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健司の苦悩



「健司君、どうだった? 今回のテスト結果」


「うん、順調に上がってきたよ。まだもう少し足りないけど…」


「けど、以前よりだいぶ上がってきたからこのままいけば大丈夫だよ」


「そうだね…」



定期テストの結果が出て、俺の学年順位は70番あたり。ようやく目標に近づいてきた。確かにこのまま頑張れば麗奈の目指す大学に行くのも現実的なものとなる。ただ、今は別に考えることがある。


今日、俺は部活から帰って来てずっと一人でいた。最近考えるべきこと、考えさせられることが多い。麗奈と付き合いだして俺は幸せだった。初めて本当に好きになった人と付き合うことが出来て少し浮かれていた。


毎日麗奈と会って、喋って、麗奈のことを知れば知るほど好きな気持ちも膨らんでいった。麗奈は俺にとってどうしても必要な存在となった。他の皆はどうなんだろう? みんな同じ思いになるのか… 俺は今が初めての恋愛だ。だから、愛情を深めていった経験はあるが、愛情を無くした経験はない。誰かと別れた経験がない。


みんなは、なぜ別れる? それが俺にはわからない。俺と麗奈の関係が他の人たちと違うのか…


確かに一般的に別れるような原因を麗奈は絶対にしない。他の人を好きになったり、俺に対する興味を無くしたり、俺の嫌な部分を罵ったり… 俺がして欲しい事は麗奈はすべて受け入れてくれる。俺にだけ一番の愛情を注いでくれる。だから居心地がよくて俺は麗奈に頼ってしまう。結局、俺も麗奈に依存している… それがあまりにも大きくなりすぎている。


手を伸ばせばいつでも触れられるのに、俺は我慢して触れなかった。一度も触れたことのない相手であれば、それが当たり前なので何も思わないのかもしれない。でも俺たちは違う。触れたい時にはいつでも触れることが出来た。自分で触れないようにしていたのに、苛々とする感情が湧いた。


心が壊れかけたときの麗奈の気持ちが今はよくわかる。どうやら俺自身も深みにはまり過ぎたようだ。このままでは以前の麗奈のように俺が変わってしまうかもしれない。これからを見据えて、麗奈と触れ合う時間が少なくなっても感情を安定させられるようにならないと、麗奈が卒業した後はやって行けない。


俺は麗奈に甘えすぎてる部分を何とかしなくてはいけない。かといって、いきなり会う回数を極端に減らすこともできない。特に今は麗奈の受験の時期なので麗奈にはできるだけ負担をかけたくない。いつものように麗奈と会いながら、会う回数を減らさず、ずっと触れ合いながら依存する心を抑えていかなくてはいけない。


この時期に麗奈に変な負担をかけると、せっかく変化した麗奈の心もまたおかしくなってしまうかも知れない。それだけは何としても防がないと… 要は俺が自分をしっかり制御して麗奈と対応すればよいことだ。ただ、問題は自分がそこまで強くなれるか自信がないことだ。


麗奈は俺の優しさに溺れた。麗奈も俺に対して無条件に優しい。当然俺もいつかは麗奈の優しさに溺れても当然か…



健司は麗奈との関係について自問していた。ミイラ取りがミイラになる… 麗奈を何とかしようと思っていた自分があの時の麗奈と同じようになろうとしている。健司は愛理が言っていた言葉を思い出した。必要以上に優しさを求めない事… 麗奈はそれに気づいて今は落ちつけている… 俺もそうならないといけない… 健司は甘えている自分の気持ちを引き締めようと考えた。




12月も半ばを超えて、麗奈から予備校の特別講習に行くから会えない日が多くなると言われた。俺にとっても今の状態を変えるのにちょうど都合がよかった。今は部活に集中して、この気持ちを変えていこうと思った。それにもうすぐクリスマス。麗奈へのプレゼントを考えたりと何かにやることはある。



5日間ほど殆んど会っていなかったので、週末あたりに泊まりに来ないかと言ったが、麗奈は週末も予備校があると言って会えないと言われた。麗奈の受験が目前に迫っているので事情は十分に分かるのだが、どうしても気分が苛々してしまう。自分がこんなに弱い人だったことを自分で思い知った。時折、自分は本当に麗奈に愛されてるのかなんて馬鹿な疑問も浮かんだりした。


愛理さんに言われたことが身に沁みる。優しさを与え続けられると、もっと欲しいと思ってしまう。その優しさを与えてくれるのが当たり前のような気がしてくる。本当にその通りだ。


何故か気分は暗く沈み込んでいく… 他人から見れば何を考える必要もないような状態なのに…


俺はもっと先に行きたい… 



この気持ちを思い出して、今は自分自身の感情をコントロールするのが精一杯だった。


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