最後の賭け
それから二週間が経過した。流石に二人の周囲の人全てがおかしくなっていることに気づいている。学校内にもいろんな噂が流れ始めた。麗奈の表情は1年前の無感動な表情に戻っていた。みんな麗奈から一定の距離をとって見守っている。完全に学校のマドンナとしての麗奈に戻っていた。
栞や沖本が何度か話しかけてみたが、麗奈はほとんど喋らなかった。一週間前の麗奈の表情は暗く、魂の抜け殻のような感じであったが、ここ一週間では何か落ち着いた表情になってきている。ただ、決して笑うことは無い。最近は麗奈の強い意志が感じられるようになり、余計に周囲の者は話しかけれなくなっている。
一方健司の方もその様子は変貌している。直人や裕子の助けも借りようとせず、一人じっと考え込んでいる。あの明るくて活発だった健司の面影はない。直人と裕子はただ近くから健司を見守っていた。
部活も休みがちになり、毎日家に帰っては部屋に閉じこもっている。流石に健司の両親も異変にすぐ気が付いた。あれだけよく訪れていた麗奈がある日を境に一度も来なくなったからである。両親はすごく悲しんでいたが、2人が決めることだと思い、健司には何も言わなかった。それは麗奈の両親も同じであった。
「健司と麗奈さん、いったいどうなってんだよ…」
直人がそう言うと、
「健司は愛理に何か言われてそれを守っているみたい…」
裕子が言った。
「健司ね、愛理に相談したみたいなの… 何をどう話したのか詳しい内容は愛理も教えてくれなかったの」
「ある日突然別れましたってあり得ないし、別れる理由も思いつかないよ。裕子もそうだろ?」
「私もそう思う。修学旅行から帰ってきたら突然… そんなんだもんね」
「裕子、俺たちにできることってないかな… やっぱ、力になってやりたいよ…」
「愛理にはやめときなって言われてる。私たちが気を使って余計なことをしない方がいいと…」
「でも… それでも嫌なんだよ… あいつを放っておくのが…」
「私だって同じだよ… 健司だけじゃなく、今は麗奈ちゃんも大切な人だし…」
―――――――――――――
「沖本君、健司君に何か聞いてみてくれない?…」
栞は沖本にそう頼んでみた。
「ちょっと前に、さすがにどうなってんのか健司に聞きに行ったんだがな… 今は健司もだめだ…」
「私と沖本君をくっつけてくれてた時の麗奈ちゃんの表情とはまるで変っちゃったね…」
麗奈に沖本とのことで力になって貰った藤本も心配そうに言った。
「サッカー部の練習後に4人でいたときには、あんなに楽しそうだったのに…」
藤本は以前、4人で行った喫茶店でのことを思いだす。
「立花の今のあの表情、俺たちは見守るしかできないんじゃないのかな…」
沖本も悲しそうに言った。
―――――――――――
私は健司君と離れてから色々と冷静に考えてみた。もし、私がこのまま健司君と何も考えずに一緒に居ると間違えなく私は一日たりとも健司君と離れられなくなる。でもそんなことは現実的に不可能だ。その時、私はどうする? 自分の事ばかり考えた場合、行きつく答えは一つ,
健司君を永遠に独占する,すなわち共に死ぬこと。
それだけはどんなことがあってもしたくない。そうならないためには? 答えは簡単だ、私一人で死ねばいい。それも方法の一つなんだろう… 私は死ぬことをさほど怖いとは感じない… ただ、それが本当にしたいことではない。
今は辛い、多分今まで生きてきた中で… お父さんが失踪した時より… 死ぬよりもつらい… でも、健司君のことを考えると死ねない… 死にたくない… 私がいなくなれば健司君はどうする? それだけが不安だ。
何度も何度も自分に言い聞かせたのに、自分の心に結局は勝てなかった。初めての敗北だよ。
今まで誰にも負けたことがなかったのに… まさか初めて負けた相手が自分の心だなんて…
やっぱり私はマドンナではない
健司君、私ね… もう限界なんだ… 弱い人間で… 本当に … ごめんなさい
だからね、最後に賭けを… 願いを賭けてみようと思う。
もし私がこの賭けに勝ったらどんなにつらくても健司君の言うことを聞く。決して死なない…
最後に健司君に決めさせてごめんね…
私はあなたと会えて本当に幸せだった…
短くても一生分の安らぎを与えてくれた
本当に愛してる… 出会えて本当に良かった……
この気持ちは一生変わらない…




