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秋の体育大会




「健司~ 頼む! お願い… 」

「やだよ~ なんで俺が部活以外で走らないといけない?」


「俺の男がかかってるんだよ!」

「そんなの知らね~よ、裕子が悪いんだろ…」



直人が健司にお願いをしているが… 事の発端は昨日のホームルームの時間。もうすぐ体育大会なのだが、直人はかなり走るのが速いので毎年リレーの選手に選ばれる。健司も足は速いのだがサッカー以外では真剣に走らない。当然体育大会の時も毎年リレーにも参加しない。


裕子は健司たちとクラスが違い5組、健司と直人は4組。 以前から裕子には何かといい寄ってくる男がいる。陸上部の「阿佐田(あさだ)」という奴で、直人が彼氏なのを知っててそれでも近寄ってくる。裕子もウザいと思っているのだが、昨日のホームルームの時間に阿佐田が裕子に言った言葉から始まる。


「裕子、お前の彼氏はクラス対抗リレーに出るんだよね?」


「そうだよ。毎年出てるよ。直人のおかげで去年はぶっちぎりの優勝だったよ」


「俺たちが出てないから優勝できたんだよ。俺たちが出たら全然勝負にならね~よ」


この言葉にカチンときた裕子は、


「あんたらが出ても余裕で優勝だよ!」

売り言葉に買い言葉である。


「だったら俺たちが出て証明してやる。多分全然相手にならないと思うけど…」


「直人が負けるわけないでしょ!」


「だったら、もし負けたらどうするんだ?」


「あんたとデートだってなんだってしてやるわよ」



これが事の発端である。裕子のいる5組には、阿佐田以外にももう一人陸上部のやつがいて、二人とも短距離の選手である。特に阿佐田は陸上部のエースで、県でも5本の指に入る速さである。


阿佐田一人でも厄介なのに、陸上部員がもう一人いるのでこのチームに勝つのは絶望的だ。裕子は挑発にまんまと乗せられたのだ。このことを直人に言うと「勝てるわけねーだろ!」と直人に怒られたが、約束してしまったものはどうしようもない… そこで直人は健司に頼むこととなったが…


「健司よ~ 今日中にリレーのメンバーを決めないといけないんだよ… たのむ!」


「何で裕子はそんな約束するんだよ…」


「多分、俺が馬鹿にされたから裕子は切れたんだろ…」


「頼むよ、健司」


「まったく… しゃーねーな…」


「助かる、健司。恩にきるぜ」



そう言ってしぶしぶ健司は直人の依頼を受けた。健司がサッカー以外で走るのはこの学校で初めてである。体育大会のリレーは各学年クラス対抗で、男女混合で行われる。男8人、女8人の計16人で行われ、1人100mで、最後のアンカーだけは200mを走る。ちなみに、阿佐田と普通の男子が100mを走ると、30m以上の差をつけられる。阿佐田らには最初から余裕のアドバンテージがあることになる。


直人はリレー選手をクラス内から真剣になって選んだが、その最有力候補が健司であった。一度だけ、グランドで遊びで健司と競争したが、直人が本気を出しても笑いながら走る健司に余裕で負けてしまった。


それからは、体育の時間にバトンパスの練習や、走る順番の決定など打倒5組に取り組んでいた。直人の表情はいつになく真剣であるが、健司はあまりやる気がない様子…



体育祭の前日、麗奈は健司に家にお泊りに来ている。


「今年は健司君もリレーに出るんだ」


「直人のせいだよ… あんまり部活以外で走りたくないな~」


「今年は私も出るから一緒だね… えへっ」


「麗奈も出るの? 大丈夫なの?」


「健司君… 馬鹿にしてるでしょ? 私は結構運動は出来るんだよ」


「そうなの…」


健司は麗奈の意外な一面を見た気がした。


「私は3年だから、健司君たちが走ってるときはトラック内で待機中だね」


「そういえば、リレーって最後の種目で1年生から順番にやるんだっけ?」


「そうだよ、健司君が走ってるときはトラック内から見れるんで、凄く近くから応援できるよ」


「麗奈に応援してもらえるんだったら頑張ろうかな…」


―――――――――――


体育祭当日


朝から競技は開始され、どんどんプログラムは消化されていく。俺が出るのはリレー以外に借り物競争。借り物競争は午前の最終競技だったが、お題に書かれてあったのは…「美人な人」こんな女性差別のお題がいいのかと思ったが、俺にとって美人なんて一人しかいない。速攻で麗奈のいるクラスに行って麗奈をゲット。そのまま手を取って走ったが… 麗奈の足は結構速い。びっくりした。おかげで余裕の1位だった。



昼休みをはさんで午後の部となり競技も進んでいき、とうとう最終種目のクラス対抗リレーとなった。


「健司、絶対勝つぞ。裕子がかかってるんだからな!」


「分かってるよ。出来るだけはやるよ」


「そんじゃ 行くぞー!」

直人は気合十分でリレーに向かった。



1年生のリレーが行われている時に、阿佐田が直人を挑発してきた。


「悪いな、約束なもんで。この勝負に勝ったら裕子ちゃんとデートに行かせてもらうよ」


「勝ってから言え!」

直人は相当怒っている。


1年生のリレーが終わり、いよいよ2年生のリレーがスタート。順番は4組が直人が最後から2番目、健司がアンカー、対する5組は最後の2人が陸上部で阿佐田は当然アンカーだ。



スタートして序盤は直人らの4組が僅差で1位をとっていたが、中盤に5組に抜かれる。直人の前の走者が頑張り5組の走者とほぼ同時に直人はバトンを受け取る。現在1位と2位の争いになっている。直人も走るのは相当速いが、陸上部の短距離走者に勝てるはずもない。徐々に離されていく。それでも根性で粘り、5m差ほどでアンカーの健司にバトンを渡す。「健司、頼む」直人は必死に叫ぶ。健司はバトンを受け取った段階で1位の阿佐田と7m程度の差だった。流石に陸上部のバトンパスはうまい。健司はとりあえず追いつこうと必死に走るが… 


阿佐田も陸上部のエースである。まったく差が縮まらない。逆に付いて行ってるだけでも相当凄い。半分の100mあたりを通過するとき、


「健司君、負けるな!」


麗奈の叫ぶ声が聞こえた。近くを見ると麗奈が必死に応援してくれている。


(麗奈に負けるなと言われたら負けるわけにはいかないよね)


健司はここからさらに加速、もともと100mがメインの短距離走者である阿佐田はスピードが鈍ってくる。それでも、まさか近くにまで追いつかれてるなんて思っていなかった阿佐田は、一気に健司に抜かれていく。もしかしたら、健司は前半の100mよりも速く走っているかもしれない。とんでもない加速でさらにスピードを上げ大差をつけて1位となった。こうなることはサッカー部員の皆は大体わかっていた。


サッカー部員は本当の健司の速さを知っている。誰も全く追いつけない。健司は中学の時に体育の時間、本気で100mを走ったら、それ以来陸上部の顧問の先生に1ヶ月間勧誘され続けたので、二度と真剣に走らないと決めていた。



直人は大喜びして健司を抱きしめている。負けた阿佐田は「なんで?」という表情である。


「よくやってくれた健司、やっぱりお前は親友だ」


「俺のマドンナに負けるなと言われたら負けるわけにいかないだろ」


「だよな~」


直人は本当に嬉しそうに言った。


その後、3年生のリレーが行われ、健司は麗奈の応援をしていたが… やっぱり速い。麗奈は3位から一気に1位に近いところまで差を縮めていった。健司は麗奈の意外すぎる一面を見て何となく嬉しくなった。



体育大会が終わって、健司は麗奈と一緒に帰っている。


「健司君ってすっごく走るの速いね… 前から思ってたけど凄すぎる」


「俺の一番の自慢だからね。小さい頃からボールを追いかけていたら、いつの間にか速くなってたよ」


「私が助けを呼んだらあの速さで来てくれる?」


「もちろん、もっと速く行けるかも…」



そういって、健司と麗奈は笑いながら家路についた。



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