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招かれざる者



クリスマスも終わり、もう年の瀬だ。年末から年始にかけては二人の家のどちらかで一緒に居た。麗奈の合格祈願もあるので、麗奈と一緒に二年参りに行っておみくじを引き、合格祈願の絵馬も奉納した。麗奈が引いたおみくじは吉であり、恋愛について進展はせず相手が少し離れると書いてあったが、絵馬に合格祈願を書いたそのペンでその部分を塗りつぶしていた。俺は何か罰が当たらないかと怖くなった。


そうやって一緒に過ごしていて今日は1月3日となった。正月気分ももう終わりになってきたころ、そいつはやって来た。


俺と麗奈が俺の部屋で寛いでいるときに、いきなり俺の部屋のドアが勢いよく開けられた。


「健兄、あけましおめでとう!」


勝手に人の部屋を開けてずかずか乗り込んできたこいつは俺の従兄妹である『 一宮鈴(いちのみやすず) 』だ。母さんの弟夫婦の子供で今は中学3年生である。


「お前、何しに来たの?」


「何その失礼な態度! せっかく来てやったのに… って、その人誰?」


「ああ、俺の彼女だよ」


「うそ~! 健兄の彼女… ってすっごい美人。どうやってこんな人見つけたの? もしかして脅迫?」


「お前に関係ないだろ、さっさと下に行ってろ。あと、お前五月蠅い」


「私にそんな偉そうな態度とっていいの?」


「何でもいいから早く出ていけ」


健司の従兄妹の一宮鈴だが… 年は俺より2コ下で、お盆などで母さんの実家に帰った時によく遊んでた。

しかし、鈴が小学校3年ぐらいになると健司の事を下僕のように使い始めた。健司もおじさんの手前、怒るわけにもいかず、我慢してるとどんどんエスカレートする一方。ただ、運動神経が凄く良くて、健司のサッカーの練習相手にもなっていた。最後に会ったのは鈴が小学校6年生だから3年ぶりである。綺麗な顔をしているが、性格は男よりも男らしい。久しぶりに会った鈴は髪も伸ばし、顔も凄く綺麗になっていた。


「お前何しに来たの? 叔父さんと叔母さんは?」


「高校の受験で健兄の通ってる高校受けるんで、一度見に来ようともって今日は来たのよ」


「お前、うちの高校受けるの?」


「だって、私の住んでる町は田舎で高校1つしかないし、仕方ないんだよ」


「とりあえず話はあとで聞くから下に行ってろ」


「何? 今から彼女とエッチでもすんの?」


「うるさい、早く行け。出来ればとっとと家に帰ってくれ」


「わかったよ…」


「麗奈ごめんね、俺の従兄妹なんだけど… ほんと五月蠅い奴で…」


「凄くにぎやかな子だね…」


麗奈も完全に抑え込まれたような感じになっていた。それから二人でリビングに行き、鈴と話をした。


「初めまして。私は健兄の従兄妹で一宮鈴って言います」


「私は立花麗奈ていいます。健司君と同じ高校の3年生だよ」


「健兄の彼女て… 本当に?… こんな美人初めて見たんだけど」


「俺の自慢の彼女だよ。それよりお前、本当にうちの高校受けるの?」


「もう決めてるよ。明後日当たり学校見に行こうと思って」


「お前どこに住むんだよ。お前の家から通うの無理だろ?」


「そのためにここに来たんじゃない」


「何!そんなん俺は何も聞いてないぞ…」


「健司、悪いけど弟から連絡あってね… 鈴ちゃんこっちの高校受けるから住まわしてくれないかって… うちは部屋が余ってるから大丈夫ってことになったのよ… 言ってなかったけ?」


「母さん、聞いてるわけないだろ! そんな話聞いてたら俺は反対してたから…」


「健兄、なんでそんなに冷たい事言うかな…」


「お前の胸に手を当ててよく考えてみろ… お前は俺に嫌われる理由が山ほどあるだろ」


「そんなんあったっけ? 健兄の勘違いじゃない?」


「もういい、お前と話してても埒があかん…」


「それよりも本当に綺麗な人ね、立花さんて。あたしのことは鈴って呼んでください」


「ありがとう、鈴ちゃん。私の事も麗奈って呼んでくださいね」


「それじゃ麗奈ちゃんだね。何か凄く綺麗で落ち着いてて憧れる~」


「鈴ちゃんも凄く綺麗だよ。高校生になったらもっと綺麗になるんじゃない?」


「そんなこと言われると… 嬉しいな」


そう言って鈴は麗奈に抱き着いた。鈴の明るさ、行動力は半端じゃない。健司はそれをよく知っている。鈴は麗奈のことを凄く気に入った。


「麗奈ちゃん、今度健兄の学校見に行くときに一緒に行ってほしい」


「麗奈は受験生だからダメ。俺が一緒に行ってやるよ。どうせ部活もあるし」


「私も学校で講習始まるから少しなら学校を案内できるよ」


「ほんと? じゃ、麗奈ちゃんに頼む」


「相変わらず好き勝手言いやがって… 麗奈に迷惑かけんなよ」


「五月蠅いわね、健兄のくせに…」


俺はこいつの正体を知っている。こいつは可愛い顔の面を被った悪魔だ。こいつは周りに対して自分の命令を絶対服従させる。それもかなりずる賢い手を使って… なんでこんな奴が家に来るんだ… 


「取り敢えず今日から3日間はこの家にお世話になるんでよろしく。健兄…」


2日後、今日は俺は部活があり、麗奈は学校で講習があるので、鈴は麗奈の講習が終わるころに俺たちの高校に来る予定となっている。鈴がうちの学校に来るだけでも嫌なのに、麗奈に世話をさせることになって最悪だ。



「麗奈ちゃん、待っててくれてありがとう」


「迷わずにこれた?」


「大丈夫。それより、校舎内とか見学させて」


「鈴ちゃん、うちの学校の生徒じゃないから目立たないようにね」


「わかってまぁ~す。じゃ 行こ!」


そして鈴の学校見学が始まった。麗奈の知り合いで麗奈を高校まで迎えに来た感じを装って、見学してたので周囲は麗奈の親戚の子だと思っている様子だ。鈴も見た目はかなり綺麗な顔をしてるので、外から見てる人たちは、完全に麗奈の親戚と勘違いする。みんな、さすがマドンナの親戚の子だと納得していた。


見学中、鈴は麗奈に話しかけた。

「そういえばどうして健兄と付き合うことになったんですか? 健兄が猛烈にアタックなんて考えられないし… 麗奈ちゃんみたいな美人がよく健兄を選んだなと思って…」


「私から好きになったんだよ。健司君に近づいて、一緒に遊んで、それで健司君から付き合おうって言ってくれたの」


「本当に健兄なんかでいいの?」


「そういう鈴ちゃんも健司君の事好きなんでしょ?」


「ははは、ばれちゃった?」


「そうじゃなかったら、そこまで健司君に近寄らないもんね」


「私の場合は、ただよく遊んでくれた親戚のお兄ちゃんって感じで好きだったんだけどね…」


「麗奈ちゃんはどれくらい好きなの?」


「私はもう健司君じゃないとだめかな… 本当に愛してるよ」


「やっぱ、高校3年ともなると大人だ… そんな言葉まで出るんだ…」


「鈴ちゃんは誰かいい人いないの?」


「全然、周りに好きになれるような奴なんか一人もいない」


「高校に入ったらもっといろんな人と出会えるから」


「そういえば、麗奈さんてモテたでしょう? 何人ぐらいと付き合ったの?」


「健司君が初めてだよ」


「うそ… それまで誰とも付き合ったことないの? いっぱい告白されたでしょ?」


「私は自分の彼氏はこんな人じゃないと嫌だっていう拘りがあったから…」


「それでも麗奈ちゃん強いね… 普通、どっかで諦めて妥協とかするのに…」


「妥協しなかったから健司君と知り合えたんだし、それで良かったよ」


鈴は麗奈の話を聞いてますます麗奈に憧れるようになった。自分もこのような落ち着いて強い女の子になりたい…



次の日、健司は麗奈の家に行くことになっていた。


「それじゃ、母さん 行ってくるね」


「ちょっと待って、あたしも行く」


「何で鈴が行くんだよ?」


「麗奈ちゃんに遊びに行ってもいいって言ってもらってるもん」


「麗奈は受験生なんだからお前が行ったら邪魔になる」


「大丈夫、私も受験生なんだよ」


「何でお前がついてくるんだよ…」


「麗奈ちゃんの独り占めはだめだよ」


「何でお前にそんなこと言われなきゃいけないんだか…」


そうして無理くり鈴は麗奈の家に付いてきた。麗奈の両親にはしっかりネコを被った挨拶をして凄く気に入られたみたいだが、結局麗奈の部屋に入ると… 麗奈にべったりでしっかり粘着していた。



こんな奴が今年から俺の家にやってくると思ったら何となく目眩がしてきた。



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