健司と似ている者
ある日の放課後、今日は部活も休みなので今から家に帰ろうと下駄箱まで来たとき、急に声をかけられたので振り向くと、幸次がいた。『 瀬尾幸次 』とは1年生の時の同級生で、帰宅部。
1年のとき、健司が最も仲の良かった者の一人で、直人が裕子にせまっていた時、健司は幸次とよく一緒にいた。幸次は中学まで空手をやっていて、性格も真っ直ぐで曲がったことが嫌いな性格なので、健司と共感するところが多く、ある意味健司の心の友である。
幸次も健司の性格をよく知っていて、健司のことを非常に気に入っている。ただ、幸次は顔は凛々しいのだが、ちょっと性格が厳しく、近寄りがたい雰囲気を持つ。おかげで、友人も少ないのだが本人は何も気にしていない。今は健司とクラスは異なり1組にいる。
「お前が元気になってなによりだ。マドンナとおかしくなった噂を聞いて、教室までお前の顔を見に行ったが、とても声をかけれる状態じゃなかったんで心配していた。でも、上手く元へ戻ったんだな」
「そうだったのか… なんかみんなに心配かけて申し訳ないな。でも今は、問題も解決して以前より楽しくやってるよ」
「今日はもう帰りか?」
「ああ、俺の彼女は特別補講があるんで今日は一人で今から帰る」
「それじゃ 健司、久しぶりに勝負してみるか?」
「いいね、やってみるか。 本当に久しぶりだな」
以前、健司と幸次は格闘系ゲームで凌ぎをけずっていた。健司はどうしてもあと一歩で勝てない。さらに言うと、ゲームセンターでどの種目で競ってもほとんど幸次に勝てない。健司は思う、「一度でいいからこいつに完全勝利したい」
ゲームセンターに到着し、当然格闘ゲーム機にお互い腰を下ろす。「また負けてもなくなよ」「うるせー!」ゲーム開始。序盤、健司は戦いを優勢に進める。幸次の反撃もかわしてこれから最後のラッシュ… と思ったら… 健司の攻撃を完璧に読んで、カウンター… 健司君終了。健司は普通にイラッとする。
「まだやるか?」
「当然!」
結局、3連続完敗となった。こうなっては引けない健司、シューティング,ドライブ,いろんな種類のゲームで競うが全て負け。相変わらず幸次には勝てない。
「お前とゲームをやると、お金を払って不快感を買ってるような気がする…」
「健司が弱すぎるんだよ」
そんなこんなで喋っていると、健司の携帯が鳴る。麗奈からの電話だ。
「健司君はもう家にいる? 帰りに健司君の家に寄ろうかと思って…」
「まだ、学校近くのゲームセンターで友達と遊んでるよ」
「じゃ、そこで待ってて。今から私も向う。お腹すいたから何か食べよ」
「友達が一緒だけどいいの?」
「別にいいよ」
そう言って電話は切れた。健司は幸次に麗奈が来ることを伝える。
「もうすぐ俺の彼女がここに来るけど、一緒に飯でも食わねえか?」
「俺がいたら邪魔だろ、普通に考えて…」
「別にいいよ、それに俺の彼女のことは知ってるだろ?」
「そりゃ、あれだけの有名人だから…」
「俺もお前のことは彼女に一度紹介しておきたかったし、丁度いい」
「なら、俺は別にいいよ」
10分後、健司と幸次、麗奈はゲームセンターで合流し、近くのファミレスに入る。
「初めまして、俺は1年のときの健司のクラスメイトで瀬尾幸次と言います。立花先輩のことは結構知ってます」
「私もはじめまして。健司君の彼女の立花麗奈です」
こうして3人はいろんなことを話した。麗奈が特に興味を示したのは、健司が入学当初どのような人物だったのかだった。
「こいつは、なんかいつも明るくて優しかったな… そんで、変な女にいつも捕まってたっけ…」
「その話はこの前直人君に詳しく聞かせてもらった… あはは」
「それと、何事にも真っ直ぐで,周りの人を曇った眼で見ない… 俺はそんな健司が気に入ったかな…」
「私もそこが健司君の凄いところだと思う。瀬尾君も人を見る目があるね~」
麗奈はいたって上機嫌である。健司のいいところを同じように共感できる人物とあえて嬉しい。
「麗奈、でもね、俺から見て幸次も俺とよく似た性格だと思うよ。律義で、真っ直ぐで、曲がったところが嫌い… 俺と違うのは頑固すぎるところかな…」
それは、麗奈も気づいていた。瀬尾と話すのは初めてなのに、妙に健司と話してるみたいで違和感がない。どちらかというと、麗奈が好ましいと思う人物であった。「こんな人が居たんだ…」これが麗奈の最初の感想である。
「でも、お前が頑固で厳しいから今でも友達少ないだろ… 彼女もいないんだろ?」
健司の言葉に瀬尾は答える。
「別に友達もこれ以上いらないし… 彼女も必要ねーよ。 俺にはお前を含め必要な友達はもう十分いる。ただ遊んで楽しいだけの彼女も必要ないしね」
「やっぱり幸次らしいな… 絶対に俺らの言うことも聞かねーし… 大体お前の顔つきが怖すぎるんだよ」
「別に俺は怖い顔してるわけじゃねーよ。これが普通だよ」
「けど、健司,やっぱ立花さんて凄い綺麗だな。流石マドンナだよ」
「お前にしては珍しいな。あんまり女の子の顔とか批評しないのに…」
「普通に美しいものは美しいと言うよ。自然に言葉に出るくらい綺麗なんだよ」
健司も幸次にそう言われて少し嬉しかった。あの幸次が言うんだから凄い… 幸次は滅多に女の子を可愛いとか綺麗とか評価をしない。幸次が言うんだから相当なもんだろう…
幸次はいくら可愛い女の子相手でも、自分が興味を持てなければ何も気にしない… というか、優しくしない。
その後、話が盛り上がり、そろそろ帰る頃になって幸次は健司に言った。
「お前が何でわざわざマドンナと付き合ってるのかが判ったような気がする。お前が彼女のどこが好きなのかもな。お前は俺と一緒で顔だけで彼女を選ばないだろ? なのに何でマドンナと付き合ったのか最初はよくわからなかったがな…」
「顔以外で俺はしっかり彼女に惚れこんでいるとこはちゃんとあるんだよ。だから離せない…」
「そうだろうな。幸せにやりなよ」
そう言って、幸次は帰っていった。
俺の家に一緒に帰っているとき、麗奈は幸次の感想を言い始めた。
「見た目は違うけど、なんか健司君とよく似てる子だね。ちょっと頑固そうだけど…」
「俺もやつもそれは理解してるよ。だから、何も気にしなくても普通に仲良くやっていける」
「健司君にとっての大切な友達なんだね」
「だから麗奈にもぜひ一度会わせたかったんだよ」
「私も瀬尾君は凄くいい人だと思った。健司君以外で初めて好きになれそうな人だな…」
「あの~ 男として好きにはならないでね…」
「フフ… そんなの当たり前でしょ。人として好きになれるだよ」
麗奈はそう言ってほほ笑みながら悪戯っぽく俺にキスをした。




