二人っきりの家
8月 お盆期間 1日目
今日から5日間、麗奈は俺の家に泊まる。理由は俺の両親は毎年母さんの実家に帰る。俺は部活があるので最近は帰ってないが、俺が一人になるので母さんが「麗奈ちゃんに頼もう」と言って麗奈に家に泊まるようにお願いした。そんな依頼を麗奈が断るはずもなく、二つ返事で「分かりました、任せてください」といった。
俺が麗奈の両親は何も言わないのと言うと、「一緒に暮らす時の練習になるから」といって「頑張ってこい」と言われたらしい。
俺以外の人たちの認識は共通しているのだが、何故か俺だけがおかしいと感じるのは何なんだろうか…
「今日から5日間はあたしが健司君の面倒全てを見るからね」
麗奈がそう言って張り切っている。
「何かとおねがいするよ。けど、麗奈も勉強は大丈夫?」
「健司君が部活に行ってる間にできるよ。だから大丈夫。健司君と同棲… へへッッ」
なんか変な笑い声が混じってません? でも麗奈にはお世話をしてもらうので有難いと感謝しよう。
「今日は部活もないんで、買い物とかも一緒に行くよ」
「嬉しいな… 何か結婚してるみたいで…」
「まだ結婚はできないけど、将来の練習にはなるかな…」
俺がそう言ったので
「健司君から結婚して欲しいっていわれちゃったぁ~ どうしよぉ~」
ひとりで盛り上がっているので、幸せを壊すのも悪いと思いしばらくそのまま放置しておいた。
そう言えば、最近の麗奈の感情は以前よりもだいぶ安定している。付き合いだしたころは、俺の何気ない一言でもすぐに泣きだしたりしていたが、最近ではそんなことは殆んどない。俺の近くに女の子がいても今では以前のように怒りをあらわにすることもない。それに俺が甘えると凄く優しい表情をしてくれる。おかげで俺ももっと麗奈のことを好きになることが出来る。これで良かったんだろう……
取り敢えず、昼食や夕食のための買い物に行くことにする。近所のスーパーまで麗奈と手を繋いでぶらぶら歩き、カートを押して買い物をする。
「健司君、何か食べたいものは?」
「これから毎日のことだから、麗奈の作るものなら何でもいいよ」
「それはそれで困るのよねぇ」
「麗奈の得意料理とかは?」
「それで行ってみようかな」
結構いろんなものを買って家に帰ってくる。
今日からはたっぷり時間があるので二人で色んなことが出来る。部活も2回あるだけで、あとは麗奈と一緒ということになる。問題は世界がピンク色に見えるような事態にならないようにすること…
麗奈の感情は変化を見せてるが、最初から変化しないのが俺を襲うことである。いずれこれも変化する時が来るのか… とにかく今日は親が近くにいる状況での変なスリルを味わうことは無い。
昼ごはんにはまだ早いので、今度二人でどこへ行こうかなどの相談をする。なんだかんだと話をしていて一つ思い出したので麗奈に言ってみた。
「麗奈、一つお願いがあるんだけど」
「なに?」
「今日、都合ついたら直人らを晩御飯に招待してやりたいんだけど…」
「別にいいよ」
「直人に麗奈の料理はすごく美味しいって言ったら、今度食べさせてほしいって言われて…」
「それじゃ、頑張っちゃおうかな」
「お願いするね」
そう言って麗奈に優しくキスをした。
夕方になって、直人と裕子がやってきた。直人に電話したら何があっても食べに行くって言っていた。
「麗奈ちゃんの晩御飯食べに来たよー」
裕子が元気に言うと
「麗奈さんゴチになります」
直人がそう言って麗奈にお礼を言っていた。麗奈も楽しそうに料理に励んでいる。やっぱり手際が良い。
「そう言えば、裕子は料理できるの?」
俺が尋ねてみた。前から気にはなっていたが…
「あんまりできないかな… そんなに上手だったら、直人にお弁当作ってるよ」
「ま、そうだよな。家で練習しないの?」
「部活あるからね…」
やっぱり裕子は見た感じ通りで、どちらかと言うと男っぽい。
料理も出来あがり皆で食事を始める。今日は鶏肉のソテー、ロールキャベツ、サラダなど。部活のある俺達のために肉料理が多めになっている。ソテーにかかるソースは麗奈に作ってもらうとほんとうに美味しい。ロールキャベツのスープも最高。
「ほんとに美味しいな。麗奈さんマジに料理上手すぎる…」
直人の感想。
「麗奈ちゃんすごい。お店屋さんより美味しい」
裕子の感想。
「な、凄いだろ。俺は麗奈の料理が無いと生きていけないね」
そう言うと麗奈はすごく嬉しそうに微笑んだ。
「凄い美人で料理も最高、健司 お前恵まれすぎてるぞ」
「そんなことは前から自覚してるよ。俺も麗奈には感謝してる」
「よかったらまたみんなで食べようね。頑張って作るから…」
麗奈が笑いながらそう言ってくれた。本当に麗奈はハイスペックだ。感謝してます。
それからみんなで色々話してると、急に直人が
「そう言えば麗奈さんは、何で健司に彼女いなかったか聞いてます?」
「そういえば細かい理由は聞いたことなかったかな…」
直人、余計なこと喋んじゃねーよ。俺の黒歴史をばらしてどーする。
それから直人と裕子は俺の黒歴史を事細かに麗奈に話していった。俺も妨害はしたが、やがて諦めた。話を聞いてた麗奈は目から涙を浮かべて笑い転げていた。麗奈さん、楽しんでいただけて何よりです…
麗奈は大うけしていて、俺の顔を見るたびに吹き出しそうになっていた。そんな顔を見ていた裕子が
「麗奈ちゃんて、本当に笑った顔可愛いよね」
と言った。俺もそれには頷いた。俺の最も好きな顔だ。
ただ、今だけは笑えない……
やがて、直人と裕子は帰っていき、俺と麗奈が二人になるが… いまだに俺の顔を見ると麗奈は笑いが込み上げてくるようだ。 麗奈、どんだけウケてるの…
「健司君も… ぷ… 苦労… ふふ … したんだね」
素直に笑っててもらっていいから… そんな慰め要らないから…
その晩は麗奈はある意味妙な笑顔で微笑んでいた。




