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愛理への相談



修学旅行から帰ってきた翌日、俺たち2年生は休日である。麗奈に買って来たお土産もあるし、今日はどうしても麗奈に会いたい。本当は土産なんてどうでもいい… 俺も麗奈に会いたい…


放課後になった時間を見計らって、俺は麗奈に電話をかけた。


「もしもし、麗奈 今日少しでも会えないかな…」


「ごめん… 健司君 今は会えないんだ。受験勉強も忙しくなってきたしね。会えるようになったら必ず電話する」



そう話してた麗奈の声は、以前とは全く異なっていた。俺には全く理由がわからなかった。俺たちに何も問題は無いはずだ… 受験勉強も確かに大事だけど、その理由だけで俺と会わないなんてことは麗奈なら絶対にない。一体どうしたんだ… 麗奈



俺は知らぬ間に麗奈に嫌われたのかな…

今迄に思ったことのないような感情がこみあげてきた。どんどん膨らんでいく不安な気持ち… 


麗奈はいつも俺のことを思ってくれていると思っていた… どんな時でも傍を離れないと言ってくれていた… 何故?


意味が全く分からない… 誰か教えてほしい… もっと麗奈に優しくすればよかったのか… 俺は部屋の中で一人落ち込んでいた。 こんなのは人生で初めての経験だった。


誰かに相談したいとも思ったが、直人や裕子に相談するのも違う。もっと麗奈のことを知る人…


本当はこんな相談をして迷惑ばかりかけるのは嫌なんだけど… 俺には愛理さんしか思い浮かばなかった。いつも愛理さんの好意にばかり甘えて、俺は何も彼女に返せていない… だけど… 今の俺にはそんなことを言っている心の余裕もない…



俺はその夜、愛理さんに連絡を取って明日会う約束をした。





次の日

放課後、愛理さんの住んでいる街に向かう。指定された場所に行くとすでに愛理さんはいた。



「取り敢えず、あそこの店で話を聞くわ」


そう言って俺たちは、小さな喫茶店に入った。


「まず、どんなことがあったのか時間を追って話して」


この言葉から二人の話は始まった。


俺はこの前、愛理さんと麗奈と3人で会った時から麗奈に変化が表れたこと,その後麗奈が俺に言った言葉、俺に対する態度を細かく説明した。特に修学旅行前後の事は詳細に伝えた。



「麗奈ちゃんはだいぶ変わっては来てたんだね…」


「俺もそう感じてた。しかもいい方向に…」


「それで… いきなり修学旅行が終わって帰ってきたら別人のように…」


「俺、何が何だかわからなくて…」


「修学旅行中の電話は、最初は普通だったんだよね…」


「いつもと変わらなかった。楽しそうに話してた」


「それで… 帰る前日ぐらいから変になりだしたんだね…」


「最初は少し元気がないな… 程度だったんだけど…」


「結局、帰ってきた日も今日も麗奈ちゃんは健司君に会わないってことなんだよね…」



愛理はその変化に一番注目した。実際に健司と会っている時ならまだしも、離れている間に…


「なんとなく分かった… そうか… 麗奈ちゃん…」


愛理さんは真剣な表情をしていたが、何故か目を潤ませていた。


「健司君、しばらく麗奈ちゃんに近寄っちゃだめだよ」


「どうして… 俺は彼女が悲しんでいるのが一番堪えられない… 」


「でも耐えて… 今は麗奈ちゃんを信じてあげて…」


「何が原因なんだ、俺に教えて…」



健司も少し取り乱している。そんな健司を見て愛理はさっきより悲しそうな表情になる。


「健司君、こうなった原因の大部分はあなたにあるのよ」


「俺に原因があるのは分かっている… でも… それが何かが…」


「麗奈ちゃんはあなたに愛されたいと思い、それを知ったあなたは麗奈ちゃんの期待に応えようと彼女が望む以上に麗奈ちゃんのことを愛した… それ以上を知った麗奈ちゃんはもっと欲しくなる… そんな関係で、これからどうやって生きていくの… 健司君」


「来年、麗奈ちゃんが卒業しても、今以上をどうやって続けるつもり…」


健司は何も言えなかった。そのことは分かっていたのに… 何とかなるとしか…


「多分、麗奈ちゃんはそれに気づいて、今必死で戦ってるんだろうね…」


そう言って、愛理さんは涙をこぼした。


「辛いだろうね… 麗奈ちゃん…」


「そんなに困っている麗奈を俺はどうやったら助けてあげれる」


そういった時、愛理さんは激しく俺に言った。



「健司君のその優しさが… 麗奈ちゃんを追い詰めてるのよ! 優しけりゃいいってもんじゃないのよ!」



俺はその勢いに完全に何も言えなくなった。


「麗奈ちゃんはね、本当はマドンナなんかじゃないの。本当は普通の女の子よりもっと甘えん坊な子なの」


「甘えることが出来る人がどこにもいなかったから、誰にも甘えられなかっただけ…」


「だから、誰にも頼らない、誰も近寄らせない、誰も信じない、他の人から見れば孤高の美人、それが立花麗奈というマドンナをつくったのよ」


「麗奈ちゃんの話を聞いててよく分かった。やっと現れた麗奈ちゃんを癒してくれる存在、それが健司君…」


「でもね、癒しもやりすぎると、もっと、もっとってなってくる。まるで麻薬みたいに… 麗奈ちゃんはそれにはまって依存するようになる…」


「前にね、健司君と話した時に言えなかったことがあるんだ。麗奈ちゃんの本質は優しさに依存したい… そんな感情が彼女の本質なのよ。メンヘラって聞いたことある? その依存から抜け出せなくなった人達のことを言うのよ…」



「優しさはね… 自分が相手に与えられる分しか受け取っちゃダメなの… 与えてもだめなの…」


「そのバランスが崩れると一方通行になっちゃうのよ… それに麗奈ちゃんは気づいた…」


「だから、今麗奈ちゃんは必死に健司君の優しさを受け取らないように頑張ってるの… 」


「それがどれだけ辛いか… 健司君に分かる?…」


「健司君は理想的な男の子だよ… 優しくて、気持ちを汲み取ってくれて、誠実で、明るくて…」


「でもそれが麗奈ちゃんにはだめなの… 麗奈ちゃん自身が感情をコントロールできない限り…」


「今ここで健司君が麗奈ちゃんに優しくしたら終わりだよ… もう麗奈ちゃんは普通に戻れなくなるよ…」


「それでも健司君は麗奈ちゃんに… やさしくするの…」



俺はもう何も考えられなくなっていた… 優しさが人を壊していくなんて…


「本当はね、こんなこと言いたくなかったの… 私も健司君のことが好き… でもね、麗奈ちゃんが壊れると知ったら、絶対健司君は止めようとしに行く… そして失敗した場合には… 麗奈ちゃんが生き続けると思う?…  麗奈ちゃんがいなくなったら… 健司君はどうする?… 」



はっきり言って、麗奈がこの世からいなくなったら… 俺には生きている意味がない… 生きれる気がしない…


愛理さんは泣いていた。あの強気で明るく聡明な愛理さんが…  初めて見た…



「麗奈ちゃんは多分今が限界、彼女もそれを分かってる… もしここで立ち直ることが出来なかったら…」


「俺は… どうしたらいいんだ?」


「麗奈ちゃんを待ってあげて… ただ じっと…」


「麗奈ちゃんが健司君の前に現れたら… 彼女の言うことを聞いてあげて」


「麗奈ちゃんが克服できてても、出来ていなくてもそれしかない… 私たちにできることは無い…」


「健司君、私に恩があるよね… 私の願いも一つぐらい聞いてくれるよね?」


「ああ 言ってくれ…」


「何があっても死なないで! 必ず生きて!… この先も私に元気な顔を見せて!」


「わかった、約束する」



ごめん、愛理ちゃん… それは無理だ… 

麗奈がいなくなるんなら… 俺もいなくなる…

その約束だけは守れない。


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