互いの信頼
体育大会が終わってから、健司と麗奈の周りは賑やかになっている。もともと麗奈の方はマドンナであり、最近すごく優しくなり子供のような笑顔を見せるので、みんな麗奈の周囲に集まる。体育祭にリレーでも活躍し、彼女を尊敬の目で見る人も多い。
一方、健司の方もリレーで陸上部のエースをぶっちぎって、クラスに優勝をもたらしたためヒーローとなっている。もともと健司の隠れファンもいくらかいたが、今は堂々と健司の近くに集まっていた。そんな様子を見ていて直人と裕子は話していた。
「健司の人気凄いな、もともと人気はあったみたいだけど… 」
「元々顔はいいしね、明るいし… それであの運動能力でしょ… 女の子に好かれて当然よ」
「裕子から見て健司をどう思う?」
「そりゃ かっこいいし、性格もいい、だけどあんまり近すぎて今は家族みたいに見えるかな…」
「俺も同じだよ… なんか近くにいるのが当たり前だもんな…」
「健司、麗奈さんの人気 最近さらに上がってんだけど大丈夫か? いつも沢山の男連中が集まっているらしいぞ」
直人が健司に聞いてきた。
「だって、元からマドンナだからしょうがないよ」
「何か心配とか… そんなのないのか?」
「別に」
「普通もうちょっと心配しない? もしかしたらとか…」
「別の意味の心配はあるけどね…」
健司は、優しくなった麗奈に調子に乗って近寄りすぎると、どのような目に合わされるのかが判っていた。いくら変わったとはいえ、麗奈が本気で怒った時の怖さは変わらない。調子に乗りすぎたものは恐怖を見ることとなる。
麗奈の瞳は何時も健司だけを見つめている、それを知っている健司は何も不安を感じない。
「麗奈、なんか健司君が大変なことになってるみたいだよ」
栞が言ってきた。
「どうしたの?」
「健司君、いつも休み時間とか女の子連中に取り囲まれてるんだって」
「そうなんだ、すごい人気だね」
「… 麗奈 心配じゃないの?」
「別に」
「前は他の女の子が少し近寄っただけで切れてたじゃない…」
「今は大丈夫だよ。前に愛理ちゃんに言われて自信つけたし…」
「麗奈も変わったというか… 落ち着いたね」
「それだけ人気のある男の子の彼女が私なんだから… なんか嬉しくなっちゃうね」
「なんか余裕ありすぎて見てて腹立ってくるんだけど…」
健司にやたらと女の子が近寄ってくるのは面白くないが、だからと言って、何か変化することもない。健司はその子たちの方を振り向くはずもない。どんなに頑張っても健司を誘惑できる子はいない。麗奈は愛理から話を聞いて納得できたことがある。
あのアイドル並みの可愛さを持つ愛理が、二人っきりで積極的に健司に近づいて、それでも健司を落とせなかった… この学校に愛理以上の女の子など存在しないのだから、絶対に健司は他に靡かない… そう考えると可笑しくなってくる。
健司君は私がどんなに危なくなった状態でも私を見捨てなかった。健司君が私から離れていくことなんて有り得ない。
様々なことを二人で経験して行った結果、二人の結びつきは本当の意味で強くなった。それを二人自身が一番よく理解している。麗奈が毎日を楽しく思えるのもこのような確信があるからである。
健司を思う女の子たちも積極的であった。その理由の1つが、いずれマドンナも卒業するということである。世間では遠距離恋愛などほとんど続かないことが常識である。来年になれば、本当のチャンスが来る。出来れば今からその土台をつくっておきたい… そのようなことを思っている女の子は多かった。
健司に少し触れるようなアピールを何人もの子がするが、健司は何も感じない。女の子達も反応の鈍さに戸惑う。普段、麗奈はべったり、がっつり健司にひっついている。あの顔、あのスタイルの麗奈にあれだけ常に密着されて普段を過ごしている健司にとって、他の女の子と少しぐらい触れ合っても何も感じない。
唯一、健司がいまだにドキドキを感じるのは、愛理に強引にべったりされているときぐらいである。はっきり言って健司は普通の女の子相手に不感症になりかけているのかもしれない。
今日は健司の家に麗奈がお泊りに来ている。もう寝ようかとしていた時に不意に麗奈が健司に話しかける。
「そういえば、健司君って最近女の子にモテモテなんだってねぇ~」
「何か急に集まってくるようになったけど… 関係ないしね」
「一人ぐらい気になる子とかいないの?」
「全くいないよ。麗奈とこれから先に行くのにやることもいっぱいあるのに… そんな暇はないね」
「さっすが健司君。やっぱり私の未来の旦那様だね」
「麗奈は俺の未来のお嫁さんだろ?」
「そんな当たり前のことは聞かないの… フフッ」
こうして、お互いの心をしっかりと掴みながら健司と麗奈はより一層強く結びついていく。ただ、最近健司は自分たちの会話の内容を客観的に見て、だんだんバカップルに近くなってきている自覚を持っている。
健司は思った。 決して直人たちの前ではこのような会話をしないでおこう…




