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図書館は夢の様な場所。ましてそれがデート先なら

さて、楽しい図書館デート。

ちなみに私は経験がありません。

 俺はあんぐりと天使庁の駅から中央エレベータとやらを見上げた。


 ここが天国なわけだが、この中央エレベータが天国に繋がってます、といわれても納得できそうな高さに見える。


「真彦さん、まずは中央エレベータ駅まで列車ですよ。数分ですから早く行きましょう?

って、聞いてます、真彦さん?」

「なあ、ミルク、天界図書館とやらまでにはどれくらいの高さまで上ればいいんだ?」

「現世で例えると地球と月よりも離れてますよ。大丈夫です。エレベータとは言ってもほぼワープ装置ですから、駅まで行ってしまえばすぐです。今が混んでなければいいんですけど」

 

 ミルクがこともなげに地球と月より離れているとか突拍子もないことを言い出す。

 天界人にとってはこれが普通の感覚なのだろうが、昨日死んだばかりの俺にはスケールが違いすぎて、正直、訳が分からない。


 訳が分からないまま、ミルクに促されて俺は中央エレベータ行きの列車に乗った。

 そして、天界に来て、初めての混雑というものを目撃し、しばらく待った後、中央エレベータとやらに乗り込んだ。


 エレベータに乗ったら、天界図書館までは本当にすぐだった。

 周りの人の波に押し流されてミルクとはぐれないように気をつけながら、俺は天界図書館の入り口前に辿り着いた。


 ここが天界図書館。

 見た目は普通の図書館然としていたが、大きさがまるで違う。天界で見たどの建物よりも大きかった。

 何階建てなのか、そんなことが気にならないほど奥に広く、入ったら即迷子になりそうだ。


「あ、そうだ、真彦さん。天界図書館ではスーツにエプロンをつけている人が司書ですから、迷ったら声をかけてください。迷子の呼び出しもしてくれますよ。

彼らはこの図書館で人の役に立って『徳』を積むのが仕事ですから遠慮なんてしないでください」


『徳』を積む、というのが次の転生で有利になることだというのはなんとなく分かっていたので、俺はおとなしくミルクのアドバイスに頷いた。


「そうだ、入ったらまず真彦さんのひいおじいさんを呼び出してみましょうか。お名前はなんていうんですか?」

「えーと、何だったかな……? すまない、思い出すまで少し時間をくれ」


 そんな話をしながら俺たちは連れ立って天界図書館の扉をくぐった。

 中はすさまじいほどに人だらけで、しかも様々な人種の人が一堂に会している。

 ひいじいさんの名前を父親から聞いた記憶を掘り出しながらも俺は天界図書館の混雑ぷりに圧倒された。


 どうやら死者のほとんどはここで暇をつぶしているというのは本当らしい。

 天使庁があったビル街などにも中には人がいたのだろうが、彼らは何をして過ごしているのだろう。


 ふと、そんなことを考えていると、ひいじいさんの名前に心当たりが浮かんだ。

 そういえば小学生くらいの頃、父親から聞かされた気がする。


「ミルク、司書さんに話しかけよう。俺のひいじいさんの名前は勝彦だ。近場勝彦。多分間違いない」

「分かりました。全館放送で呼んでもらいますね」


 俺はミルクにそういうと周りを見渡した。図書館の利用客も当然多いのだが、それ以上に普通の図書館に比べて司書というか、職員らしき人の数も多い。

 ミルクは「スーツにエプロン」と言ったが、職員は皆それぞれ自分なりのエプロンをつけていて、それでいて中の服装はスーツで統一されているので探すのに手間は掛からなかった。


「日本で死なれた近場勝彦さーん。近場勝彦さん、ひ孫の真彦さんがお探しです。いらっしゃいましたらエントランスホールまでお越しくださーい」


 呼び出しを頼むとすぐにそんな全館放送がなされた。

 待たされること数分。すぐに数冊の文庫本を脇に抱えた初老の男性が俺とミルクの元へやってきた。


「なんだ、本がいいところだったのに。なに? 死んだのは息子でも孫でもなくひ孫だと?

 なんでそんな若くしてひ孫が死んでるんだ」


 文庫本を小脇に抱えた人物は職員に案内されながらもこっちに向かいつつ、ぶつくさと文句をたれていた。

 別に俺だってこんなに若くして死にたくて死んだわけじゃない。死んで今、幸せなのは事実だが、死ぬ時期についてそんなにごちゃごちゃ言わないでほしい。


「まあいい、俺は本を読むのを邪魔されなければ何でもいいからな。なに? 部屋を使ってる? 本さえ処分しなければ好きにすればいい。帰ってもどうせ借りた本を読むだけだ」


 わかっちゃいたが、ひいじいさんは本当に本以外はどうでもいいという人間らしい。死んでからこうなったのか、死ぬ前からこうだったのかは知らないが。


「ああ、一応言っておくぞ。ご愁傷様、これからも元気で死ねよ。それじゃあな」

「あ、ああ、ひいじいさんも元気でな……」


 元気で死ねよ、というとんでもない挨拶を聞いて俺は呆然としてしまった。

 だが、悪い気はしなかった。


 それにこれからミルクに図書館を案内してもらうのだ。

 図書館デート♪ なんと甘美な響きだろうか。


「ミルク、ありがとう。なんとかひいじいさんにも挨拶できた」

「じゃあ、図書館内を案内しますね。まずは日本の漫画コーナーから行きましょう」

「何故俺が日本の漫画コーナーに行きたいと分かった?」

「大体分かりますよ、それくらい。わたしもよく行きますし」


 ちなみに蔵書の数は「無限」らしく、誰かが借りたからといって物理的に図書館からなくなったりしないらしい。

 この理屈をミルクに尋ねると、「ネットで誰かがあるページを見ていても他の人が見れなくなるわけじゃないでしょう?」とのこと。どうやら、天界では情報は情報として処理され、物理的な制約からは解放されているらしい。

 つまり、漫画も読みたいだけ家、ひいじいさんの家だが、に持ち帰って好き放題読めるわけだ。素晴らしい。いと素晴らしきかな天界図書館。

 ただし、勿論ながら完結していない漫画や小説の続きを読んだりはできず、現世で続きが公開されると白紙にじわじわと浮かび上がってくるらしい。


「真彦さん、漫画やラノベばっかり読みたいのなら、PCコーナーに行くほうがオススメですよ。アニメも見れますし」


 何故この死神は次から次へと俺の要望を言い当てるんだ。

 なんでもかんでも当てられる前に、ついでに訊いてやった。


「PCそのものを借りたりはできないのか?」

「図書館のPCは持ち出し禁止です。個人所有したければ『徳』を使って買う必要がありますね」


 なるほど。さすがにそううまい話はないか。

 そもそも漫画やラノベが何でも読めてアニメが見放題のPCを無限に貸し出していたら、少なくとも日本人は部屋から一歩も出ない奴だらけになるだろう。

 何を隠そう、俺自身がそうなる自信がある。

 彼女でもいて、楽しくデートできるリア充ならともかく……


 ちょっと待て。俺は今デート中ではなかったか?


「な、なあミルク。ミルクの休みは例えば週一回この曜日とかって決まってるのか?」

「はい、わたしは土曜日が安息日です」

 

ということは、今日は確か土曜日なハズなので、俺はミルクの貴重な安息日にデートに連れ出して付き合わせているわけだ。

 これは深く感謝せねば。


 ん?

 そもそも、俺とミルクの関係って何だ?

 少なくともまだ彼氏と彼女ではないだろう。

 魂を抜き取った死神と、その抜き取られた相手、それ以上ではないはずだ。


 マズイ。

 これは早急に何とかせねば。


 漫画やラノベで暇をつぶすことに現を抜かしている場合ではない。

 死んでいるのに現を抜かすというのもおかしな表現かもしれないが。


 とはいえ。

 ミルクと二人で図書館を周るのは非常に楽しく、あっという間に時間は過ぎた。


 PCコーナーに行き、二人でお互いに好きな漫画を紹介しあった。

 意外にもミルクはアメコミヒーロー物が好きらしく、割と男らしい趣味をしているんだということも知った。

 今、日本では転生物が流行っているという話をしたら、何に転生するのかも分からないのに安易に転生するのは怖い、といかにも死者らしい意見をくれた。

 

 俺が少女漫画も読むという話をしたらミルクは大層驚いていた。

 いや、単にキャラがかわいいという理由だったのだが、やはりこのあたりは国境の違いだろうか。

 

 ゲームコーナーへ行き、対戦ものの格闘ゲームで遊んだ。

 ミルクは思ったよりずっとゲームをやり慣れていて、安息日にはよく自室で遊んでいるのだという。

 そういえばニンテン○ース○ッチを持っているとか何とか言っていたか。


 図書館デートというよりネカフェでの過ごし方みたいになってきたので、ミルクが死神になるために勉強したという本も少し見せてもらった。

 中身は割と常識的なことが羅列してあるように俺には思えた。

 やれ、死神は死者に無礼な態度は取ってはいけないだの。

 死ぬ予定にない人間の魂は刈り取れないから余計なことはするなだの。


 そんな事をしている間にミルクの安息日もそろそろ終わりを迎え、後は帰るだけになった。

 明日もここに来ようと決めていた俺は片手で持てる程度の漫画本だけを借り(手提げ袋は図書館の職員が貸してくれた)、ミルクと一緒に図書館を出た。


「楽しかったですね~」


 ドアをくぐってすぐ、ミルクがそんな事を言う。


 楽しかった?


 違う。

 いや、そうなんだが、そうじゃない。これからもずっと楽しいんだ。


 中央エレベータで天使庁近くまで降り、そこから徒歩で俺はひいじいさんの家まで歩きながら、ずっとミルクが別れを切り出すのを恐れていた。

 そして、ついにその瞬間が来てしまった。


「真彦さん、今日は一緒に過ごせてよかったです」

「……ミルク」

「できたら、また……」

「ミルク!」


 俺は、思わず、声を大きくしてミルクの名を呼んだ。


「な、なんですか?」


「ミルク……、好きだ」


 気がついたときには俺の口は、そんな言葉を紡いでいた。


ついに告りました、真彦くん。

ミルクの返答やいかに。


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