結城 愛理
私は小さいころから可愛かった。親にも、周りからも可愛いと言われて大切にされてきた。小さいころはなんで可愛いっていうのかは全く分からなかったが、ただみんな優しくしてくれるのが嬉しかった。
中学に入り、「男子と付き合う」というのが女の子同士の話題でも多く出てくるようになる。私はそのころからよく告白されるようになっていた。初めは好奇心もあり何人かと付き合ったが、ほとんど長続きはしなかった。
みんな、私と付き合い始めると私の機嫌ばかり気にしてくる。付き合ってほしいというからには、その後の目標なんかがあるのかなと思っていたが、付き合う事自体がゴールのようであった。何か面白くなくなってきた。
私は小さいときから負けるのが嫌いで、悪口を言われても黙っていられない。思ったことはすぐに行動に出てしまう。中学2年のとき裕子と知り合った。裕子の男っぽい性格は私と相性が凄く良かった。
それからも告白はされるが、あまり変わり映えのしない人達が多かった。中には少し気になった人もいたが、少し付き合うと自分の思っているのと違うことに気づいてしまう。興味があったのでキスもしてみたが、その後もしたいと思わせる人はいなかった。
3年生になったとき、ふと気づいた。自分に言い寄ってくるような連中は同じようなタイプが多い。本当に自分が求める人を探すなら、自分から表に出なければいけない。それからは積極的に自ら出会うきっかけを作っていった。それでもなかなか見つからない。やっぱり私の顔のみを目的として見ている人が多かった。
高校に入学して私の人生に大きく影響を与えた出来事があった。今でも、これからも絶対に忘れないと思う。高校に入学して同じクラスの数名とすぐに仲良くなった。私の高校は女子高で、割と親もうるさい人が多い。
友達の一人が紹介で彼氏ができた。ひとつ上の年上の男の子で、彼女は大喜びだった。それが、彼女にとっての初恋であり、初めての彼氏であった。二人は急速に仲が良くなった。
私達もみんなで応援した。一度彼氏を見たことがあるが、凄く優しそうでいい人そうだった。やがて、彼女と彼の付き合いは深くなっていったようだったが、ある時学校に来た彼女の頬は赤くなっていた。
門限が厳しい彼女はたびたび門限を破るようになっていた。私達も協力しようとなって、嘘で彼女が私の家に泊まっていると言ってあげたりした。そして彼女の行動はどんどんエスカレートしていった。結局、最後には数日だが家出をした。
無理矢理家に連れ戻され、数日ぶりに学校であった彼女の顔は今でも忘れられない。まるで生気を感じない死んだような顔… しかし、ある日の放課後、彼氏が無理をして彼女に会いに来た。その時の彼女の目は普通ではなかった。まるで中毒になった薬物を与えられたような喜び方、私はその顔を見て怖くなった。
結局、彼女は無理矢理その彼氏と別れさせられたが… その後、転校していなくなった。真実は自殺未遂を起こして、精神的に病んでしまったそうだ。 どうして彼女はそこまではまってしまったのだろう… そんなことをふと考えてしまっていた。
あの優しそうな彼氏相手に… 私よりも仲の良かった友人の話では、彼女はその彼氏の優しさにどっぷりはまってしまい、それなしでは生きていけなくなっていったようだった。
でも、私は思った。彼女はどうしてそんなに弱いの? もっと大事な先を得るなら、今のほんの少しの我慢がどうしてできないの? 私には意味が分からない…
しかし、私はもう一度彼女とよく似た人を見ることになった。それが麗奈ちゃんだ。麗奈ちゃんが健司君のことを語るときの目は、どことなく精神を病んだあの子に似ている… そう感じた。 私は健司君を通して最初は麗奈ちゃんとライバルとして出会った。次に同じ人を好きに思う共感できる友達となった。今は麗奈ちゃんが一番辛いときに相談される相手にまでなった。
もう昔みたいな体験はしたくない… あの子のような行動をとればどのような結末を迎えるか知っている。あの子の場合は障害が親だった。麗奈ちゃんの場合は二人の距離だろう。距離だけはどうしようもないし、そんなことを言っていたら、どのみち社会生活などやって行けない。すなわち、社会的に死んだ人となる。
あの子の彼氏も優しかった。彼女はそれに引きずられた。 健司君は優しい… 麗奈ちゃんもそれに引きずられてる。
だけど麗奈ちゃん、あなた自身が強くなっていつかはあなたが健司君を引っ張って行けるようにならないと… この先は無くなるんだよ…
私は健司君のことが好き。出来れば健司君に私の元に来てほしいと思う。ただ、麗奈ちゃんが壊れた結果、私が健司君を引き取る… それだけは嫌だ。
今は麗奈ちゃんも私の大事な友人。私と健司君が付き合えるのは麗奈ちゃんか健司君が自分の意志で離れた場合だけ… 人の不幸によって得られる幸運など欲しくもない…
健司君が麗奈ちゃんを見捨てないなら私も見捨てない。私も全力で麗奈ちゃんを救いに行く……




