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麗奈の思い

  明けて日曜日。


昼過ぎに、立花麗奈は親友の深田栞の家に来ていた。


「栞、今日は昨日の出来事の検証と、水曜日へ向けた大事な作戦会議をするよ。」


「それはいいけど、健司君の昨日の話は、あんたの主観とか妄想抜きで正確に教えてね。そこが一番重要だから」


「わかった。あのね、紹介された女の子ね… 写真より数倍可愛かったんだって… うぇ~~ん」


「最初から泣くんじゃない。そんなこと最初から分かってるし、あの子ぐらいになったらもうレベルMAXで限界まで来てるから、これ以上は変わらないよ。」


「問題は健司君が彼女を見てどう感じたか、どれくらい親密になったかだよね」


麗奈は昨日の電話の内容を事細かく栞に説明していった。



「話の内容が細かくて、分析しやすいけど… あんた良くそこまで細かく聞き出したね? 健司君優しいから全部話してくれたんだろうけど、普通の人だったらドン引きされてるよ。」


「本当はまだもっと聞きたかったんだけど… 」


「彼女でも何でもない人間が、それだけ人のプライバシーを事細かく調べてたら、もはやストーカーだよ。」


「私が見込んだ健司君は優しいからそんなこと思わないですよ~~だ」


「腹立ってきたから、そろそろ帰ってくれる?」


「う、嘘です… 栞だけが頼りなんだから… ぐすん」


「客観的な事実をまとめると… 健司君の彼女に対する気持ちはこんな感じになるわね」


  ・すごく可愛くて素敵な人だと感じている。

  ・何故か、彼女の人間性に一番魅力を感じている。

  ・その女の子を一人の女性として見ているのかが微妙。

  ・昨日一日で彼女に惚れこんだ様子はない。


「なんかよくわからないとこもあるんだけど、… それは麗奈への話にも通じるのよね」


「どうして?」


「普通に考えたらおかしいでしょ? あんな可愛い子に手を握られて、彼女の方から“気に入ったアピール”してるのに、普通だったら舞い上がってるわよ。 ノリで即、交際を申し込んでてもおかしくない。」


「健司君が他の女の子に交際申し込むなんて… そんな縁起の悪い話はやめてください」


「正直に言うけど、彼女は健司君を気に入ってる。ほぼ間違いない。ただ、まだ健司君のことをじっくり見て行こうと思ってるんじゃないかな。」


「彼女が決心ついて、健司君攻めたら相当やばいわよ」

「やだやだやだやだやだやだやだ~~」


「うるさいって! でもね、健司君がなんであんたにあんなお願いしたのかがねぇ~ 」


「普通、そういうのはすごく気になりだした相手に言うもんだけど… 健司君は分かりにくいしね… 」


「え、私健司君に気に入られてんの? えへっ」


「あんたもちょっとは真面目に考えなよ。そもそもあんたの問題なんだよ? 自分で何とかしようとか真剣に思わないの?」


「何で健司君はあんな可愛い子にモーションかけられて冷静なんだろ? だからと言ってあんたにべた惚れでもないしね。 何か考えているんだろうけど… 」


「それで~ 私は水曜日どうしたら良いの?」


「まず、最低限今よりも関係を深めること。これは必須だね。手をつなぐ,腕をくむ,とにかく距離を詰める。あと、恋愛に関する話題にもっていき、麗奈を意識させる。一人の女の子として見るようにね。」


「わかった、頑張る。 でもね、一気に距離が近くなっちゃって… そのぉ… キスまで行っていいの?」


「健司君だから、それは無いと思うけど… 雰囲気だからね。頬っぺぐらいならいいんじゃないの?」


「できたら口にしたい。口がいい。 ほかの人に初めてを奪われる前に私がもらう… へへへ」


「あんたらまだ付き合ってもいないんだよ? 健司君真面目だし、普通は付き合ってからやるもんだよ」


「でもドラマとかで、キスから始まる… 」


「あんた今まで男と付き合ったことないでしょ? あんたの常識は結構やばいよ。一人ぐらい付き合ってたらもうちょっと上手く恋愛できたかもだけどね。」


「とにかくあんたの一番心配なところは、暴走しないかだね。暴走したら一瞬でフラれると思っておくこと。」


「肝に銘じておきます…」


「あんたさ、一応うちの学校のマドンナなんだよ? それがどうして健司君のことになったらこんなにポンコツになるんだろうね。プライドってないの?」


「健司君をGETできるんだったらプライドなんて1㎜の価値もありません! マドンナなんて誰かにあげます。」


「ほんとにポンコツになったね。そういうところを健司君に見せない事!」

話し合いはこの後さらに続いた。








            ≪ 麗奈の思い ≫


私、立花麗奈はいつから健司君のことが好きになったのだろう…

初めて健司君を見かけたのは、2年生が終わり3年生になる春休み。学校に用事があり登校するとグランドではサッカー部が他の高校と練習試合をしていた。 


サッカーには興味がなかったが、なんとなく自分の高校を応援したくなるのは人情である。 ある時、誰かが思いっきりボールをけり、ボールは誰もいない所に転がる。


相手チームの選手が追いかけていき、ボールをとると思った瞬間、急に出てきた選手にボールは取られ、すごいスピードで敵のゴールへ向かっていく。 


「どっから出てきたの? すごいスピード」 と思っていたら、後ろから相手チームの選手にスライディングされて、思いっきりこけた。「あれって酷くない?」と思っていたら審判がホイッスルを吹く。 


「あんなことされたら、こかされた人怒ってるだろうな」と思っていると、こかした選手が、こかされた選手に手を差し伸べて起こしている。こかされた選手はにっこり笑って相手の手を握って起き上がり、お互いに肩をたたき合う。 


それからもこかされた選手は、笑顔で全力疾走してボールを追う。本当に楽しそうに…  彼はボールだけをしっかり見つめ、誰よりも早くボールに向かって全力で走る… 


彼が私を好きになってくれたら… あのボールのように私だけを見つめて全力で追いかけてくれるのかな…

なんとなくそんな想像をすると、少し胸が熱くなった。


それから、何となくサッカー部の練習を見る機会があったが、彼はいつもにこやかに全力で走っている。

それを見ていると、何となくもっと彼を近くで見たいと感じるようになった。


3年生になり、隣の席がサッカー部の沖本君になった。 「そうだ」と思い、彼にサッカーの話題をもちかけて、それとなく気になっていた彼のことを沖本君に尋ねた。


彼の名前は「鈴木健司」2年生。


沖本君は彼と非常に仲が良いらしい。 沖本君曰く

「健司は本当にいいやつだし、サッカーへの取り組みも真剣だ」と言う。

最も良い所は誰の話に対しても真剣に向き合い、本音で自分の考えを話すこと。 そんな彼の噂を聞くと、彼の真面目さと誠実さがよく伝わる。


そんな彼の話を聞いているうちに… 私はすっかり彼に夢中になっていた。 沖本君から何度も彼の名前が出てくるが、彼をけなす内容は一度も出たことがない。私が探していたのはこの人…  間違いない、この人しかいない…  私はそう感じるようになった。


中学の時、私に告白してきた男子は、私が断ると2週間後には他の女の子と付き合うようになっていた。

所詮、本気で告白してくる人などほんの一握りだ。 ほとんどは、ただ見た目だけに惹かれて自己満足のために告白してくる。そんな人たちに用はない。 私が一緒に居てほしいと思う人に求める条件はただ一つ。



「私だけを見て、私だけを愛してほしい。私の全てを愛してほしい。」



健司君だったら、私がさみしくなった時、あのスピードで全力で私の元へやってきてくれるかな?


あのサッカーへの情熱を私に対しても振り向けてくれるかな? 


多分これが私の本当の初恋。

今までこれほど特定の男子のことをここまで真剣に考えたことは無い。

もしかしたら健司君のような人と出会えるチャンスはもうないかもしれない。


そう思うと私はもう我慢できなくなっていた。 


       … 私の方から健司君を迎えに行こう … 


私は本気で健司君を振り向かせる。 そのためには手段は選ばない。

健司君と結ばれるために私の全てをかける。





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