表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/80

マドンナの卒業



「健兄、勉強教えて」


「今更やっても変わらんだろう」


「一寸でもやっといた方が安心できるでしょ」


昨日から従兄妹の鈴がうちの高校を受験するために来ている。俺も定期テストも終わり、部活の日以外は麗奈と遊ぼうと思っていたのに、厄介者が来てしまった。


「試験は明日だろ? 早く寝て早起きしないと頭の回転が鈍るぞ」


「最後の悪あがきをするの。ちょっとは手伝ってよ~」


「早く寝た方がいいから…」


鈴は明日受験なんだが、なんでこんな夜遅くまで俺の部屋で勉強をしてる? 鈴の部屋は別に用意してあるんだからそっちに行って早く寝てほしい。


そんな感じで結構夜遅くまで勉強して、翌朝鈴は受験に向かうのだが… なんで俺が付き添いで学校まで行かないといけない… 今日は入学試験で部活もお休み… 当然麗奈と会うことになっている。鈴が居ないうちに麗奈とまったりしとかないと、鈴が帰ってきたら麗奈をとられてしまう。


自分が気に入ったら絶対に離さないあの気性の激しさを何とかしてほしい。しかも受験が終わったら迎えに来いとまで言いやがった。「お前何様よ!」と言ったら「私は鈴様だ!」と言いやがった。あきれかえって文句も出なくなった。


仕方ないから、受験が終わるころに麗奈と迎えに行くことにした。麗奈の家に行って二人でゆっくりした後、鈴を迎えに行く時間となったので麗奈と一緒に高校まで迎えに行った。


「あ、麗奈ちゃんも迎えに来てくれたの」


麗奈を見つけた鈴は大喜びして麗奈に抱き着いた。麗奈さえいれば鈴は機嫌がいい。鈴は俺を完全に無視して麗奈と腕を組んで歩いていく。こいつと今年から一緒に暮らすと思うと悲しくなってくる。俺は来年大学に合格したら家を出ていく計画を立てようと考えた。


「で、どうだったんだ? 試験は出来たのか?」


「大丈夫に決まってるじゃない。健兄じゃあるまいし…」


ひとこと多い奴め… ま、高校受験は大体は受かるよな… 


「そういえば、麗奈ちゃんはいつ卒業式?」


「来週だよ。もうほんの少しで卒業…」


「麗奈ちゃん、大学も多分受かるんでしょ?」


「多分ね。何も失敗してなければ大丈夫だと思う」


「でも、大学も自宅から通うんだよね?」


「そうだよ。そのために選んだしね」


「そしたら鈴が高校生になったらいつでも会えるんだね」


「そうだね。毎日家には帰ってくるから」


「じゃ、高校生になったらいっぱい遊んでね」


「いいよ。その代わり健司君の言うこと聞いておりこうさんにしてね」


「大丈夫だよ。私は健兄よりしっかりしてるから」


何でも言ってくれ… こいつが高校に入ったら何人の被害者が出るか… 手当たり次第に下僕にしそうで怖い…


「そういえばお前はいつ帰るんだ?」


「取り敢えず、明日帰るけど麗奈ちゃんの卒業式にまた来る」


「何でお前が来んの?」


「だって、麗奈ちゃんの卒業だよ、来るに決まってるじゃない」


「勝手にしてくれ…」



家に帰る途中でお腹が空いたと鈴が言ったので、ハンバーガーショップに入って適当に食べることにした。注文を済ませると、鈴はさっさと麗奈を連れてテーブルに座り、俺は頼んだ品ができるのをひたすら一人で待たされた。


麗奈と鈴が二人でテーブルに居ると、チャラい学生風の男が近づいて、何やら二人に話しかけていた。すると見る見る変っていく麗奈の表情… なにやら物凄い口調で捲し立てられている。商品が出来たので運んで近づくと、男はそそくさと退散していった。二人を見ると… 鈴は固まっていた。チャラい男に近寄られて怖かったのか、男に罵声を浴びせていた麗奈が怖かったのか… すると、ようやく鈴が喋りはじめた。


「麗奈さん、かっこいい!」


鈴は目をキラキラさせて麗奈を見ている。どうやら鈴は更に麗奈に惚れ込んだようだ。ハンバーガーを食べてるときもずっと麗奈を見ている。


それから家に帰ってきたが鈴は麗奈にべったりで、とうとう寝るときも「私の部屋で一緒に寝よう」と言って麗奈を連れていった。本当にこいつがうちの高校に入ったらヤバい。俺と麗奈の二人の時間が消滅する。




それから数日がたち、今日は麗奈の卒業式である。とうとう本当に今日で麗奈はこの学校からいなくなる。うちの学校にマドンナはいなくなってしまう。朝、麗奈と待ち合わせをして一緒に学校に行った。お互い制服を着て一緒に登校する最後の日だ。麗奈は手を繋いで歩きながら色んなことを思い出しているようだった。


「健司君、今日が一緒に学校に行く最後だね」

「そうだな。何かやっぱり寂しくなるな…」

「でも、1年後はまた一緒に学校に行くんだからね…」

「ああ、分かってる。必ずね…」


学校に着き、麗奈は卒業する3年生の中へ消えてゆく。俺はその姿を見送ってやっぱり物凄く悲しくなった。卒業式が始まり、卒業証書も授与され滞りなく式は終了した。その後、俺は麗奈が校舎から出てくるのを外で待っていた。鈴も先ほど到着して今は俺と一緒に麗奈を待っている。


ようやく校舎内から3年生が出てきだしたが、なかなか麗奈は出てこない。先に沖本先輩が出て来たので挨拶をすると、麗奈は一緒に記念撮影をして欲しいと頼まれ皆から引っ張りだこになっているようだった。


「健司、これからも立花の面倒をしっかり見るんだぞ」


「沖本先輩も大学で頑張ってください。本当にお世話になりました」


沖本先輩には本当に感謝の言葉しかなかった。そうしてると、ようやく麗奈が出てきた… すごい人数を引き連れて…


「麗奈ちゃんて… 凄い人気なんだね」


「麗奈はうちの学校のマドンナだったんだよ」


「へ~ そうなんだ… やっぱり物凄い美人だもんね」


「今でもすごい人気だろ?」


「よく健兄の彼女になってくれたね、奇跡だよ」


麗奈は玄関でも記念撮影をせがまれて一緒に写ってやっている。次から次へとやって来てきりがない程だった。男子だけではなく女子も多くの人が麗奈と写真を撮っていた。しかも何故か2年生の学生も結構いる…


ようやく記念撮影も終わり、俺は麗奈と話すことが出来た。


「麗奈、卒業おめでとう…」

「ありがとう… 健司君…」


俺がそう言って麗奈の手を握ると、麗奈は少し泣いていた。


二人で初めて会った場所、二人でお弁当を食べた場所、二人でよく話していた場所、学校内には思い出が残る場所が沢山ある。それらを思うと少し悲しくなってくる。でも、今日は麗奈の新しい旅立ちの日だから笑顔で送り出してやりたい… 本当は泣きそうになる気持ちを抑えて俺は精一杯の笑顔で麗奈と話した。


――――――――


健司君とも本当にこの学校で会うのは最後だ。本当にいろんなことがあった。入学してからずっと探し求めてた人を最後の3年生になってようやく見つけられた。それまでの寂しかった2年間を健司君はたった半年で全て埋めてくれた。


本当に私は幸運だった。これからは健司君と少し距離も離れるけど、この学校で健司君に出会えたことに比べれば大したことは無い。出会えて、そして私のことを好きになってくれたから今がある。あの日がなければ今日のこの瞬間も当然ない。この学校に来れて良かった。ここで健司君と出会えて本当に良かった。


―――――――――


俺と麗奈は鈴に記念写真を撮って貰った。校門前で麗奈が俺と腕を組み二人で寄り添う写真… 麗奈の高校生として最後の写真を…



こうして学校のマドンナ、立花麗奈はこの学校を卒業していった。



「麗奈ちゃんて、マドンナって呼ばれてたの?」


「みんなが勝手に呼んでただけよ」


「でも凄い… マドンナって呼ばれるだけの美人だし… それに度胸もあるし… 何か納得できる」


「鈴ちゃんも綺麗だし、皆と仲良くやっていたら人気者になるよ」


「でも私は曲がったこととか大嫌いで黙っていられない性格なんで… あんまり優しくないんです…」


「人がどう見るかなんか関係ないよ。私はそんなのを一度も気にしたことがなかった。人から何を言われようと自分のやりたいようにした。そんな私をみんなはマドンナって呼んだけど、そんなものはどうでもよかった。それよりも自分の意志を貫いて大切なものを得られたことの方が私には大きなことだったよ」


「私もそんな風に思えるかな…」


「鈴ちゃんは鈴ちゃんの思う通りに生きたらいいんだよ。そんな鈴ちゃんを好きになってくれる人も必ず現れるはずだから…」



今日、麗奈はこの学校を卒業していった。来年は俺もこの学校を卒業していく。これから1年は麗奈との約束を果たすために俺は頑張らないといけない。麗奈がいなくなって寂しいけど、頑張ればまた来年からは同じ場所にいて同じ時間を過ごすことが出来る…



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ