愛理と幸次
お昼になったので食事をしようということになり、皆でフードコートにやってきた。
「そういえば健司、直人と裕子のバカップルはまだ仲良くやってんのか?」
「ああ、仲良くやってるよ。相変わらずだ」
昔は健司も直人と裕子をバカップルと呼んでからかっていたが、最近自分たちの方がバカップルに近いと思い始めたので、出来るだけこの言葉は使わないようにしていた。
「幸次君ひどい… 裕子は私の親友なんだよ…」
と言いながら、愛理さんも笑っている。
「そうなの? ただの知り合いじゃないの? 健司、どこがどうなってんの?」
「愛理さんは裕子の中学時代の同級生だよ。裕子つながりだ」
「そうなんだ。先に言ってくれよ」
「色々ありすぎて忘れてた、すまん」
「それじゃ、愛理ちゃんと同じように私も幸次君て呼んで良いかな?」
「いいですよ、立花先輩」
「私も名前で呼んでね」
「わかりました」
「幸次君て自分でも健司君と性格似てると思う?」
「大体同じだと思ってます。ただ、健司みたいに変なのに付きまとわれたら、俺はすぐに追い払いますけどね」
その答えを聞いて麗奈は笑いを必死にこらえている。直人に教えられたことが思い出される。
(麗奈、もういいだろ,そのことはそろそろ忘れよう…)
健司は悲しくなってきた。
昼ご飯を食べ終わると、麗奈は急に俺を引っ張って歩き始め、愛理さんたちに言った。
「ちょっと二人っきりの時間も欲しいから少しだけ別行動していい?」
愛理さんと幸次は「そうだね」と言って了承してくれた。俺は麗奈に連れられて遊園地の端にあるアトラクションまで連れていかれた。
「このアトラクションに来たかったの?」
俺が麗奈に尋ねると、
「そうでもないんだけど… 少し二人で静かなところに居たかっただけ…」
麗奈はそう言った。そういえば、今日は二人っきりで静かに話す機会はほとんどなかった。俺も麗奈と同じ意見だったので、ベンチに座り麗奈の手を取ってまったりとすることにした。
残された愛理と幸次だが、愛理が黙っておとなしくするはずもなく、幸次を引っ張って色んなアトラクションを廻っていった。二人とも休憩を兼ねてボートに乗ることにした。
「幸次君、ボート漕ぐの上手いね」
「力は結構あるからね、中学までずっと空手やってた」
「今は?」
「親父みたいに教師目指してるから、大学への受験一筋かな」
「凄いね、目標がはっきりしてて…」
「愛理さんは何か目標ないの?」
「人生をどう生きるかまでの目標はないな… でもね、一生離れないで済む相手は見つけたいな…」
「やっぱり女の子だね」
「男の人もそうは思わないの?」
「俺はまず自分がしっかりできないと、自分の彼女を持ちたいとはあまり思わない」
「そんなに難しい事考えるの?」
「そりゃ、彼女をつくるんだからそれなりの責任感を持たないと…」
「やっぱり健司君と似てるね…」
「俺と健司みたいなタイプの男はそんな風に思うんだよ」
「そっか…」
愛理は幸次のそんな言葉を聞いて物思いにふけっている。すると、幸次は愛理に話しかけてきた。
「何かこうして喋ってたら愛理さんの印象がだいぶ変わったな…」
「どんなとこ?」
「最初は可愛くて元気で、勢いだけで生きてるのかなって思ったけど… 色々考えてるんだね」
「何も考えてないバカではないよーだ…」
そう言って愛理は微笑んだ。
「そんな可愛い顔してるんだったら、もっと適当に楽しくできるのに… そうしないで自分の意志で動いてるって俺は凄いと思ったけどね」
「そんなに褒めてくれるの? へへ」
「今までにそんな子は見たことないね。可愛い子は結構、その顔を利用して楽にやってるから…」
愛理は褒められてから少し顔を赤くして俯いてる。
「幸次君って、私と同じで思ってる事どんどん言うね」
「それが俺の性格なもんで。俺たちはその辺りは同じかもね」
「それじゃ、私たちがもし付き合ったら、ケンカになったらひどいことになりそう…」
「そりゃ 言えてる」
二人は大笑いした。でも二人とも思ってることが言いやすく、何となく居心地が良いのは感じている。
「それじゃ、岸まで目いっぱい漕いで健司たちと合流するか」
「よし、頑張って幸次君」
二人はボートから降りて、健司たちに連絡を入れた。
一方、愛理たちと離れてからベンチで休んでいる麗奈と健司だったが、麗奈の方から何か真剣な様子で話し始めた。
「健司君、幸次君と愛理ちゃんってどう思う?」
「どうって?」
「2人なら上手くいくんじゃないかって…」
「いきなりそんなこと言われても… どうなのかな…」
「私ね、初めて幸次君と会った時に… 何か自然と話が出来たんだ。まるで健司君といるような気がしてね…」
「多分愛理ちゃんも同じ思いになると思うんだけど… 私と愛理ちゃんは健司君の同じところに惹かれたんだ… それは多分幸次君にもある… なんか、私が健司君をとったから代わりに… なんて思われるのは嫌なんだけど冷静に見ても、もし私に健司君がいなかったら私も幸次君が気になってたかもって思うし…」
「そうなんだ… 俺も幸次は自信を持ってお勧めできる友達だけど… 確かに幸次を俺が愛理ちゃんに勧めるのは… 何か気が引けるね… 俺の身代わりを立ててるようで…」
「2人がお互いに惹かれ合って付き合えたらそれが一番いいんだけどね… でも、少しでも愛理ちゃんを応援したいな…」
「それで、お昼から二人と離れたんだ…」
「愛理ちゃんは決して幸次君を嫌うことは無いと思うけど…」
「そうだね。今頃二人で楽しく喋ってるかも…」
そんなことを話してるときに、愛理から電話がかかってきた。その後は4人で行動して色んな乗り物にも乗ったが、幸次は愛理のリクエストに応じて一緒に乗ることが多かった。最後にみんなで観覧車に乗ろうと言っていたが、その途中でゲームコーナーを見つける。健司はこの前のリベンジを考えていたが、この状況でいい事を思いついた。
「幸次、UFOキャッチャーで勝負だ」
「まだ懲りないのか? 俺には勝てないよ」
健司はそう言って幸次をUFOキャッチャーに連れていき、麗奈と愛理に欲しいぬいぐるみを指定してもらった。大体同じ大きさ、同じ条件でスタート。制限は1000円以内で少ない金額でとれた方の勝ち。
健司は本気で勝ちに行ったが、あえなく幸次の方が先にGETする。幸次500円、健司700円。とったぬいぐるみは健司が麗奈、幸次が愛理に渡す。意外に愛理は物凄く喜んでいた。
そうしてみんなで観覧車にのりに行く。流石に4人で乗るのも何なので、健司と麗奈、幸次と愛理で2組に別れて乗ることにした。
「幸次君、これ本当にもらっていいの?」
「当たり前だよ。俺が家に持って帰ってどうすんのよ」
「ありがとうね」
愛理は本当に嬉しそうだった。なんだか凄く幸せな気分を味わえる。初めて健司と遊んだ時に感じた落ち着ける雰囲気を今も同じように感じる。
「幸次君、また会えるかな」
「いいよ、俺も愛理さんの性格気に入ったし。何か愛理さんは気になるしね」
「それじゃ、電話とかもするね」
「何時でもかけてきて」
何となくいい雰囲気で、観覧車は丁度一周して降りることとなった。帰りの駅に向かう時、幸次と愛理の後ろを歩いていた健司と麗奈はなんとなく二人の雰囲気が朝とは違うことを感じて、そっと見守っていた。
愛理と幸次は今日知り合えて良かったと共に感じていた。これから、もう少し相手の事を知ってみたい… そんな淡い気持ちを抱くようになっていた。




