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健司の戒め




「では只今より、健司君強化プログラムを開始します!」


黒いタイトのミニスカート、黒いタイツ、胸元の開いた白いワイシャツ、更に黒縁の伊達メガネをかけた鬼教官がそこにいた。 麗奈、それ何のつもり…?


定期テスト週間に入り俺は麗奈の家で特訓を受けていた。ちなみにあの衣装は、男が勉強をやる気になる先生のスタイルっていうのをネットで検索した結果だという… どこのサイト見たんだよ…


何か違う意味でのヤル気を起こさせそうな恰好をした麗奈だが、俺に勉強を教えるのは真剣だ。麗奈が2年の時にまとめたノートを使い、俺のノートで足りない部分を補充していく。さらにやや難易度の高い練習問題なども積極的に解いていく。


麗奈の指導は本当に厳しく、2時間もすれば俺はバテる。そのたびに休憩を挟んでくれるのだが、だんだん集中力も無くなってくる… 俺の成績は以前よりは上がってきたが、麗奈が行く大学にはまだまだ足りない。学年で50位以内に入らないと…


今の麗奈にとって一番の心配事は俺の成績だろう。今まさに受験の麗奈自身よりも俺の方が心配されている… 自分自身でも情けない… そこで俺は自分に気合を入れるため自身に誓約を課すことに決めた。


「麗奈、俺は真剣に成績を上げるように頑張るよ」


「健司君、やる気を出してくれるんだね… 嬉しい!」


「自分に対する戒めに、成績が上がるまで麗奈に触れることを我慢する!」


「… け、けんじ… くん?」


「気合を入れて頑張るよ!」


「な、なんでそこに気合を入れるのかな?」


「こうすればご褒美にありつく為に頑張れる」


「ちなみに… どこからどこまで我慢するの?」


「抱きしめたり、手をつないだり、当然キスまで含めて全部」


「そ、それは… やりすぎじゃないのかな?」


「やっぱ、中途半端はいけないしね」


「あんまり… 我慢は体に良くないんじゃ…」


「俺は大丈夫だよ。頑張る!」


「・・・」

(何でそこに話を持っていく? 俺頑張るって… 私はどーなんの?)


ここに健司の禁欲生活が始まる。しっかり麗奈を巻き込んで…



麗奈は何も知らなくてこんな格好をしているわけではなかった。健司がムラムラするのを見て楽しみ、勉強を頑張ったご褒美として最後にはこの姿で健司にサービスしようと考えていた。実は自分も楽しみにしていた。


やばい、健司君変な方向に目覚めた… 聖職者でもないのに禁欲してどーすんのよ! 我慢するなら普通は携帯アプリのゲームとかでしょうが! なんで私を巻き込む? もしかして今日からお休みのキスも無し? 私の受験勉強のストレス発散はどこでやればいいの?… 教えて、誰か… 


麗奈は動揺を隠しきれない。健司はそんな麗奈を見て、


「大丈夫だよ、俺は我慢して見せる」と言った。


麗奈は絶望した。



麗奈はどんなにストレスが溜まっても、健司に抱きしめていてもらうと気持ちも安らぎ一気に元気になれた。麗奈にとってそのひとときは、まさに活力の充電時間だった。今日からそれが無くなる… 一日も持たずにバッテリー切れ確定だ。しかも成績あがるって、いつ? 今回のテストの結果が出るのは10日後以降だよ… それでも大概なのに、もし上がんなかったらどーすんの? 麗奈の心の内は激しい嵐が吹き荒れている。



それから最初の2日が経った。


「どうしたの麗奈? 何か暗いよ… 」

(電池切れです)


「何か嫌なことあったの?」

(毎日が嫌です)


「誰かに嫌なことされた?」

(現在進行形であなたにされてます)


「元気出して頑張ってよ」

(無理です)


「もう少しだけ頑張ろう」

(嫌です)



麗奈は日を追うごとにやつれていった。健司に勉強を教える言葉にも力がない。

(もう無理、今日は襲っちゃおうかな… でも真顔で拒否されたら完全に心が折れるし…)



それからさらに2日が経った。


「麗奈、顔色悪いよ?」

(生命力の限界です)


「麗奈、黙ってどうしたの?」

(恨みごとを言っていいんですか?)


「何かそわそわしてるね?」

(襲ってもいいんですか?)


「目が虚ろだよ」

(泣いてもいいんですか?)


「この問題が解んないんだけど…」

(私もどうやって生きていけばいいのか解りません)



次の日、麗奈はとうとう寝込んだ。


「今日は具合が悪そうだし、帰って一人で勉強するよ」

(私にとどめを刺す気ですか…)


「麗奈、本当に大丈夫?」

(何百回も大丈夫じゃないって言ってます)


「どっかに効きそうな薬はないかな?」

(そこにあります)


「麗奈、何か欲しいものはない?」

この言葉で麗奈の我慢は崩壊した。野獣と化した麗奈は自分が寝ているベッドに健司を引き入れ獲物を捕らえたタコのように手足を絡ませ抱き着く。


「麗奈、俺は今我慢を…」

「もう知りません」


久しぶりに健司に抱き着いた麗奈はもう止まらない。本能の赴くままに健司に襲い掛かった。すべてが終了後、そこには癒された顔をした麗奈が幸せそうに眠っていた。顔色はすっかり良くなっている。


健司は麗奈の気持ちも解ってやれずに悪かったと後悔した。麗奈の頭を胸に抱えていると健司も落ち着く。麗奈のことも考えて違う方法で頑張ろうと思った。



麗奈に触れないようにしてこの一週間ほど頑張ってきたが、やっぱり麗奈を抱きしめた方がもっとやる気が出る。自分の決めた道をしっかり歩いていくために、自分自身に厳しくしなければいけないこともあるが、一緒に歩こうとしている人の事も当然考えなければいけない。麗奈と共に歩もうと考えていた健司にとって、麗奈への思いやりにかけていたと健司は反省した。


ただ、最近健司にも少し感じることがある。ずっと麗奈に触れないで、麗奈も限界といったが自分自身も結構辛かった。その時に感じた何とも言えない思い… 


「何か俺も麗奈にはまり過ぎてるんじゃないか… 俺自身は大丈夫か?…」



今まであまり感じなかった自分の感情の変化に少し戸惑う健司であった。



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