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愛理との通園地1

  次の日の土曜日。


昨日の夜に直人から連絡があり、当日は午前11時に遊園地の最寄駅に集合とのことだった。俺は電車に乗り遊園地へと向かう。どんな格好が良いか迷ったが、どうせ何を着ていっても霞むことには変わりないんで適当にパンツとお気にいりのTシャツ、その上に薄手のデニムシャツを着ていった。


そこそこかわいい程度の子であれば、可能性もあるので真剣に取り組むが、今日紹介される彼女はそういうレベルを超越している。もはやお話にならない。 諦めというか…


変な意味で笑えてくる。 そもそも本来ならルンルン気分で立花先輩と、この遊園地に遊びに来ているはずだったのに、なぜフラれるためだけに同じ遊園地に向かわねばならないのか…… そういえば橘先輩から今朝LINEが来ていた。


履歴を見ると受信は午前5時。内容は『 今日は頑張ってくるんだぞ!(ToT) 』。 立花先輩,早起きしすぎじゃないですか? あと、励ましの言葉の後ろに涙の顔文字って最近の流行ですか? 

なんだかよくわからないが、せっかく連絡をくれたので俺も今のうちに返事をしておく。


『 今日よりも、水曜日に先輩と行く遊園地の方を楽しみにしてます。』 

するとすぐに返信が…


『 私と遊びに行くのは、そんなに楽しみ?』


『 もちろん! 先輩とは自然な感じで話せるし、あと趣味もあいそうだし、 絶対楽しく遊べると思います。 』


ほんとは、この前見た先輩の無邪気な表情がもう一度見たいし… という言葉を送りたかったが、恥ずかしいので我慢しておいた。あの表情は胸にキュンとくる……


『 とりあえず、相手の女の子にも失礼の無いようにみんなを楽しませてね 』

 やっぱ先輩は大人だ。しっかりとしたことを言ってくれる。


『 分かりました。とりあえず頑張ってきます 』

そういって会話を閉じた。


初めて立花先輩と遊んだ時から何となく感じている… なぜか先輩のことが気になる…… 先輩も少しくらいは俺に好意を持ってくれているのだろうか? いつか確かめてみたい気もする……


予定の10分前に待ち合わせた駅に到着して、あたりを探すと既に直人と裕子、そして噂の彼女も来ていた。


「健司、こっちだ。これでみんな集まったな。 裕子、健司に紹介してあげてくれ。」


「えっと、この子は『 結城()() 』ちゃんです。私の中学時代の同級生で、今は聖神女学院の2年生だよ」


「初めまして、結城愛理です。 裕子ちゃんとは中学の2年と3年のとき一緒で、今でも仲の良い友達です。」


「それから、彼が同じ高校の鈴木健司君。同じ2年で私と直人の親友だよ。」


「初めまして、鈴木健司です。裕子とは1年の時からの友人です。」


キュロットに白いブラウス姿の彼女は、携帯に送られてきた写真で見るよりも、さらに可愛かった。ほんとに “雑誌モデルでもやってるんじゃないか?”と普通に思う。

 

俺が見て来た同じ年の女の子で、彼女より可愛い女の子を見たことは無い。身長は160cmぐらい、肩ぐらいまでのややショートヘアで大きく愛らしい目、小さくて柔らかそうな唇は思わず触れてみたいと思うほどに魅力的である。 


また、写真ではよくわからなかったが、スタイルは抜群で、出るところと引っ込むところの強弱は最高のバランスである。


(ここまで可愛いと、もはや芸術品だな。 裕子,なんか俺、生きてるのが恥ずかしくなってきたぞ。)


紹介されている時、直人はこっちを見てニヤニヤしていた。 直人、お前も同じ男だったら今の俺の気持ちが分かるだろ? 紹介された彼女がこのレベルまで可愛くなると嬉しいを通り越して“やばい”に変わる。昨日、写真を先に見せてくれてて良かった。 今日いきなり彼女を見せられてたら10分ぐらい固まってた。


とりあえず、紹介も終わりみんなでチケットを購入して遊園地に入る。 施設のアトラクションをマップで確認して、どのような順番で行くかみんなで検討する。 俺としては絶叫マシン×3回が理想なのだが、そんなことを言える空気ではない。 どれから廻ろうか無難なところを考えていると、結城さんから話かけられた。


「鈴木君って、遊園地で一番好きなのはなに?」


「絶叫マシン一択です。あと、ゴーカートとかわりかしスピードの出るものだったら大体好きかな。」


「私もジェットコースターとか大好きだよ。結構やばいやつでも平気。でもね、コーヒーカップみたいにぐるんぐるん回転させられるのは苦手。一度だけ本気で気分悪くなっちゃった。」


そういって、彼女はクスクス笑っている。 その表情を見ると紹介された時よりもさらに可愛いく見える。


「ベタな質問なんだけど、お化け屋敷とかは?」 俺が聞いてみると、


「だって、あんなの作りものでしょ? 夏場は涼むためによく行くけどね」 案外ドライな答え。


「だったら、昼を過ぎて暑くなってきたら行ってみようか?」俺は本当に怖くないのか試してみたくなった。


「うん、いいよ。」 あっさりと答える。


とりあえず、最初は俺と彼女のリクエストにより最も迫力のあるジェットコースターに決定した。 

俺がジェットコースターを押したのは、ただ好きだからだけではない。もう一つの楽しみがあるからである。


「じゃ、みんなで行こう。早くいかないと並びがきつくなる。」 

俺がみんなにそううながす。


「そうだね、早く行こう!」 

結城さんもノリノリで続く。


「よっし、じゃあジェットコースターから行ってみよう!」 

裕子もやる気満々。


「ん、やっぱりジェットコースターから行くのか?」 

一人だけ気乗りしない直人。


どうだ、直人、この空気で嫌とは言えないだろ? さっきから俺を見て余裕こいてニヤニヤ笑ってた仕返しだ。


直人はいわゆる絶叫マシンは大の苦手である。高校1年の時に一回だけ一緒に乗ったきり、二度と乗っている姿を見た事がない。しかし裕子も厳しい彼女である。あいつは直人が苦手なの知っててやる気全開のようだ。俺ですら、あの時の経験から直人を二度とジェットコースターに誘わないのに…


裕子、少しはいたわってやれよ。


順番待ちの列に並び、少しずつ俺たちの乗る順番が近づいてくる。それに従って直人の顔色は青くなっていく。それを見て、俺は肩を震わせて笑う。そんな俺を結城さんはキョトンとした不思議そうな表情で見る。


「鈴木君、何が面白いの?」 

結城さんが俺に尋ねると俺は、


「あとで教えますよ」 

と小さな声で彼女にささやく。 笑いを抑えようとするけれど我慢できない。


いよいよ俺たちが乗る順番、結城さんの表情は期待感でわくわくしているのに反比例して、直人の表情はお通夜の状態となっている。そしてスタート。 このジェットコースターはいわゆる“宙吊り”のやつで、座席にすわるやつではない。カーブするたびに足が右へ左へと振られる。あまりの回転の激しさに俺でも少し恐怖を感じる。


で、あっという間に終了。 迫力は満点であった。 そしてお約束通りというか、期待通りというか、直人の魂は身体から分離されたようだ。 直人の亡骸をベンチに寝かせて、魂が戻ってくるのを待つ。 俺は結城さんに言った。


「さっき、順番待ちの時に笑っていたのはこのことです。」  

俺は肩を震わせて笑っている。


「そういうことだったのね。クスッ」 

結城さんも気まずそうな顔をしながら結構笑っている。


「直人、あれぐらいでこんなことになってどーすんのよ!」 

裕子はマジになって怒っている。


裕子、もう少し自分の大事な彼氏には、いたわりの心を持ってあげようね。今のお前は鬼だよ。 


と、思っていたら急に裕子が、


「直人がこの状態だから、二人に悪いんで別行動で他のアトラクション楽しんできて。」 と言った。


しまった! 分かってたのにやっちまった。 直人を潰したら必然的に二人っきりでの行動になってしまうことを忘れていた。 そんなの緊張して死ぬ。俺の笑顔は急速に消滅して、何故か体が硬直してくる。


結城さんは、

「そんなの気にしないで。直人君の具合が良くなるまで一緒に待とうよ。」 といった。


 結城さん優しい。別の意味も込めてナイスな発言。俺もすかさず裕子にこう言った。


「5分くらい休めば、歩けるようにはなるだろうから、それくらいは待っててもいいんじゃないかな。」


すると、ようやく覚醒してきた直人が、


「すまん。もうしばらく復活は無理だ。俺と裕子はしばらくこの辺で休んでるから二人で楽しんできてくれ。」


そう言って、俺にしか見えない方向に顔を向け舌を出して笑った。 裕子はすかさず、


「そうだよ、直人の言う通り二人に悪いから自由に楽しんできて」 

と言って、俺の方を向いて微笑む。


やられた。これ全部芝居だ。 ジェットコースター乗るときから仕組んでやがった。はめられたのは俺だ。


「じゃ、仕方ないから他のアトラクションに行こうか、鈴木君」 

結城さんが言う。


「昼ごはん時には必ず連絡入れるんで、自由に行ってきてね」 

裕子はそう言ってバイバイをしている。


「それじゃ、行ってくるね。行こう、鈴木君」 

結城さんは俺の方を向いてそう言ってほほ笑んだ。


超可愛い結城さんと二人で楽しいなぁ~ 周りからも、羨望の眼差し,ゴミを見る眼差し,イタイものを見る憐みの眼差し,悲しそうな眼差しなど、今までにないないくらい注目されて嬉しいなぁ~ 身体も今までにないくらいにがちがちに固まって、強度が増して嬉しいなぁ~


などと感じながら二人で次のアトラクションへ向かう。 相談した結果、次は急流すべり。 二人ともやはり派手なアクションを求める。


「そういえば、裕子の彼氏のこと直人君って名前で呼んでるんで、鈴木君のことも名前で健司君って呼ぶね。私のことも名前で読んでね。」


「それじゃ遠慮せず、急流すべりで水をかぶりに行きましょうか? 愛理さん」


「はぁ~い 健司君」 彼女はご機嫌に答えた。


「私ねぇ~ 遊園地大好きなんだ。 今日も裕子に頼んで遊ぶところは遊園地にしてもらったんだ。」


「そんなに好きなの? 俺も遊園地,というより派手なアクションの乗り物が大好きなんだ。」


「健司君とは乗り物の趣味が合うから、一緒に楽しく遊園地で遊べるね。」 顔がほころび、笑顔があふれる。


「そういえば気になってたんだけど、愛理さんはほんとに彼氏いないの?」


「私の方こそ裕子から写真見せてもらって思ってたんだけど、健司君はほんとに彼女いないの?」

二人とも同じ質問をお互いにしたので、二人して笑ってしまった。


「俺はともかく、愛理さんは俺が今まで見たことのないような可愛い人ですよ。ほら、周りからあなたを見る視線が結構あるでしょ?」 そう言って、彼女の視線を周囲に向けさせた。


「はずかしいな、確かによく告白とかされるけど、やっぱり自分が好きになれる人じゃないと付き合えないな。」


「それにあんまり周りから興味本位でじろじろ見られるのは本当に好きじゃないんだ。 てか、むかつく…」

   ( あれ、愛理さん,なんか怖いんですけど… )


「健司君は告白とかされないの? かっこいいのに… 」


「たまにあるけど、あんまり告白されるのって好きじゃないんですよ~」

いかれた女に告白されて粘着されやすいなんて、恥ずかしくて死んでも言えない…


「私ね、どちらかと言うと自由にしたいんだ。好きな人は自分から探しに行きたい。だから、私に告白するのは無意味だと思ってるんだ。告白されても私はその人のことを何も知らない。興味があれば自分から行ってますってね。 えへっ」


彼女は屈託のない笑顔で笑いながらはっきりとそういった。彼女に彼氏がいない理由が少し理解できた。しかし、あなたの興味を引くなんて、スカイツリーぐらいハードル高くないですか? 常人では不可能ですよ。


「この際だから、ほんとのこと言っちゃうと、今日来たのは裕子から聞いた健司君の人柄に興味を持ったからなんだ。あと、正直に言うと写真で見た顔や表情がなんとなく可愛いと思っちゃって。何か性格が顔に出てるような感じがしたよ。」 


彼女はうつ向いて顔を赤くしながらそう言った。


「私はちゃんと説明したんで、今度は健司君の番だよ。 健司君はどうして今日来てくれたの? なんで彼女をつくらないの?」


はっきり言って焦った。ほんとのこと言うと、今日来た理由は勝手に直人が仕組んだから。何で彼女をつくらないのか? 理由はアレな女に追い回されていたから… でもこれは言えない。 仕方ないんで、漠然と感じていることで答えよう。


「今日来た理由は、今までに会ったことのないタイプの人と話してみたかったから。それと正直に言うと、愛理さんみたいな可愛い人見たことなかったんで、本当に目の前で見たらどんなんだろうって興味を持ったから。こんな理由って愛理さんにしてみたら、むかつくかもしんないね… ごめんね。」


「んで、彼女を作らない理由… ていうか彼女が欲しくないわけじゃないんだよ。ただ、彼女にするんだったらせめて、お互いに思いやりを持てる相手じゃないといやだなっていうこだわりかな。そうじゃないと長続きしないよね? もし俺に彼女が出きたら、俺が一番の彼女のよき理解者になりたい。」


大体嘘は言ってないと思う。 ま、あんまり変に悩まなくても良いか。 多分気に入られることもないからね。


「やっぱり健司君は裕子の言っていた通りの人だ。 間違いない。 今日は来てよかった。」


そういえば、何かと裕子から俺のことを聞いているようだが、裕子,お前何言ったの? 変なこと言ってないよね?




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