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先へ進むために




11月も終盤に入り、いよいよ麗奈の受験勉強にも力が入ってくる。麗奈と会うときもどちらかの自宅が中心となってくる。麗奈は焦ることもなく、いつも通りに勉強を進めている。今のところ模擬試験の結果も良好で、このままいけば希望する大学に合格できる。今日は俺が麗奈の家に遊びに来ている。


「ん~ 疲れた… 健司君はどう?」


麗奈の受験勉強のついでに俺も勉強をしている。どちらかというと、俺の方が勉強を頑張らないと、とても今の成績じゃ麗奈と同じ大学には行けない。


「さっきからやってるけど… あんまり進まないや…」

「勉強は集中力だよ」


「サッカーだったら集中できるんだけど…」

「お願いだから頑張ってね。健司君が受からなかったら… 本当に嫌だよ…」


「それは分かってるよ。俺たちの大事な目標だもんな…」


健司も頑張っているが、そんなに簡単に頭がよくなるのなら、誰だって希望大学に入れる。実際はなかなかそうはいかない。


「ちょっと休憩しよ」


麗奈がそう言って休憩モードに入る。麗奈が紅茶を入れてきて、二人でゆっくりくつろぐ。


「次の定期テストは私が家庭教師になるからね」

「麗奈の受験勉強は?」


「大丈夫だよ。それぐらいの余裕はあるよ」

「最悪、俺の部活も考えないといけないな…」


「どうするの?」

「3年になったら辞めるかもしんない…」


「健司君それでいいの?」

「良くないけど… 大学に行けないよりはましだよ…」


麗奈も健司に部活をやめろとは決して言いたくないが、健司の大学合格も切実な問題でもある。


「健司君の受験はまだ先なんだから、勉強はコツコツやれば何とかなるよ」

「そうだといいんだけど…」



麗奈は、あと2ヶ月でセンター試験、その後1ヶ月後くらいに入学試験だ。それと、年明けの1月からは自主的な補講への参加が主となり、基本的に毎日学校へ行く必要はない。来年からは生活も大きく変化してくる。


麗奈となんだかんだ話している時に麗奈の携帯が鳴った。麗奈は電話に出てしばらく喋っていたが、ふと携帯電話を健司に渡した。


「健司君、愛理ちゃんからだよ」


「俺に?」


麗奈にかかってきた電話に俺が出るのも不思議な気がしたが、とりあえず出てみた。


「健司君、今から少し会えないかな…」


俺はその事を麗奈に話すと、麗奈は愛理さんからそれをすでに聞いてたようだった。


「私は別にいいよ。愛理ちゃん、なんか大事な用事があるみたいだから行ってあげて」


「そう… わかった」


愛理さんには今から向かうと言って電話を切った。


「いったい何の用事だろう… 麗奈、何か聞いてない?」


「聞いてないよ… でも大事な用事とは言ってたから…」


そう言った麗奈の表情は少し真剣だった。


「それじゃ、とりあえず行ってくる。終わったらまた帰ってくるね」


「晩御飯つくって待ってるから」


俺は麗奈にそう言って麗奈の家を出た。



待ち合わせの場所は以前愛理さんと話し合ったことのあるカフェだった。俺が着くと、すでに愛理さんは席に座っていた。


「遅くなっちゃってごめん。今日は大事な話なの?」


「そう… 大事な話だよ…」


どこか元気のない表情なので何かあったのか心配になった。もしかして幸次と上手くいってないとか… 俺は注文を済ませて席に着いた。


「健司君はどうして遊園地に幸次君を連れて来たの…」


「正直に言って、愛理さんに紹介しようとかじゃないよ… 麗奈も知ってて俺にとって大切な友達だからかな…」


「私ね、正直に言うと今は幸次君のことが好きなんだ… こんなこと健司君に言うのも変かもしれないけど…」


「変じゃないよ。幸次のことを好きになるのは俺にもよくわかる」


「でもね… 私も複雑なんだ… 今でも健司君のことは好きなんだよね…」


「愛理さんにそこまで好きになって貰って俺も本当に嬉しいよ。でも、幸次を好きな気持ちが生まれてきたのは今で、そっちの方がどんどん大きくなってきてるんじゃないのかな…」


「それは… 私もわかってる。でも… やっぱ割り切れないとこもあるんだよね…」


「俺の身代わりとして幸次を愛理さんに会わせたわけじゃないよ… それだけは解って欲しい…」


「健司君はそんなことしないはずだし、第一、そんな風に幸次君が連れて来られるとは思わない」


「そうだね… 幸次にそんな理由で付いて来てと言ったら、絶対に来ないね」


「それは分かってる… でも急に健司君に似た感じの人が現れるなんて思ってもみなかったし…」


「確かにそうかもね… でも、愛理さんは幸次と出会った…」


「… はっきり言うね… 幸次君のことが好きになったんだけど、今の気持ちのままじゃ幸次君に失礼だと思って… それで動けなくなっちゃてるんだ…」


健司はそういうところが愛理らしいと感じていた。何事もはっきりさせないと気が済まない… 適当にごまかせない、それが愛理という女の子だと…



「俺さ、思うんだけど… 好きな人って一人しか駄目なの? 二人や三人好きな人がいてもいいと思うんだけど… その代わり、付き合うならその中から一人を選ばないといけない、選んだ以上は他の人と区別しないといけない… そういう事じゃないのかな…」


「しっかりと区別できればいいの?」


「そうだね」


「どこかで区切りを入れないといけないのね…」


「言葉通りに簡単じゃないのかもしれないけど… 仕方がないよ」


「私ね… こんな経験初めてなんだ… 愛せる人を探してもなかなか見つからなかった。やっと健司君が見つかったと思ったらこんな短い間にもう一人見つかるなんて…」


「でももう愛理さんの中では答えが出てるんじゃないの? だったら先に進むことを考えなきゃいけないんじゃないかな… 思ったことを実際にやってみないと何も始まらない…」


「やってみれば何かを感じるの?」


「感じるはずだよ… いい事も、悪いことも… 俺も麗奈と一緒に居るようになって沢山のことを感じて来た」


「そうだね… 前に一歩踏み出さないとだね」



二人はカフェを出て少し外を歩いている。愛理は自分の心に区切りを付けることにした。まだ見たことのない明日を見るためには、いつまでも後ろを見ていることもできない… 


外はもう暗くなってきており、風も今は冷たい。愛理はふと立ち止まり、健司に話しかけた。


「ねえ、以前私は健司君と友達になるのに区切りをつけたよね… その時と同じようにしてもらっていい?今度は健司君よりも幸次君のことを好きになるために…」


「ああ… いいよ」


健司は思いきり愛理を抱きしめた。以前愛理にお願いされた時と同じように… でも、今は前と違う… 悲しい思をするために抱きしめてるのではない… 健司はそう思い、愛理に感謝の気持ちを込めて抱きしめていた。


やがて愛理は顔を上げ健司の瞳を見つめた。そして、そっと健司の唇に自分の唇を重ねた。健司はそれを拒まずに優しく受け入れた。二人の時が少しだけ止まった。


その後、愛理は何も言わず健司から少し離れた。そして健司に言った。



「健司君、大好きだった… ありがとう… 健司君と出会えて本当に良かった… でも、それは今日で本当に終わりにする。今日からは幸次君だけ見ていく… これからも友達だけど、けじめだから言っておくね…」 

「さよなら… 私の大好きだった健司君」


健司は何も言わなかった。悲しい気持ちもするけど、愛理さんが新しい道を進もうとしている。健司はそんな愛理を温かく見守っていた。



麗奈、ごめんね… 他の人とキスするなんて許せないよね… でもね、これだけは愛理さんの思うようにさせてあげたかった… 俺にあれだけ力を与えてくれた愛理さんに、少しでも俺が力を与えたかった… ごめん、麗奈…



麗奈ちゃん、本当にごめん… 絶対にこんなことしちゃいけないのに… でも、何かの区切りが欲しかった… これで最後と思える何かが… 麗奈ちゃんとの約束を破るのは嫌だったけど… これだけは許して… どんなに自分で納得しようとしても、心が納得してくれなかった… もう健司君を追いかけることはしない、これからは幸次君だけを追いかけていく…  だから… ごめんね、麗奈ちゃん…



健司は複雑な思いをしているが後悔はしていない。これで良かったんだと思い、麗奈の待つ家に帰っていった。



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