話そう。


 だって、俺たちには無限の時間があるのだから――


「真彦さん、まずはきちんと死者リストに登録してもらいに行きましょうね」


 不意にミルクがまた、訳の分からないことを言った。

 そして、別に雲の上でもなんでもない、現世のどこにでもあるような高いビルの前に俺たちは降り立った。

 どこだここは?

 まるで現世と変わらないじゃあないか。

 道路があって、歩道があって、建物があって。強いて違うところを上げるとすれば車が走っていないことくらいか。


「死者リスト? そんなものに登録する必要があるのか?」


「はい、普通死神に連れて来られた死者は死神庁で受付をして、それから正式に死者リストに載って、どこで暮らすかとかを決めるんですけど。真彦さんって特別みたいで」


「特別? どう特別なんだ?」


「なんか真彦さんは天使庁で受付らしいです。なんたってわたしたち、今天使長の呼び出しを受けてますから。移動がめんどくさいので受付も天使庁がやるそうです」

 

 待て。

 待て待て待て。


 ミルクは今何と言った?


「天使長から呼び出し……?」


「はい、怖い人じゃないから、大丈夫ですよ」


 この様子だと、ミルクはその天使長とやらにも会ったことがあるらしい。


 なんだか、天界って随分アバウトなんだな。

 移動がめんどくさいから本来死神庁でやる受付を天使庁でやるとか。

「とにかく、ここが天使庁ビルです」


 そう言って、ミルクは自分たちが降り立った地面から生えるように立っている鉄筋コンクリート製にしか見えないビルを見上げた。


「早く行きましょう。面倒な手続きなんてさっさと終わらせるに限りますよ」


「待てミルク。そんな住民票移すみたいなノリで天使の総本山に入ろうとされても」


 そもそも、俺は天使というものにいいイメージを持っていない。

 今日、俺の魂を抜き取って、ミルクと引き離そうとしたのが他でもない天使のララファだったではないか。


 とはいえ、ミルクは俺の手を放していないままなので、天使庁とやらの中まで引っ張っていかれる。


 すると、一階に「新規死者受付窓口」なんていうそのまんまな窓口があるではないか。

 ミルクはそこへ向かい、受付の白いフォーマルスーツみたいな服装のお姉さんと二言三言交わすと、


「はい、死者受付終わりましたよ。あとは天使長に謁見するだけですね」


 終わったとかなんとかのたまう。


「天使長は最上階にいらっしゃるので、エレベータで行きましょう」


 え、エレベータ?

 天界の天使の事務所的なところの移動手段が雲の船とかではなく、エレベータなのか?


 ミルクに振り回されまくりながらも、エレベータに辿り着き、二人で乗り込んだ。

 幸い、俺たち以外に利用者はいなかったので、ようやく、落ち着いてミルクと話ができるようになる。


「なあ、ミルク。いい加減説明してくれ。なんで俺は天使の建物なんかに連れて来られてるんだ。なんで天界の様子はこんなに現世にそっくりなんだ。そもそも天使長と謁見ってなんでだ」

「えーと、できれば質問は一つづつにしてほしいんですけど、他ならぬ真彦さんのお願いです。できる範囲でお答えしますね」


 ミルクは鎌を持った手で、人差し指をちょこんと顎に当て、可愛らしい仕草をする。


「まず、一つ目、なぜ天使の建物に真彦さんが連れて来られたかは、単純に死神庁に連れて行っても、あとでまた天使庁に来ないと行けなかったので、時間節約のためです」


「ああ、それはさっきそんなこと言ってたな」


「次の、なんで天界が現世にそっくりな理由は、その方が死者が生活しやすいからです。真彦さんだって、いきなり勝手が違う場所に連れて来られても混乱しますでしょ?」


「今でも充分混乱してるんだが……」


「最後の質問ですが、それは、わたしにもわかりません!」


 最後だけ、やたら自信満々にミルクは無い胸を張ってきっぱりと答えた。


「きっと、お会いしたとき天使長から直々に説明があるんじゃないんでしょうか?」


 相変わらずミルクは華奢で俺好みの体型をしているなあ。

 まるでゲームやアニメに出てくる貧乳小柄キャラの様だ。


 などと、俺は現実逃避しながらエレベータで運ばれ、ミルクの受け答えを聞いていると、


 ちーん


 と鳴って、最上階に着いたことが分かった。


「さ、着きましたよ。一応、失礼がないようにお願いしますね。さっきも言いましたけど、怖い人ではありませんから」


 エレベータのドアが開いた先にあったのはたった一室への扉のみ。


『天使庁 天使長執務室』

 と、書かれた金色の豪奢な扉だった。

 ミルクは怖い人ではないと言っていたが、ララファがさらにパワーアップしたようなキャラが出てきたらどうしようとビビってしまう。


 そんな俺の危惧を他所に、ミルクは遠慮なく、コンコンとドアをノックした。


「開いてますわ。どうぞ入ってくださいな」


「では失礼します」


 物怖じせず、相変わらず、俺の手を握ったまま、ミルクは天使長とやらの部屋に入っていく。


 そこには。

 そこには、俺がすでに視神経も死んでいるくせに目を疑う光景が、あった。


 なんと、半裸の、とんでもなくセクシーなお姉さんが、そこにはいたのだ。


作中で真彦が言ってますが、「冥福」って言葉、私は嫌いです。

こんな小説を書いておきながら死後の世界否定派の思想の持ち主なのです。

だから、そういう場では「お悔やみを申し上げます」という台詞を使います。


ブクマ、評価など頂けたら嬉しいです。書く気が湧きます。

みなさま、どうかよろしくお願いいたします。

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