愛理との遊園地2
「それよりそろそろ順番だ。急流すべりを楽しもう。その服で愛理さんは水被っても大丈夫?」
「水被らないようにどうしたらいいの?」
「んじゃ、俺の言う通りにして」
俺は順番が来ると、愛理さんを前席に座らせ、水がかかりそうな場所を想定して防水シートを配置した。
スタートしてまずはゆっくりドンブラコ 何回か上下しながらやってきました最後の急流。一気に落ちていき最後に凄い水しぶき。防水シートのおかげで濡れずに最高の迫力を満喫できた。 でも俺だけ多少濡れた…
「面白かったねぇ~ すっごい良かった。おかげでひとつも濡れなかったよ。ありがとう健司君」
「面白かったね。次は何に行く?」
急流すべりでテンションが上がってきた。このままいったらやばい。俺は遊園地でテンション上がると周りが見えなくなっていく。このままだと愛理さんのことを忘れて突っ走っていく。でも、いいか。どうせ次はないし、やりたいようにやらせてもらおう。 時間がもったいない、次へ行こう。
スイッチの入った俺は、次のアトラクションを決め移動を開始、愛理さんがおろおろすると手を引っ張ってずんずん進んでいった。こうしていくつかのアトラクションを俺の本能でまわっていった。
そろそろお腹もすいてきて時間も1時すぎ、いまだに電話してこない直人らを見切って、
「ごめんね、引っ張り回して。お腹すいたよね、昼ごはんにしよう。」
と言ったが、妙に愛理さんがもじもじして照れている。 何で?と思って冷静になると、彼女の手をしっかり握っていることに気が付いた。
(やっちゃった-、この先どうしよう。土下座で許してもらえる… かな?)
パッと慌てて手を放し、「勝手に手をつないでごめんね」と、とりあえず謝った。愛理さんは顔を赤くしていたが、
「別に謝らなくていいよ。手をつないでおかないとはぐれちゃうしね。それにね、ちょっとドキドキする。」
俺もいろんな意味でドキドキしていた。(この様子だと殴られることはなさそうだ。ラッキ~)
「お昼ご飯何にしよっか? 愛理さんは何が好き?」
「もっと廻りたいし、早くて簡単にすむものにしよう。」
「そうだね。そんじゃ、ホットドッグでも食べてあとで小腹がすいたらクレープなんてどう?」
「それ最高だね」
混んでいる売店で人を押しのけホットドッグを購入し、さっさと食べて次へ向かう。
連絡がいつまでも来ないので携帯を見ると直人からのLINEメッセージがあった。
『 俺たちは深~い事情により、急遽帰ることとなった。最後まで付き合えなくて悪いが、後は頑張ってくれ 』
『 ちなみに、結城さんにも同様のメッセージが裕子より送られているので確認されたし。では 』
「愛理さん、自分の携帯でLINE見てみて」 俺がそう言うと 「?」という表情で携帯を操作する。
「どうやら俺たちは、裕子たちに捨てられたようです」 俺がそう言うと、愛理さんは呆れて
「気を使ってんのか、無責任なのかどっちなんだろうね?」 といってケラケラ笑った。
その笑顔は最高に可愛かった。
「そういえば、今携帯手にしてるんでLINE交換しよ。はぐれたときのためにもね。」
愛理さんがそう言ったので、
「そうだね」と言ってお互いのアドレスを交換した。
「それじゃ、午前中の約束通りお化け屋敷に行ってみよう」 と俺が言うと、
「そうしよう」と彼女はにこやかに笑った。
午前中の失態もあるので、午後は自分を見失わないように注意する。とりあえずスイッチを入れないように…
すると、いきなり愛理さんは手をつないできた。
「こうすると移動効率が上がって、早くアトラクションを廻れるんでしょ?」
愛理さんはクスクス笑う。
これは彼女からの好意なのか… または、午前中の軽はずみな行動に対する嫌がらせなのか… よくわかんないので「そ、そうだよ… 」 と言ってごまかしたが、体から汗が噴き出してくる。
意識があるときにこんな可愛い子に手をがっしり握られたら、心臓がバクバクして脳みそが沸騰しそうになる。 これは体に優しくない。
「お化け屋敷にいって… 次は屋内ジェットコースターに乗って… 」
俺は緊張をごまかすため、この後の予定を彼女に伝える。愛理さんは、
「うん、いいよ。そのルートで行こう」 と上機嫌で答えてくれた。
とりあえず、お化け屋敷。 と言っても俺には意味がない。俺を脅かそうなんて現在は不可能である。なぜなら…お化け屋敷に入る前からすでに心拍数は限界の180,これ以上あがりようがない。 どうだ、参ったか…
お化け屋敷に突入、作り物のお化けや時折発生する効果音を聞いても愛理さんはケラケラ笑っている。ある意味違う楽しみ方をしてる。後半に入った時、ふと何を思ったのか急に“キャッ”とか言って驚いて俺の腕にしがみついてきた。
何かアクションがあるたびに腕に強くしがみついてくる。そのたびに、何やら柔らかいものが腕に当たる。ふと顔を見ると、照れている表情をしていたが、お化けを怖がっている様子は皆無であった。その証拠に外に出ると、
「あー楽しかった、次行くよ」
と言って俺の手をぐいぐい引っ張っていった。こんな調子でいろんなアトラクションを巡って夕方になり、最後に「恋人たちの世界」である観覧車にのって締めくくることになった。
「愛理さんって、見かけよりもすっごい活動的なんだね」
観覧車にのりながら、今日一日を振り返って思ったことを言った。
「だから、遊園地が本当に好きだって言ったでしょ」 明るい笑顔で答える。
「でも、今日はいつもと違う感じで、いつもより楽しめたかな」 遠くを見つめて彼女は言う。
「愛理さんの横に俺がいても不釣り合いなんだろうけど、俺もすごく楽しかったよ。」
「不釣り合いなんてないよ。健司君はかっこいいし、それに私のそばに居てほしい人は私が決める。」
何だか真剣な表情で彼女は言った。
「そういってもらえると嬉しいよ。今日はいっぱい遊んで久しぶりに遊園地を堪能できた」
「ねぇ、また一緒に絶対来ようね。約束しよう。」
彼女は微笑んでいたが、どこか真剣な様子もあった。
観覧車を降りて遊園地を後にする。これから電車に乗って帰るが、遊園地からは彼女の方が家は近い。俺の家までは電車で30分ほど。
遊園地から駅に向かう途中も彼女は手をつないでいる。俺も手をつないで歩くとなんだか心が休まる感じがして心地よい。初めはあんなに緊張したのに… 今日は紹介という形で愛理さんと初めて会ったが、一番驚いたのは可愛さではなく彼女の人間性であった。
自分のことは自分で決める、探し物は自ら進んで探しに行く、そのための行動もいとわない、彼女ぐらい可愛かったら、もっと楽なやり方もあるだろうに、彼女は彼女の意志を貫く。
今日の収穫は最高に可愛い女の子と手をつないで遊べたことよりも、自分の意志を貫くことを目の前で見せられたことの方が大きい。ある意味、俺は男女の感情ではなく、人間として彼女を尊敬のまなざしで見つめる。
そんな眼差しに気づいた彼女はこう言った。
「今日はあなたにそのような目で見てもらうことが出来て、私は満足。私のことは少しわかってくた?」
そう言って、なんだか艶やかな微笑みで俺を見る。
「私も健司君のことをしっかり見ることが出来た。健司君は私が思っていた通りの人だよ。」
彼女が俺をどのように思っていたのかは分からないが、期待を裏切らずにすんで良かったと思う。俺も彼女を見習って、もう少し自分というものを持たないといけないと本当に感じた。
電車に乗り、やがて彼女が降りる駅に近づいてくる。彼女は、
「今日は本当にありがとう。最高に楽しかった。必ず連絡するからまた会ってくださいね。」
そう言われた俺は、
「こちらこそ何かと勉強させてもらった気分です。今日は本当に楽しくて有意義な日でした。俺で良かったらいつでも連絡ください。俺からも話したくなったら必ず連絡入れます。」
俺がそう言うと、彼女は両手で俺の手を包み込むようにしてしっかりと握った。
やがて駅に着き、彼女は「またね」といって俺に笑顔を見せて帰っていった。
今日がこんなに楽しい一日になるとは思わなかった。最悪の場合、彼女がしらけて途中で帰ってしまわないかなと心配もしていたんだけど、何とか彼女には喜んでもらえたようだ。
彼女と別れて、彼女のことを思う。「俺はあの子のことをどう思っているのかな?」今日一日を一緒に過ごしたのだが、何かよくわからない。顔は間違いなく可愛い。多分あの子以上の女の子は見たことがない。
しかし、それよりも人間性の面で受けた衝撃の方が大きく、そっちの印象が強く残る。 尊敬できる人で、何か力になってあげたいと思う人… それが今の正直な感想かな。とりあえず、明日は部活がある。疲れたので早く帰って寝よう。
家に帰って早めの晩御飯を食べて自分の部屋でくつろぐ。そろそろ風呂にでも入って寝る準備と思っていたらLINEにメッセージ。 見てみると立花先輩から。
『 健司君 今日はどうだった? 』
『 実際会ってみると、写真よりさらに数段可愛かったです。ほんとにびっくりして焦りました 』
『 それは良かったね (-_-;) 上手くいきそう? 』
先輩、言葉と顔文字が気のせいか合ってませんよ…
今日あったことをかいつまんでメッセージを何回か送っていると、他の人からのメッセージも着信。送り主は愛理さん。
『 今日は付き合ってくれてありがとう。健司君と知り合うことが出来て本当に良かったです。』
すぐに返信する。
『 俺の方こそ感謝してます。愛理さんのような可愛い人と仲良く遊園地で遊べたなんて、夢のようす。』
すると、また、他の人からのメッセージが着信。 送り主は直人。 見ようとしたときまた着信。今度は裕子。
さらに立花先輩からの返信も到着。 俺の携帯はLINEの受信音が鳴りっぱなしとなった。 みんなで俺をイジメてるのかい……
とりあえず、直人と裕子には、あの後は愛理さんと結構仲良くなれたことを報告して、明後日学校で詳しく語ると送信して、後は愛理さんと立花先輩とに、交互に返信を繰り返していく。愛理さんとはまた明日となって、最後まで残ったのはなぜか立花先輩だった。
最初はアバウトな質問だったが、だんだん内容が細かくなってきたので、
「先輩、通話にしましょう」といって、俺の方から電話をかけた。
「もしもし、今晩は 立花先輩。 そういえば初めての電話ですね」
「も、もしもし… 健司君、 今晩は ごめんね、わざわざ電話かけてもらって」
「やっぱ、先輩とは実際の声を聴いて話せるほうが俺も嬉しいです」
「私もそうだよ。LINEじゃどうしても言葉が短くなるしね… 」
ここから、先輩は紹介されてからの状況を事細かに聞いていった。女の人って恋バナがそんなに好きなのかな?と、思いつつもほとんど全て実際の状況を話していったが、午後からずっと手をつないでいたことはなかなか言いにくい。
仕方ないので、昼過ぎから混雑が激しかったので、時折手をつないで遊園地を廻っていたと先輩に話す。この話をしたとき、何故か先輩は10秒ほど沈黙していたので、電波状況が悪いのかなと心配していたら、急にひっくり返ったような声で
「よかったね、健司君」
と言われた。 最後に愛理さんとアドレス交換したことや、先ほど愛理さんからLINEが来たことなどを報告している時、何故か鼻をすするような音がしだして、声の調子も変わってきた。聞いてみると今日は花粉症がひどいらしい。
ただ、電話で直接立花先輩と話す機会を得られたので、水曜日の創立記念日に遊園地に行く予定を立てようと思った。 それに一つお願いしたいこともある。
「立花先輩、実は水曜日に行く遊園地の件なんですが… 」 話の途中で先輩は、
「わ、わかってるのよ、キャンセルしたいんだよね?」 と、ひどい鼻声で言ってきた。
「違いますよ。先輩にお願いしたいことがあって… その日はまる一日時間をとって貰えませんか? 出来たら、晩御飯も一緒に食べたいと思って…… 」
最近立花先輩のことが気になりだしていた。あの無邪気に笑う顔が忘れられない。今日、愛理さんと遊んでいた時にも、不意に立花先輩のことが頭に出てくる。出来るだけ一緒に居てこの気持ちを確かめたい。
「へッ、そうなんだ。 その日は両親も仕事で遅くなるから結構遅くまで大丈夫だよ。気にしなくていいからね」
「それじゃ、お言葉に甘えて9時位に待ち合わせして10時には遊園地で遊べるようにしましょう。先輩、無理を聞いていただいてありがとうございます。」
「お礼なんていらないよ。私も遊園地をたっぷり楽しめるしね。水曜日が楽しみだね」
「では、夜も遅いんでそろそろおやすみなさい。」
「うん、おやすみなさいね」
こうして通話は終わった。 気が付けば11時、早く寝ないと明日の練習がやばい。