旅行2日目
次の日
昨日遅くまであまり人には言えないことを頑張った二人だが、早朝の山景色を見るために頑張って早起きした。
「健司君、やっぱり空気が美味しいね」
昨日あれだけ頑張ったのに… 麗奈さん、その生命力の源は…
「そ~だぁねぇ~…」
「健司君、ちゃんと起きなさい」
「麗奈のせいです。今起きてるのが奇跡なぐらいです…」
「そんな年寄りくさい事言わないの」
「でも、やっぱり朝は冷えるな」
「結構霧もかかってるもんね」
「ロッジに帰ってもう少し寝てから出発しよ」
「え、健司君… まだ私と寝たいの… キャッ」
「そういう意味ではありません…」
これ以上したら、ほんとに世界がピンクになっちゃうよ……
ロッジに戻り少し寝てから朝食をとり、4時間コースの散歩をすることにした。今日はどうしても行きたい場所がある。
梓川の左岸から出発し、河童橋など有名スポットを巡りながら右岸にわたり一周するコースである。少し遅めにロッジを出て、有名なポイントを廻っていく。とにかく梓川の水が透き通って綺麗であり、麗奈もびっくりしていた。
河童橋から穂高を見る光景はよくパンフレットに使われている。とにかくどこを見ても自然のままの風景で、そこにいるだけで和むことが出来る。麗奈も目をキラキラさせながら変化する風景を楽しんでいる。
「健司君、本当に綺麗な場所だね」
「そうだろ、俺も凄く気に入ったんだ」
「何もしないでもここにいるだけでいいね」
「本当だね。俺らが住んでる町とは別世界だ」
時間をかけてゆっくりと見ていき、適当に昼食をとり3時くらいに一度ロッジに戻る。
ここから、俺のやりたいことがある。麗奈に
「頼んでいたワンピース持ってきてるよね?」
「あるよ」
「それに着替えてくれる?」
「いいけど…」
麗奈はすぐにワンピースに着替えてくれた。俺は旅行鞄から麦わら帽子を取り出して麗奈に被せる。
「それじゃ、俺の行きたい所へ一緒に行こう」
そういって、麗奈とロッジを出て行った。俺が向かうのは「大正池」だ。しばらく歩くと大正池に到着したが、俺は携帯で写してきた1枚の写真の画像を見ながら池の周りを歩いていく。ふと見ると、画像と全く同じ景色の場所に気づき、ここで立ち止まる。
「麗奈、悪いんだけどあそこに立ってくれる?」
俺は麗奈に頼んで、ある場所に立ってもらった。日も傾きかけ始めて夕暮れ前になっている。
麗奈は池のほとりで夕日を浴びている。
白いワンピースが風に揺らめき、麦わら帽子を片手で押さえて夕日を浴びる麗奈の姿…… それは本当に美しかった。知らない間に俺は涙を流していた。そこは数十年前に母さんが立っていた場所だ。同じ場所に麗奈に立ってもらい、俺が父さんと同じようにそこにいる最愛の人の写真を撮る。
ただ、麗奈はあまりにも美しかった。人間は本当に感動すると知らぬ間に涙が出るらしい。俺は麗奈の姿を見て感動していたのかもしれない。
「健司君、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。麗奈 とても綺麗だよ」
そう返事するのが精いっぱいだった。今回の旅行ではこの場所でどうしても俺の最愛の人、麗奈の写真を撮りたかった。本当に満足のいく写真が取れた。この写真は俺の宝物だ…
その後は夕暮れの水辺を麗奈と眺めながら話をしていた。
「本当に綺麗な景色。あっという間に1日が終わってしまうのね」
「そうだな。でもまた明日には明日の景色を見せてくれる」
麗奈と寄り添い時折キスをしながら夕暮れ時の美しい眺めを二人で見ていた。
それからロッジに帰り夕食を食べて、今日も星空を見に行く。
「今日でこの星空ともお別れだね」
「また来ような、麗奈」
「もちろん。今度は3人になってたりしてね」
「俺達に子供が出来たら、絶対にこの景色は見せてやりたいな」
「健司君、私にプロポーズしてくれると子供は早く見ることはできるよ。エヘッ」
「俺が大学を出るときにプロポーズでも何でもしてあげるよ」
「それじゃまだまだ先になっちゃう… プロポーズの先行予約受付中だから、今すぐでもいいよ」
「そんな便利なものがあるんですかねぇ~」
二人で笑いながらいろんなことを話した。
ロッジに帰り風呂に入って今夜もアレがアリかナシかの議論の後に二人で愛し合った。今日は昨日の疲れと今日の疲れが重なり、二人ともすぐに眠った。
麗奈を胸に抱えながら寝るのはいつものことのようになっていた。今は多分二人ともこの状態が当たり前だと思っている。どちらか一方が欠けることなんて、二人とも考えられない……
次の日も早起きして、早朝の景色を堪能する。今日は穂高ロープウェイに寄ってから帰宅の予定なので朝食も早く済ませてすぐに出発。麗奈も名残惜しそうに風景を眺めていた。楽しみにしていた旅行も今日で最終日である。
「健司君がこの場所を選んでくれて本当に良かった」
「麗奈にそう言ってもらえて俺も良かったよ」
「これから色んな所に二人で一緒に行こうね」
「そうだね。ずっと一緒に居れれば必ず行けることになるよ」
「私は離れる気ないよ」
「俺もそうだよ」
二人でそんな話をしながら、今日の予定地を巡って帰りの列車に乗った。
「本当に楽しかった。絶対にまたどこか行きたいね」
「今度はどこにしようかだな…」
「明日から現実が待ってると思うと何か嫌になるね」
「麗奈は受験生だしね… 俺も練習試合とか増えてくるしな…」
「何か今日は寂しいな…」
「だったら、俺の家に泊まってから明日帰る?」
「うん、そうする」
麗奈は嬉しそうに笑った。健司も何となく今日はもう少し一緒に居たかった。
こうして二人での初めての旅は終了となった。
その日の晩
昨日は早めにゆっくりと眠れたので、麗奈は元気であった。ということは今晩は健司が眠れないという方程式が成り立つ。




