クリスマス
今日はクリスマス… 学校も明日からは冬休みに入る。今日は二人でゆっくりクリスマスを… とはならない。
麗奈は今日も講習があり、二人でクリスマスを始められるのは夜になってからだ。場所は自分の家にして欲しいと麗奈が言ったので、夜麗奈の家にお邪魔してこじんまりと二人でクリスマスを過ごすこととなった。
講習を受けている予備校まで俺が迎えに行き、一緒に麗奈の家に帰る。ご飯は麗奈の母さんが作ってくれるので俺はケーキだけを買って麗奈の講習が終わるのを待っていた。
「健司君お待たせ」
そう言って予備校の玄関口から勢いよく麗奈は出てきて俺に飛びついた。久しぶりに抱きしめる麗奈… 麗奈の香り、麗奈の体を感じて俺の苛々した気持ちも一気に吹き飛んで、幸せを感じる。もう少し自分の感情を自制しなければと思っているが、やっぱり麗奈を抱きしめるとそれも忘れてしまう。
「それじゃ、家に帰ってクリスマスをしようか?」
麗奈は微笑みながらそう言って俺の腕をとり引っ張って歩きだした。
「早く帰って始めよう」
俺もそう言って歩き出した。やっぱり麗奈とこうしてると本当に落ち着く。
やがて、麗奈の家に着くと麗奈の母さんが麗奈の部屋に料理を運んでくれた。時間は8時を過ぎており、ようやく二人のクリスマスが始まる。
「それじゃ、健司君 メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
二人でジュースで乾杯して料理を食べる。食べながら、久しぶりに会うので最近の話などをして楽しく過ごした。
「健司君との初めてのクリスマス、もうちょっと色んなことしたかったのに…」
「仕方ないよ、受験生だし。来年は… 来年も厳しいか…」
「来年は健司君が受験生だね」
「麗奈よりも余裕ないんで、この時期にどうなっているやら…」
「来年は私が大学生だから、じっくり健司君の勉強を見てあげれるよ」
「よろしくお願いします…」
そんなことを二人で言って笑っていた。
「今年ももう終わりだね…」
「俺たちが一緒になってからもう半年になるんだな…」
「本当にいろんなことがあったね。でも後悔することは一度もなかった」
「それは俺もだよ。麗奈とここまでの関係になれるなんて思わなかった」
「私がね… 健司君に甘えすぎておかしくなっちゃったとき… 本当に先が見えなくなっちゃたんだ… 好きな気持ちが大きくなるほど不安な気持ちも大きくなるなんて考えもしなかった。でもね、もっと先にもっと大きな幸せがあると健司君に気づかせてもらって、生きる目的が出来た。だから強くなれたと思う」
麗奈は今までのことを振り返りながら話を続けた。
「私は自分でも思ってないのに勝手に周囲からマドンナって呼ばれるようになってた。勝手に思わないでほしいと思ったけど、私の行動や言葉がそう呼ばせる原因になったのも事実だと思う。でも、マドンナなんて呼ばれても何もいいことは無かった。みんな気を使ってくれるけど、私が欲しかったものは誰も与えてくれなかった。
でも今はその考え方自身がだめだったのがよく分かる。本当に欲しいものは自分から取りに行かないと得られない、たとえ得られても、それを守る努力をしないと守れない。一方的に与えられるような甘えた考え方では何も上手く行かないんだってことが、健司君と一緒に居れるようになって初めて分かった。
健司君を初めて見かけて、好きになって、自分に振り向いてもらうことが出来て、欲しかったものを健司君は全て与えてくれた。だから本当に幸せ。だけど、それを守ろうと努力しないと自分自身で壊してしまう。
私が経験してこなかったことがこの半年で全て経験することになったけど… その相手が健司君で本当に良かった… 健司君、本当に愛してるよ」
麗奈は瞳を潤ませて、今までのことを俺に語って聞かせた。自分がマドンナと呼ばれ、自分がどう感じて来たか、俺と出会って俺と一緒に歩んできてどうだったのか彼女は本心を聞かせてくれた。
正直、俺は今の自分が少し恥ずかしくなった。俺が麗奈に言った言葉を麗奈は理解して自身を変化させたのに、その俺が今は自分の感情を制御できなくなってきてるなんて… しかし、麗奈のこの話を聞いて俺の心も落ち着いてきた。前とは逆に麗奈に教えられたように気がした。
「俺は麗奈と出会えたことが本当に幸せだと思う。麗奈が俺を見て俺のことを好きになってくれたおかげで今はこうして麗奈と一緒に居れる。麗奈から近づいて来てくれたけど、好きになったのは俺自身の意志だ。
俺も恋愛なんて経験は初めてでどうしていいのかわからなかったけど、麗奈はいつも俺と一緒に歩いていこうとしてくれた。俺にとっても麗奈は欠かすことのできない存在だ。今は麗奈と離れるなんて考えられない。
今までこんなに誰かを好きになったことなんてなかった。初めて本当に好きになれたのが麗奈で本当に良かった」
俺も自分の心の内を麗奈に正直に話した。俺達はクリスマスの晩に本当の気持ちを伝えあった。そして、二人で求めあうようにキスをした。麗奈の気持ちが伝わってくる… そんな気がした。
ケーキを食べ終えて片付けを終えた後、麗奈はプレゼントを渡すと言ってきた。
「健司君… あのね、これなんだけど… 」
恥かしそうに大きな紙袋から出てきたのは… まだ完成していない編みかけのマフラーだった。あと少しで完成みたいだった。
「頑張ったんだけど… 初めてて時間足りなくて… なので、もう少しだけ待ってね、えへへ」
麗奈は少し顔を赤くして照れながら俺に言った。
俺はここ最近の麗奈の行動の理由がようやく分かった。今までは多少の無理をしても二人で会おうと言ってたのに、急に講習があるからと全く会わなくなっていた。自分の受験勉強も大変なはずなのに、内緒でマフラーを完成させる為に頑張っててくれた… 何かそのことで俺は胸がいっぱいになった。麗奈のその気持ちだけで十分だった。
「ありがとう、麗奈… 麗奈のその気持ちだけで俺は十分幸せだから…」
「早く完成させるからね」
「これは俺から麗奈へのプレゼント」
「健司君ありがとう。開けてみていい?」
「いいよ」
俺が麗奈に渡したプレゼントは「フォトスタンド」だ。写真が3枚横に並べられる感じで、そこには既に2枚の写真を入れておいた。真ん中の部分だけが空白で、そこにだけ後から写真を入れられる。
すでに入っている写真は麗奈と二人で行った上高地での写真で、左端に俺だけの写真、右端に麗奈だけの写真、そして真ん中はこれから入れるために空白となっている。
「真ん中の部分は、これから俺たちにできる子供を含めた3人での写真を入れる予定だよ」
俺がそう言うと、麗奈はじっとその写真を見つめて少し涙を浮かべながら微笑んでいた。
「そうだね。早くこの中に3枚目の写真を入れないといけないね」
「そのために頑張ろうな」
そう言って二人でしっかりと抱き合った。麗奈もそのプレゼントを気に入ったようで良かった。その日の晩はお互いに求めあってその後、麗奈を抱きしめて眠った。
朝、起きると麗奈は呆けたような顔をしてじっと見つめていた。その瞳には涙が溢れていた。一言も言わずにただじっと見つめていた。
「これが… 健司君の気持ちなんだね…」
俺の顔を見ると麗奈はそう言った。
「そうだよ。いつも麗奈と同じ思いでいられるように…」
「ありがとう… 健司君… ほんとうに…」
そう言って彼女は手を胸に当てて涙を流しながら微笑んでた。
それは俺からのもう一つのプレゼントだった。親からお金を借りたりと結構苦労はしたが、何とかして買った結婚指輪だった。最も安いものだったが、どうしても麗奈が卒業するまでには麗奈に送りたかった。離れる時間が多くなってもそのリングを見て元気になって欲しい… そう願って麗奈に送った。
昨日、麗奈が眠っている間にそっと麗奈の指にはめておいた。当然、俺の指にも同じリングがはめられている。
「安物だけど、いつも一緒に居ることを忘れないで」
「絶対に忘れない…」
そう言って彼女は俺を抱きしめた。
俺は彼女との繋がりを感じれるものが欲しかった。それはリングじゃなくても良かったんだが、リングしか思いつかなかった。寂しくなったらそれを見て頑張れる… そんなものがどうしても欲しかった。




