愛理からの誘い
10月も終わりになる頃、愛理さんから電話があった。
「健司君元気、上手くいってる?」
「元気だよ。ほんと、愛理さんにはお世話になった。俺も麗奈も感謝してる」
「そっかぁ~ 上手くいってるんだぁ~ 残念… 」
「あの… 愛理さん…」
「冗談よ。ちょうどいい季節になったから、また3人で遊びたいなぁ~って思って電話したんだけど…」
「別にいいけど… どこで遊ぶんですか?」
「遊園地!」
「そういえば、今が一番遊園地で遊びやすい季節だよね。でも… 3人ねぇ~ …」
健司には前回、3人で遊んだ時の記憶が残っている。バッチり決めた格好の二人にさんざん引きずり回されて、散々な目にあったあの記憶… 今度も嫌な予感しかしない…
不思議に麗奈は俺と愛理さんが腕を組もうが密着しようが一切怒らない。他の女の子とだったら、本気で怒る。麗奈と愛理さんの間で何かの信頼関係が有るのか無いのか…
おかげで、愛理さんは思う存分ひっついてくる。 あんな可愛い子にくっつかれて、嬉しくないわけがないが、だからと言って麗奈の前で1ミリでも嬉しい表情を出すことはできない。嬉しいことが起こるほど、やばさがどんどん増していくという、訳の分からない状態になる。
愛理さんもその辺を知っててワザとやる。あれは精神的に本当によくない。ここは何としても3人のみだけは回避しなくてはいけない。
「愛理さん、遊園地の乗り物も大体2人とか4人単位のものが多いでしょ? あと何人か連れていきません?」
「でも、裕子たち呼んでも5人だよ。結局奇数になっちゃうしね…」
「そうですね…」
「じゃ、健司君 誰かあと一人健司君が友達を連れてきて。男の子でも女の子でもいいよ」
「誰でもいいの?」
「健司君の友達なら悪い人はいないと思うし、大丈夫だよ」
「わかった、何とかしてみるよ。そしたらとりあえず4人で行くことでいいよね?」
「それでいいよ。楽しみにしてるね」
相変わらず激しい人である。でもかなりお世話になってるし、これぐらいは感謝の気持ちを込めて付き合わないと…
そう言えば、愛理さんとも麗奈とも最初に遊んだのは遊園地だったな… そんなことを思い出しながら麗奈に電話をかけた。
「もしもし、麗奈 さっき愛理さんから電話あったんだけど、今度遊園地に行こうって…」
「いいね、私も行きたい」
「それで問題なんだけど、4人で行きたいんだよね… あと一人を俺が連れていくことになって…」
「健司君に思い当たる適当な人いる?」
「あんまり変な奴は連れていきたくないし…」
「私も… 出来れば私と健司君の両方が知ってる人の方が話しやすいし…」
「そうだよな…」
「そうだ! この前会った瀬尾君はどうかな? 彼だったらちょうどいいと思うよ」
「瀬尾かぁ~…」
「どうしたの?」
「あいつ、遊園地とか付いて行ってくれないと思うし… 知らない女の子来ると言ったらどうかな…」
「健司君がどうしてもって頼めば何とかならないかな…」
「とりあえず頼んでみるよ」
「頑張ってね。私も愛理ちゃんと遊ぶんなら瀬尾君が一番いいと思うし…」
――――――――
「もしもし、幸次,健司だけど」
「どうした?」
「あのさ~ 今度遊園地に一緒に行ってくんない?」
「俺があんなとこ好きじゃないのは知ってるだろ? そもそもお前ら2人で行って来いよ」
「ちょっと俺がかなりお世話になった女の子がいて… その子に恩返しのつもりも込めて付き合ってあげたいんだけど…」
「彼女以外でなんでそんなにお世話になってんの?」
「いろいろ事情があるんだよ… でも俺が本当に辛いときに助けてくれたんだよ…」
「… しゃーねーな、それじゃ ついて行ってやるよ」
「いいのか?」
「お前がお世話になったんだろ? んで、その恩返ししたいんだろ… だったら手伝うよ」
「悪いな… 助かるよ」
「お前が世話になったんだから、仕方ないよ… それにお前がそう思うんならいい人なんだろうし…」
「それは間違いないよ… 本当にしっかりしたいい人だよ」
瀬尾が引き受けてくれたおかげで、遊園地には健司と麗奈と愛理さんと瀬尾の4人で行くこととなった。健司が瀬尾が行くことに決まったと麗奈に報告すると麗奈はすごく喜んだ。健司以外の人の行動で麗奈がそのような反応をするのは珍しい事だった。
連れて行く人を決めた健司は愛理さんにそのことを電話で連絡したが、健司も愛理さんに1つだけ条件を付けた。
「この前のような格好で来たら、すぐに帰らせてもらう… 」
愛理はしぶしぶ健司の要望を聞き入れた。
今度は麗奈ちゃんともっとキワドい服を着てきて、健司をからかおうと思っていた計画がダメになってしまった。さすがの健司も多少は女の子の行動を学習するんだと愛理は感心した。
「健司君にそのへんの学習能力、あったんだ…」




