番外編 龍神とお花見
俺はある日、嵐月にお花見に行こうと誘った。
最初は野郎と行く趣味はないと言っていた嵐月だが。俺が女性同伴でもOKと言うとだったらと首を縦に頷いたのだった。
その後、俺は夕凪を誘ってみた。嵐月は婚約者だという紅蘭さんと蒼月さんを誘ったらしい。だが蒼月さんは自分だけだと格好がつかないからと言う事で婚約者の結藍さんを誘ったと聞いた。これでメンバーは六名となった--。
「……う-ん。良いお天気ねえ」
「そうだな。桜が見頃だといいな」
「本当にね。今日はまだ三月だけど。東京ではもう桜が開花したって聞いたわ」
夕凪とのんびり世間話をしながら歩く。俺の手には刀と大きめのトートバッグがある。トートバッグの中にはピクニックシートと人数分の飲み物、お弁当が入っていた。お菓子類は夕凪が持ってくれていた。他のメンバーもとい、龍神様達は龍型で空から風景を眺めているようだった。いいよなあと思いながらてくてくと歩く。何せ、飲み物とお弁当があるから重い。夕凪もそれがわかっているからゆっくりと歩いて合わせてくれていた。
そうして三十分もすると目的の公園に着いた。俺はトートバッグを芝生の上に置くと中からピクニックシートを取り出す。それを敷くと夕凪と俺は座った。龍神様達も気づいたのか地上に降りて人型になる。この公園には人の姿がない。それも当然だった。数日前に俺と夕凪、嵐月で視覚阻害の結界を張っておいたからだ。
「ふう。やっと着いたな。夕凪ちゃん。オレンジジュースとサイダーと。コーヒーがあるけど。なんか飲む?」
「うん。じゃあ、オレンジジュースをお願い。喉が渇いてるの」
「わかった。ちょっと待ってろよ」
俺はトートバッグからオレンジジュースのペットボトルを取り出した。蓋を開けて紙コップも出してからその中に注いだ。夕凪に手渡す。
「……ありがとう」
「ん。俺もサイダーを飲もうかな」
もう一つの紙コップを取り出してサイダーのペットボトルの蓋を開けた。プシッと音がする。シュワワと音を立てつつも紙コップに注ぐ。もう一度、オレンジジュースとサイダーのペットボトルの蓋を閉めてから飲んだ。シュワっと爽快感が口から鼻へ突き抜ける。うまい。そう思いながら喉を潤した。
「……雄介。私達は向こうで花見をしてくる。夕凪さんとお弁当でも食べて楽しんだらいい」
「うん。わかった。嵐月、蒼月さんと一緒に紅蘭さんと結藍さんを守れよ」
「お前もな。じゃあ、行ってくる」
おうと言うと藍月は他の龍神様達と一緒に向こうの桜が咲いている一画に行ってしまった。四名で楽しむらしい。俺はトートバッグから今度はお弁当を出した。夕凪の分を手渡す。
「ありがとう。何から何までごめん」
「いいって。俺がやりたいからやってるんだし。それよりお弁当食べたらデザートでお団子と緑茶でもつまみながらお花見しようぜ」
「……ふふっ。そうだね。のんびり今日はお花見を楽しもうかな」
頷くと夕凪は俺の母さんお手製のお弁当の包みを解く。蓋を開けてお箸を使った。中にはおかか入りのおにぎりや焼き鮭入り、梅干し入りの三種類がある。おかずはだし巻き卵にウィンナー、カボチャのフライ、ブロッコリーとプチトマトのサラダ、鶏肉の照り焼きと豪華だ。夕凪はカボチャのフライをお箸で食べる。
「うん。雄介のお母さんの作ったフライは美味しいね〜」
「そうだな。鶏肉の照り焼きもうまいぞ」
和気あいあいと言いながら食べた。見上げると桜が八部咲きくらいにはなっているようだ。それを眺めながらだし巻き卵を頬張る。うん。母さんのお手製弁当はいつもうまい。そう思いつつ、夕凪と楽しいひと時を過ごしたのだった。
風が吹いて桜の花びらが舞う。その内の一枚が夕凪の髪についた。黒くてしっとりとした髪にだと桜の薄桃色が映えてちょっと見とれてしまう。それでもいつまでもついていたら本人も嫌だろうしな。そう思って手を伸ばした。
「……夕凪ちゃん。花びらついてるぞ」
髪についた花びらをそっと取った。夕凪も気づいたらしくえっと声をあげる。もう彼女が気づいた時には花びらは俺の手にあった。
「……あ。ありがとう」
「どういたしまして」
夕凪は顔を赤く染めながらも礼を言う。俺は何の事かわからずに答えた。
「雄介さん。その。桜、綺麗だね!」
「……そうだな。あ。お団子と緑茶。出すの忘れてた」
俺はふと気がついて慌ててトートバッグからお茶とお団子を出した。お団子は三色団子だ。プラスチックの容器に入れてある。緑茶は自販機で買った。ペットボトルに入っている。夕凪に手渡すと余計に顔が赤くなった。首を傾げつつも緑茶の蓋を開けて一口飲んだ。苦いけどもうまい。プラスチックの容器も開けてお団子を手に取る。一個を頬張った。お抹茶味で苦味と甘味が同時に口内に広がった。緑茶をもう一口飲んだらふうと息をつく。
「……うん。お団子もお茶も美味しい。桜も綺麗だし」
夕凪はそう呟きながら食べていた。彼女は一本目を急いで食べた。そうしてからスマホをカバンから出した。
「せっかくだし。写真を撮っておこうかな」
「……夕凪ちゃん。お茶、蓋を閉めた方がいいぞ」
「……あ。本当だ。わかった」
そう言って夕凪は緑茶のペットボトルの蓋を閉めた。その後、スマホで三枚ほど桜の写真を撮っていた。ついでに俺とのツーショットも撮っていたが。何故か満足げにしているので不思議でしょうがなかった。
「……雄介さん。来年もこうやってお花見しようよ」
「そうだな。来年も再来年もしようか。けど夕凪ちゃんの場合、同い年の友達との方が楽しいだろ」
「……もう。わかってないなあ。私も好きでもない男の人とこうやってお花見するわけないでしょ」
「そうなのか?」
「そうだよ。私ね。去年の夏休み、雄介さんと初めて会った時から。あなたの事が男性として好きだったの」
夕凪はそう告げると顔を真っ赤にした。俺もはっきり言われたせいか顔に熱が集まるのがわかった。
「……そうか。ま、まあ。悪い気はしないな。わかったよ。夕凪ちゃん。いや、夕凪。俺と付き合ってくれないかな?」
「……はい。お付き合いだよね。こちらこそよろしくお願いします」
「……ありがとう。フられたらどうしようかと思った」
「ふふっ。フったりはしないよ」
「ならいいか」
俺はそう言ってふっと笑った。夕凪の額にそっとキスをする。再び顔を真っ赤にした夕凪はそっぽを向いてしまった。耳も赤い。俺は笑いつつも残ったお団子を頬張ったのだった--。




